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【論文発表】精神神経科学/大井 一高講師らの論文"Variability of 128 schizophrenia-associated gene variants across distinct ethnic populations"がTranslational Psychiatry誌に掲載されました

 統合失調症は、民族差なく人口の約1%が罹患し、80%の高い遺伝率を示す多因子遺伝疾患であり、病態には多数の遺伝子が関与している。これまでに、Psychiatric Genomics Consortiumにより世界中から36,989名の統合失調症と113,075名の健常対象者サンプルを集めて行われた大規模な全ゲノム関連解析研究(Genome-wide association study: GWAS)では、108ゲノム座位に存在する独立した128個の遺伝子多型が疾患の病態に関わることを見出している。しかし、この大規模GWASは世界中からサンプルを集めているが、サンプルの大部分はヨーロッパ白色人種由来であり、アジア人サンプルは1,836名の統合失調症と3,383名の健常者に限られる。
 本研究では、統合失調症は民族差なく1%の頻度で罹患し、遺伝率は80%であるというエビデンスに基づき、大規模GWASにて同定した128個の遺伝子多型の民族間の差異を検討した。1000 Genomes ProjectにおけるAfrican(AFR)、American(AMR)、East Asian(EAS)、European(EUR)、South Asian(SAS)サンプルを用いて、民族間における128個の遺伝子多型のアレル頻度のばらつき(Variability Index: VI)を算出した。
 VIを用いてうまく民族間におけるアレル頻度のばらつきを検出できた。例えば、ばらつきの最も小さいrs36068923のEAS, EUR, AFR, AMR, SASのマイナーアレル頻度はそれぞれ0.189, 0.192, 0.256, 0.183, 0.194であった。一方、ばらつきの最も大きいrs7432375は0.791, 0.435, 0.041, 0.594, 0.508であった。さらに、GWASの主な構成民族であるEURとEAS間で128個の遺伝子多型のアレル頻度の差異を検討したところ、約70%に民族間のアレル頻度に有意な差異を認めた。しかし、Polygenic risk scoreの概念の様に、128個の遺伝子多型のアレル頻度を平均すると、民族間で差異を認めなかった。以上の結果より、個々の遺伝子多型が疾患に寄与する割合は民族間で異なるが、その総和では違いを認めず、このことが民族差なく約1%の生涯罹患率に繋がっているのではないかということが示唆された。
Translational Psychiatry



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