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【論文発表】 精神神経科学 大井一高講師らの論文"Cognitive Clustering in Schizophrenia Patients, their First-Degree Relatives and Healthy Subjects is Associated with Anterior Cingulate Cortex Volume"がNeuroImage: Clinical誌に掲載されました

 認知機能障害は、統合失調症患者だけでなく、その非罹患第1度近親者においても認められる統合失調症の中核症状です。しかし、認知機能障害の程度には、統合失調症患者、非罹患第1度近親者、健常者といった診断間だけではなく、診断内でも個体差があります。クラスター分析はある特定の検査値のみを用いて対象者をいくつかのグループに分けることができることができる解析手法です。本研究では、統合失調症患者、非罹患第1度近親者、健常者といった診断を用いずに、統合失調症認知機能簡易評価尺度(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia;BACS)の検査結果のみを用いて対象者を3群化することで、より認知機能の均質なグループを見出すことを目的としました。
 予想されたように、統合失調症患者、非罹患第1度近親者、健常者間において、注意機能などBACSのいくつかの認知機能について群間差を認めました。続いて、BACSを用いて対象者を3群にクラスタリングすることで、認知機能障害の程度による(i)認知機能正常群、(ii)中等度認知機能障害群、(iii)重度認知機能障害群に分けることができました。認知機能クラスタリンググループは、主に統合失調症患者、非罹患第1度近親者、健常者という診断の影響を受けていました。すなわち、(i)には健常者、(ii)には健常者と非罹患第1度近親者、(iii)は統合失調症が多く含まれるという結果でした。一方で、統合失調症患者の中にも(i)が10%、(ii)が40%含まれることは、統合失調症における認知機能障害が均質な障害でないことを示唆しています。
 さらに、その認知機能クラスタリングの臨床的重要性を検討するために、統合失調症患者、非罹患第1度近親者、健常者といった診断や認知機能クラスタリングが脳構造に及ぼす影響をVoxel-based morphometry(VBM)を用いて検討しました。そこで、これまでの報告のように、前頭側頭葉や前部帯状回体積が統合失調症患者では小さいことを見出しました。同様に、認知機能クラスタリングが前頭側頭葉や前部帯状回体積と関連することを見出しました。これは、診断グループと認知機能クラスタリンググループに含まれる対象者が重複するため予測可能な結果です。しかし、診断効果を認知機能クラスタリング効果にて補正しても前頭側頭葉は有意に統合失調症患者で小さかったのに対して、前部帯状回体積の差はなくなってしまいました。これは、前部帯状回体積が認知機能とより密に関連していることを間接的に示唆する結果になります。今後、さらに認知機能に関連する前部帯状回体積を調べることで、統合失調症の病態解明が発展することを期待しています。

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