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【論文発表】生化学Ⅱ・池田助教「血管形成の新しい調節機構について」

生化学Ⅱの池田助教、米倉教授らが、血管形成を引き起こす血管内皮増殖因子(VEGF)の働きを調節する新しい機構について明らかにし、その成果がBiochemical Journalの6月1日号に掲載されました(電子版は既に公開済)。

URL:http://www.biochemj.org/bj/436/0399/bj4360399.htm

Hypoxia down-regulates sFlt-1 (sVEGFR-1) expression in human microvascular endothelial cells by a mechanism involving mRNA alternative processing.

Ikeda T, Sun L, Tsuruoka N, Ishigaki Y, Yoshitomi Y, Yoshitake Y, Yonekura H.

Biochem J. 2011 Jun 1;436(2):399-407. (インパクトファクター:5.155)

■血管は癌や糖尿病性網膜症などの多くの病気の発生に深くかかわっており、その際には異常な血管の形成(血管新生)が引き起こされます。血管新生を引き起こす主要な因子が血管内皮増殖因子(VEGF)で、血管細胞の細胞膜上に埋まりこんだ受容体(VEGF受容体)に結合することにより細胞に血管新生の指令を送ります。池田助教らは、このVEGFの受容体であるFlt-1(VEGF受容体1)のメッセンジャーRNAをつくり出す途中で、一部が違う加工ルートに入り、細胞膜に埋まらない可溶型のFlt-1をつくり出すメッセンジャーRNAを生み出す過程(mRNA alternative processing)の調節機構の一端を明らかにしました。可溶型のFlt-1が増えれば、VEGFが血管細胞に到達する前にトラップされて働かなくなりますので、血管新生が抑えられることになります。また低酸素状態は「血管を増やせ」という強い刺激として作用することがわかっていますが、池田助教らは低酸素で可溶型Flt-1メッセンジャーRNAの産生が顕著に低下することを見出しました。これによりVEGFが働きやすくなって血管新生が一層促進されると考えられます。今回の血管新生がメッセンジャーRNAの加工段階で調節されているという発見は、生体が血管の形成をコントロールする新しい仕組みの一つを明らかにしたとともに、血管新生の人工的制御を行い得る新しいポイントを見出したという点でも重要であると考えられます。

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