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精神神経科学 大井一高講師らの論文"Spatial and temporal expression patterns of genes around nine neuroticism-associated loci."がProgress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry誌に掲載されました

 神経症傾向 (Neuroticism)はパーソナリティー傾向の1つであり、Neuroticismが高値を示す人は、うつ病、双極性障害、統合失調症、神経性無食欲症などの精神障害だけでなく糖尿病、冠動脈疾患などの身体疾患に罹患するリスクが高くなることが知られています。また、Neuroticismは脳構造や機能と関連することも知られています。最近のNeuroticismの全ゲノム関連解析 (GWAS)では、Neuroticismと関連する9個のゲノム座位を同定しています。脳の発達や機能は、脳部位や発達時期特異的な遺伝子発現により制御されています。本研究では、死後脳データベースを用いて、Neuroticismと関連する9個のゲノム座位に存在する遺伝子群において脳部位・発達時期特異的に発現している遺伝子を見出し、その機能を同定することを目的としました。9個のゲノム座位の中で、GWASで最も強い関連を示した遺伝子多型近傍の9個の遺伝子のうち、7個の遺伝子は脳組織特異的に発現する遺伝子であることが分かりました (GRIK3, SRP9, KLHL2, PTPRD, ELAVL2, CRHR1, CELF4)。これらの遺伝子は、グルタミン酸ネットワークと関連していました。我々は、統合失調症のGWASで同定された遺伝子は、主に胎生期や青年早期特異的に発現する遺伝子が多いことをこれまでに報告していますが、Neuroticismと関連する遺伝子は、遺伝子発現のパターンから胎生期特異的に発現する遺伝子群 (PTPRD, ELAVL2, MFHAS1)、出生後特異的に発現する遺伝子群 (KLHL2, CELF4, CRHR1)、発達時期非特異的に発現する遺伝子群の3つに分類できました。これらの結果より、これまでにNeuroticismとグルタミン酸系が関連するという報告はなく、グルタミン酸系が新規の治療ターゲットになり得ることを示唆しています。また、Neuroticismは様々な発達時期の発現する遺伝子の影響を受ける複雑なパーソナリティー傾向であることを示唆しています。
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