研究関連

 当教室では、難治性がんの新たな治療法開発をテーマに研究しています。なかでも、胃癌は今なお日本人ならびに東アジアにおいて非常に高い罹患率と死亡率となっています。とくに、当研究室では、今なおアンメットニードである難治性のスキルス胃癌に対する新規標的治療法の開発を主な研究テーマにしています。 皆さんご存知のように、胃癌は本国ではいまだ高い死亡率を有し、罹患率も第2位と一向に減少の兆しがありません。進行すると肝転移と腹膜播種をおこし、治療に難渋します。肝転移をおこす細胞集団は、主に高分化型腺癌が主で、胃癌で唯一分子標的治療の標的となっているHER2という増殖因子を異常発現する細胞集団もこの肝転移群に入ります。その一方で、腹膜播種(腹水貯留を伴う癌性腹膜炎)をおこす細胞集団は、低分化腺癌や印環細胞癌といった胃癌細胞のなかでも悪性度の高い細胞集団となります。これらの細胞集団に特異的に発現し治療標的となりうる分子標的マーカーはいまだ明らかにされていません。そのため、効果的な分子標的治療薬の開発も進まず治療成績は改善しません。昨今のがんゲノム解析技術を用いて、これら腹膜播種をおこす細胞群に新たな治療標的となる遺伝子異常(がんが遺伝子の変異を起こしやすく、それら変異が異常ながんの増殖に関わっている)を見出そうとする試み(TCGA解析)もされましたが、このいわゆる「びまん性胃癌」とよばれる腹膜播種を起こす能力をもつ細胞集団の詳細な解析からも、なんとその細胞集団の8割が遺伝子の変異をもたない(Genomic Stable;GS)という結果が明らかとなりました。すなわち、治療標的となる遺伝子の異常が非常に少ない、あるいは見出せない可能性が高いことが判明したです。  私たちは、これまで胃癌転移の臓器特異性(肝転移をおこす集団、腹膜播種をおこす集団)の研究、腹膜播種が高頻度に合併する悪性腹水中の増殖因子に着目した研究、悪性腹水産生を主にもたらすしくみの研究、これら研究結果から、なぜ胃癌細胞のある集団が、特異的に腹膜播種をおこすか、腹水産生から一気に病態は悪化するのか、腹水産生がどのような機序でもたらされるのかを独自に明らかにしてきました。

 「成果を一刻も早く実用化し、患者さんやご家族の元にお届けすること」を理念とする国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED: Japan Agency for Medical Research and Development)の支援のもと、これまで非臨床研究である基礎から得られた多くの知見をもとに実用化を果たすべく研究開発の推進と成果の実用化に向け取り組んでいます。その一環として、名古屋大学が核となり、中部7大学と1国立研究センターからなる中部先端医療開発円環コンソーシアムに参加。連携を軸にわれわれがもつ次世代医療の開発シーズ(将来実を結ぶ可能性の高い研究)を、「びまん性胃癌の治療薬」として海外(PCT)特許出願を現在までに3つ果たしています。

 添付したポスターは、AMEDでの研究発表の一例です。ご参照ください。