症例5

問診

Dr:はじめまして。今日はどうされました。
Daughter:父のことなのですけど、以前から肝臓が悪くって、ずっと通院していたんだけど、この不景気でリストラにあってからは郷里に帰って来ていました。それからは半年ほどまったく医者にみてもらっていなかったのです。
Dr:それで具合はいかがですか。
Daughter:食事のときなど声をかけるとなんとか起きているんですけど、あとは1日中家でボーとしている感じでなんです。話もちぐはぐなことを言う時があって。
Dr:引っ越される前にみてもらっていた先生は病気のこと何ていわれていました。
Daughter:肝硬変とかって。でも、特に体の調子は良かったので、その時はあまり気にしていなかったのですが。
Dr:お酒やお薬は飲んでいましたか。
Daughter:お酒はほとんど飲みません、お正月にちょっともむ程度です。以前は先生から肝臓の薬をもらっていたのですが、この半年は飲んでないと思います。
Dr:ご家族で肝臓が悪い方が他にいらっしゃいますか。
Daughter:いません。毎年検診を受けていますが、肝臓が悪いと言われたことはありません。

身体所見

身長:170cm、体重:60kg。
体温:37.5℃、血圧:120/64mmHg、脈拍:100/分・整、呼吸:12/分。
眼瞼結膜:貧血を認める。球結膜:黄疸を認める。
胸部:心音は清、呼吸音に異常を認めない。前胸部にくも状血管拡張を認める(写真)。
腹部:腹壁は膨隆して軟。肝を正中で1横指、右鎖骨中線で2横指触知する。肝の辺縁は鈍で、表面は小結節状、硬度は弾性硬、圧痛は認めない。脾・腎は触知しない。
四肢:両側下腿に軽度浮腫を認める。チアノーゼは認めない。
神経学的検査:
意識:傾眠状態だが、普通の呼びかけで開眼する。見当識は今日がいつだか言えないが、場所と人についてはほぼ答えることができる。
運動系、知覚系神経:異常は認めない。羽ばたき振戦を認める。
腱反射:正常、病的反射は認めない。
小脳機能:異常は認めない。

検査成績

尿所見:pH5、蛋白−、糖+、ケトン体−、ビリルビン+、ウロビリノーゲン+。

血液所見:赤血球303万、Hb 11.5 g/dl、Ht 34%、白血球9,500、血小板10万。


血清生化学所見:Na 132 mEq/L、K 4.5 mEq/L、BUN 25 mg/dl、Cr 1.1 mg/dl。総蛋白6.5g/dl、アルブミン2.5g/dl、総ビリルビン3.5 mg/dl、直接ビリルビン2.5 mg/dl、AST 70 IU/L(基準40以下)、ALT 50 IU/L(基準45以下)、アミラーゼ80単位(基準180以下)、アルカリフォスファターゼ450単位(基準260以下)、γ−GTP 350単位(基準8〜50)、TTT 14単位(基準0.6〜9.4)、ZTT 17単位(基準4.0〜14.5)、コリンエステラーゼ200単位(基準400〜800)、空腹時血糖値 200mg/dl、総コレステロール120mg/dl、中性脂肪60mg/dl、プロトロンビン時間 50%、血中アンモニア 250μg/dl(基準70以下)、Fisher比 0.5(基準3.0〜3.5)。

HBs抗原 陰性、HBs抗体 陰性、HCV抗体 陽性。

前胸部の写真

        前胸部 くも状血管拡張.jpg (199350 バイト)

脳波:全体に4〜7Hzのθ波が基調で、三相波が出現している。

 

腹部超音波検査

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腹部CT検査

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腹部動脈造影

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問題

1. 意識障害について
1)肝性脳症の分類とこの症例はどれに相当するか?

2)肝性脳症の発生機序は?

3)治療はどうするか?

2. 肝の画像診断について
1)肝細胞癌の超音波およびCT所見の特徴について説明しよう。

2)肝細胞癌の治療法にはどのようなものがあるでしょう。

3)経皮経肝的肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization:TAE)の適応、あるいは禁忌は何でしょう。

3. 肝細胞癌に特異性が高い腫瘍マーカーは何でしょう。


4. 肝硬変患者の経過をみていく時のポイントは何でしょう。

 

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