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オルファクトシンチグラフィにより特発性嗅覚障害の予後を診断 耳鼻咽喉科学 志賀英明准教授らの論文"Prognostic value of olfactory nerve damage measured with thallium-based olfactory imaging in patients with idiopathic olfactory dysfunction"がScientific Reports誌に掲載

 におい分子は鼻腔の嗅上皮に吸収されると嗅神経細胞の嗅覚受容体と結合し、嗅神経細胞が刺激され嗅神経軸索の投射先である頭蓋内の嗅球(第1番脳神経先端)に嗅覚刺激が伝達される。一方で嗅神経は非常に細いため通常の画像検査では評価が困難である。これまで感冒や外傷など原因が明らかな嗅覚障害患者の予後診断には、通常の嗅覚閾値検査や、MRI画像における嗅球体積値などが有用とされてきたが、原因不明で発症した特発性嗅覚障害患者の予後診断は困難であった。 
 本学と金沢大学の共同研究チームによる臨床試験において、新規嗅神経分子イメージングの“オルファクトシンチグラフィ”により、特発性嗅覚障害患者で嗅神経の減少が少ないケースでは嗅覚のすみやかな改善を認めた。これまで予後因子と考えられていた通常の嗅覚閾値検査や嗅球体積値は、特発性嗅覚障害患者の予後とは関連を認めなかった。本研究では漢方治療(当帰芍薬散)を行なったが、治療開始前にオルファクトシンチグラフィにより予後良好と推測された症例を選択すれば、奏効率の向上につながると考えられる。
 以上の研究結果は一般的に難治である特発性嗅覚障害の予後診断の精度向上に大きな進歩であると考えられる。また原因不明である特発性嗅覚障害はひとつのまとまった病態ではなく、予後因子に従って複数の患者病態群に分類できる可能性があり、病態グループごとで異なった治療法を適用することでより治療精度を高めることができると考えられる。これは近年クローズアップされてきたプレシジョン・メディシンの目指す方向性にもかなっている。
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