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糖尿病内分泌内科学 金崎啓造「COMT不全はマウスにおいて糖代謝恒常性を破綻させる」を発表(Scientific Reports)

我々はcatechol-o-methyltransferase(COMT)不全が妊娠高血圧腎症の病態に寄与することを報告してきました(Nature 2008, AJP 2010, Hypertension 2017)。糖代謝異常・インスリン抵抗性は妊娠高血圧腎症の一つの特徴ですが、これら症状を包括的に鑑みた病態生理説明は未だ試みられていません。COMTは生体内のカテコール代謝に重要な役割を有し、カテコールアミンの非活性化のみならず、カテコールエストラジオールを2-メトキシエストラジオール(2-ME)に代謝します。2-MEは異常血管新生抑制、抗炎症、血管攣縮抑制など多彩な作用を有し、正常妊娠では2-ME血中濃度が上昇するところ、妊娠高血圧腎症では低下することも以前報告しました(Nature2008)。今回の報告では高脂肪食摂取や妊娠自体が肝臓におけるCOMT不全の原因となること、COMT阻害薬投与やsiRNAによる抑制はさらなる耐糖能異常を惹起すること、それら代謝異常が2-ME投与により病態モデル依存的にインスリン抵抗性是正あるいはインスリン分泌刺激を介して改善することを明らかとしました。また糖尿病治療薬メトホルミンによる高脂肪食下糖代謝改善効果がCOMT依存である可能性も明らかとしました。2-MEにPPARg活性があることを最近報告しましたが(Hypertension2017)、本報告でも2-MEによるPPARg活性は脂肪組織や肝臓で重要な役割を演じておりました。培養細胞実験では2-MEにb細胞保護効果がある可能性も示唆されました。これらの結果は、COMT不全が妊娠高血圧腎症とメタボリックシンドロームや2型糖尿病に共通の分子機構であること、COMT不全是正や2-ME投与が共通の治療戦略となる可能性を示しております。

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