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【新成果】自己免疫脳炎の記憶障害メカニズム解明(生理Ⅰ・総合医学研究所・神経内科)

20歳の女性に突然起こる記憶障害、しかし血漿交換で迅速に回復。このような事例は、神経組織への自己抗体が患者体内で作られる自己免疫性 脳炎でよくある。自己免疫性脳炎での記憶障害の発症と軽快が、NMDA受容体(グルタミン酸受容体のひとつ)への抗体の産生と除去に対応していることを、 張清研究員(生理学Ⅰ/総医研;中国・同済医学院より出向)、田中惠子教授(神経内科学)、加藤伸郎教授(生理学Ⅰ/総医研)らのチームが発見した。米国 専門誌ニューロバイオロジー・オブ・ディジーズの電子版サイトにて公開された。

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0969996111003329

大脳皮質での情報処理は、神経細胞同士がグルタミン酸をやり取りすることで成立する。NMDA受容体はグルタミン酸を受け止める蛋白質であり、抗 NMDA受容体抗体はこの受容体の働きを妨害する。この受容体が働かないマウスでは学習が妨げられる。今回の研究で、自己免疫脳炎の患者さんの脳脊髄液を マウス海馬に投与すると、記憶状況を査定するためのテストモデルであるシナプス可塑性(LTP)が抑えられた。血漿交換治療を模して、脳脊髄液から抗 NMDA受容体抗体を除去すると、LTPが正常化。これにより、患者体内で作られる自己抗体のうち特に抗NMDA受容体が、自己免疫性脳炎での記憶障害の 原因と考えられることが分かった。

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