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【論文発表】生理学Ⅰ/山本亮助教・加藤伸郎教授「強い情動に伴う瑣末な記憶」の神経メカニズム提唱

 J.F.ケネディ大統領暗殺(1963年)のニュースが流れた時、何をしていたか覚えている高齢者は多い。強い情動を伴うと、何げない日常生活のひとコマが50年も記憶に残る。これと関連する可能性のある神経メカニズムを、本学生理学Iの山本助教・加藤教授らのチームが発見した。国際脳研究機構(IBRO)誌ニューロサイエンスのホームページに、15日までに印刷待ち原稿としてアップロードされた。
 
 大脳の一部である扁桃体は不安・恐怖感情を制御する情動中枢である。サルで扁桃体が壊れると毒ヘビを恐れなくなるなど、情動の異常が起こる。一方、セロトニンが不足するとうつ病が起こり易くなるとされ、扁桃体とセロトニンが相呼応しあって情動制御している。扁桃体の神経細胞では、ある原因で発生して伝わって来る信号(神経活動)が弱い場合、通常ならそこで消滅してしまう。その結果、「ある原因」は忘却の彼方へ去る。ところが、その直前に別の原因が強く作用して著しい神経活動が起こっていると、弱い信号と言えども消滅することなく救われて、他の脳部位へ伝わる。この救われた信号が、記憶定着のための神経回路に伝わると、50年も続く長期記憶となっていく可能性がある。セロトニンが不足するとこの選択メカニズムは働かない。
 
 今回発見した神経メカニズムは、全帆的シナプス伝達抑制と後スパイク過分極という2つの過程から成り立っている。神経細胞(ニューロン)の興奮性制御機構として、それぞれ単体としては既に知られている事象であるが、これらが扁桃体において巧妙に組み合わされて出現することを見出したのは世界初である。

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