メタボリックシンドロームの予防と改善のための食習慣の基本は、摂取エネルギーを消費エネルギーより少なくすること、そして運動です。食事療法による数kgの体重減少でも血糖の上昇、脂質異常、血圧の上昇が改善しますので、緩やかな1200kcal〜1800kcal(標準体重あたり25-28kcal・日)のエネルギーコントロール食が推奨されます。実際、メタボリックシンドロームである糖尿病予備群から糖尿病発症を検討したDiabetes Prevention Program研究の成果から、適切な摂取エネルギーおよび脂質制限を主体とした食事療法と運動療法による生活習慣の是正によって、糖尿病の発症が非介入群と比べ58%も抑制できることが示されています。

今回、メタボリックシンドロームと糖尿病の克服を目指した新たな治療手段としてご紹介するのは、上述した「摂取カロリー(エネルギー)制限」によって活性化される抗老化遺伝子サーチュインです。古くから健康長寿の秘訣として、「腹八分目」という言葉がありますが、まさしくカロリー制限によって、線虫や酵母が長生きすることから見出された遺伝子がサーチュインであり、長寿関連遺伝子(longevity related gene)と呼ばれています。ヒトのサーチュインは7種類(SIRT1〜SIRT7)あります。最近の研究成果から、カロリー制限によって活性化されるサーチュイン遺伝子は、長寿に関連する細胞修復、エネルギー生産、アポトーシス(プログラム細胞死)に好影響を与えるのみならず、インスリン抵抗性も改善することが明らかにされてきました。この作用をまとめてNature Review Endocrinologyに総説として報告しました。図に示しておりますように、サーチュインの活性化は、膵ベータ細胞からのインスリン分泌を亢進するだけでなく、インスリン抵抗性を改善するアディポネクチンの増加、また、インスリン抵抗性にかかわる炎症あるいは酸化ストレスを軽減する作用を発揮します。さらに、インスリン感受性臓器である脂肪細胞、骨格筋、肝臓において、インスリン作用を亢進します1)。したがって、このサーチュイン遺伝子を活性化させる新たな薬物が登場すれば、インスリン抵抗性が関連するメタボリックシンドロームや糖尿病の克服に繋がると考えられます。その他、サーチュインは癌抑制および認知機能の維持など重要な役割を果たしていることも見出され、現在、あらゆる研究が行われています。

さて、そんな夢のような薬があるのでしょうか?赤ワインに含まれているポリフェノール成分であるレスベラトロールはサーチュイン活性化作用を有しています。既に、アメリカSirtris社(http://www.sirtrispharma.com/)が開発したレスベラトロール(SRT-501)を服用した67人の糖尿病患者の血糖値は、偽薬群と比べて有意に低下したことが報告されています。また、メタボリックシンドロームを対象として、SRT-501のインスリン抵抗性改善作用を検証する治験も行われています(http://clinicaltrials.gov/show/NCT00654667)。その他、アルツハイマー病や大腸癌に対するレスベラトロールの効果も臨床的に検証されているようです。夢のような健康長寿を目指せる新薬が登場する日を期待しています。



文献
1) Fengxia Liang F, Kume S and Koya D: SIRT1 and insulin resistance. Nature Reviews Endocrinology, 2009



図.サーチュインのインスリン抵抗性改善作用