孝三郎の研究室

今は細胞医学研究部門です。

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(総合医学研究所年報抜粋)

<細胞医学研究分野活動状況 2013>
細胞医学研究分野
 細胞医学研究分野のメンバーは藤川孝三郎(教授)、宮越稔(講師)、山岸裕子(技術員)で昨年と同じだが、このメンバーでの最後の年度になった。研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で2003年以来10年間変らなかったが、最後の年度となった。退職直前はどんな研究ペースになるのやらと興味があったが、何も変わらず静かに終了した。培養細胞がカビの発生で全滅したことが実験を停止するちょうど良いきっかけとなった。今後4年間は宮越が独自で研究テーマを定め、研究を遂行する。2012年度の筆頭英語論文は2報で、1報目(Pluripotency of a polyploid H1 (ES) cell system without leukemia inhibitory factor. Cell Prolif 45:140,2012)は多倍体ヒトが生まれ難い理由を想像することができる実験結果を示し、2報目(Effects of etoposide on the proliferation of hexaploid H1 (ES) cells. Human Cell 25:45,2012)は染色体スキャホールドの存在理由にDNAフラクタル構造仮説に立脚した新たな視点を提案している。
 藤川(2013年3月定年退職)はマウス多倍体H1(ES)細胞を用いて研究していた。多倍体細胞としては、2倍体から4倍体細胞を作り(2007)、4倍体から8倍体細胞を作り(2009)、そして幸運から5倍体細胞(2010)と6倍体細胞(2011)を見つけ、5倍体から10倍体細胞(2011)を樹立し、6倍体細胞から12倍体細胞(2013)を樹立した。これらの細胞は12倍体を除く全ての細胞が多分化能を持っており、これらの細胞は全て液体窒素中に凍結保存されている。これらの多倍体胚性幹細胞の他、4倍体Meth-A細胞とか3倍体V79細胞などの多倍体がん細胞も保存されている。興味と自信のある研究者はどうぞ使ってみて下さい。管理は宮越が行っております。
 宮越はヒト色素性乾皮症(XP, Xeroderma Pigmentosum,常染色体劣性遺伝病)患者由来細胞の多倍体化を行っている。テロメラーゼを活性化させて不死化させた正常細胞やXP細胞を用いて4倍体細胞を樹立している。論文の受理も近いと思われる。
 山岸は培地の作成、試薬調整、液体窒素管理、FCM測定、染色体分散、そして細胞培養等の実験関係を担当していた。2013年度からは所属が分子腫瘍研究分野となった。
 実験室は人員の縮小に伴い、2013年度からおよそ半分に縮小された。それに伴い1980年代から溜まっていた多くの機器は宮越により思い切り良く全て処分された。
 本分野は部門時代を含め多倍体細胞をおよそ10年間研究してきた。構成員が筆頭の論文は10年間で37報、平均的な研究費は研究遂行には余裕があった200万円/年、受け入れた大学院生は中華人民共和国婦人学生1名(羅賢_、甲第390号)であった。
(文責 藤川孝三郎)

研究者名: 藤川孝三郎(教授)
研究課題: 多倍体培養細胞株の樹立と多倍体化がもたらす形質変換の研究
-多倍体細胞生物学の曙-
 年々の研究進捗を示すため1年間の研究成果のみを総医研セミナーで発表してきたが、平成24年度は退職記念講演となり、33年間の研究を総括した。33年間での筆頭英語論文は48報であるが、1993年から2013年までの20年間の34報は全て多倍体細胞の関係した論文である。1.7報/年の筆頭英語論文数は満足すべきと(悔いを持って退職してもつまらないので)考えることとした。早く年金生活に入りたかったが、金沢医科大学で生まれた多倍体細胞生物学を証拠だてる「多倍体細胞生物学特論」(仮名)という著書を残しておきたい気持ちもあり、一年間嘱託になることとした。
 2012年の筆頭英語論文は2報であるが、Pluripotency of a polyploid H1(ES)cell system without LIF, (Fujikawa-Yamamoto,et al.Cell Prolif 45:140-147, 2012) (IF=2.521)は自慢したい論文となった。簡単に言うと、「多倍体ヒトが生まれ難い(ヒト4倍体胎児は自然流産の2〜3%、染色体異常のある自然流産の5〜6%だそうです。)のは多倍体細胞が分化抵抗性であるから」となる。理由はわからないが、多倍体にするとLIF不含培地中でES細胞を未分化に保つようnanogのmRNA密度もNanogタンパク質密度も増加する。2倍体を除く4, 5, 6, 8, 10倍体ES細胞全てで起こったので、おそらく正しいであろう。Nanogタンパク質密度は4, 5, 6, 8, 10倍体の順で減少し、10倍体では痕跡程度となっていた。もちろんNanogタンパク質密度減少を説明する可能性ある機構も想像さえできなかった。そこでとりあえず6倍体から12倍体を作ると、期待通り、LIF+であろうがLIF-であろうが多分化能を喪失していた((Fujikawa-Yamamoto,et al.Human Cell 26:inpress, 2013) (IF=1.270)。すなわち、10倍体では痕跡程度であったNanogタンパク質密度は12倍体になると消失し、12倍体は多分化能を失ったと説明された。12倍体H1(ES)細胞がLIFの有無と無関係に多分化能を喪失するとは如何なる神の摂理によるのか?この問いにはおそらく当分答えることができない。
 なぜ多倍体ではnanog過剰発現が起こるのか、なぜ細胞内Nanogタンパク質密度は高倍体ほど減少するのか?現在の分子生物学及び細胞生物学では複数の相同染色体が存在する細胞(多倍体細胞)における遺伝子発現及び遺伝子タンパク質消化を説明することはできないであろう。多倍体研究はなお未開分野であり、2倍体での常識が多倍体での結果と一致する保障はどこにもない。レフリーが結果を説明をもできない分野。ある意味でこんな気楽な分野はない。嘱託教授の仕事は本の執筆であるので、出版後に余裕があったら多倍体細胞研究会を作ろうと思う。参加し、多倍体細胞を研究してみませんか。

退職記念特別講演 多倍体細胞生物学の曙
藤川孝三郎
 私が筆頭の英文原著論文は51報であるが金沢医科大学の33年間では48報である。学生時代の3報はT-Tエネルギー移動によるピリダジンS-T吸収スペクトル、フタラジン-重ナフタリン間の3重項-3重項エネルギー移動、常温液体中のキノキサリン燐光スペクトルであり、金沢医大で学んだ細胞生物学とはほんの少し目的と材料が異なる。
 金沢医大での最初の論文はJ.Cell.Physiol.に掲載され、著名な査読者から署名入りで絶賛された。単一の細胞が細胞集団を作ると非同調集団になる理由をV79細胞で実験的に証明した。初打席でホームランを打ったような気分だった。細胞周期関連の論文はその後コンピューターでの細胞周期解析ソフトの作成とか、BrdUを用いた細胞周期時間の解析法とか、Bloom症候群細胞にまで手を広げたが、多倍体細胞研究の始まりで終えた。
 染色体分取の練習として蛍光粒子の分取を試みたとき美しい粒子蛍光ヒストグラムが得られ、粒子貪食の研究も始めた。最初の論文が出た時は世界最初のSteinkampの論文が出て既に1年を経ており、誠に悔しかったことを覚えている。彼の研究はその後無かったので細胞の粒子貪食の解析式は最初のものになるかもしれない。
 多倍体研究は1993年の論文からである。HeLa-S3、L1210、B16 melanoma、K562、V79、B16F10、Meth-A細胞にデメコルチンを暴露するとHeLa-S3とL1210はM期で止まったまま、B16 melanomaとK562は一部が2倍体G1に行き、V79とB16F10とMeth-A細胞は4倍体G1に行き多倍体化した。当時、細胞周期はG1期→S期→G2期→M期の順で進むと思われていたが、実験結果を説明するためには各期に重ね合わせが必要であるとし、細胞周期の3重周期説を金医大誌上で提唱した。そして選ばれた細胞の多倍体化は容易に確実に起すことができることが判った。
 多倍体細胞を研究する上で問題となったのはDNAヒストグラムであった。例えば8倍体と2倍体細胞が混在する細胞集団のDNAヒストグラムをリニアスケールで表示すると2倍体のG1-M間の巾は8倍体の1/4となり、ヒストグラムを同じ精度で表すには対数スケールで描画することが必要となった。当時(そして今も)対数スケールの細胞周期解析ソフトは市販されていなかったので対数スケールDNAヒストグラムの解析ソフトを作製した。世間は多倍体に興味が無いのか未だに解析ソフトの問い合わせがない。
 当時はまだ過程に生ずる「多倍体化細胞」であり、安定した「多倍体細胞」ではなかったが、2001年に4倍体Meth-A細胞を樹立してからは多倍体細胞の研究となった。「多倍体化細胞」と「多倍体細胞」を区別したのはこれら細胞のゲノム構造が異なるからである。8倍体Meth-A細胞、3倍体V79細胞などを樹立し、2007年からはマウスH1胚性幹細胞を材料とし、多分化能を有した4、5、6、8、10倍体細胞を樹立した。
 全ての染色体は繋がっており、フラクタル構造を採るという仮説は1996年に山口大学名誉教授の高橋学が私本中に記載した。私は感動し、2006年に多倍体細胞を含む仮説論文を書いた。その後の論文ではこのDNAフラクタル構造仮説を用いて実験結果を説明しているが、査読者から異議があったことは一度も無かった。私の研究はここで終わるが、金沢医科大学で行った20年に亘る多倍体研究が多倍体細胞生物学という未開分野の一隅となることを期待する。

<細胞医学研究分野活動状況 2012>
 細胞医学研究分野のメンバーは藤川孝三郎(教授)、宮越稔(講師)、山岸裕子(技術員)で昨年と同じ。研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で2003年以来10年間変らない。研究はゆっくり落ち着いて静かに進行している。この10年間で多倍体ES細胞に関して多くの性質が明らかになった。@分裂阻止によってDNA量が倍加した偶数倍体細胞のDNA量は継代によって減少するが元には戻らない。A奇数倍体のDNA量は安定である。B多倍体細胞はNanog過剰発現が起こり、分化抵抗性である。これらは世界中のおそらく誰もが知らないマウス多倍体胚性幹細胞の性質である。Bの性質は多倍体動物の自然創成がなぜ禁制なのかを納得させるし、Aの性質は2倍体細胞ではどうにも出来なかった常染色体劣性遺伝病の治療に希望を与える。本研究テーマは実用にはほど遠いためか、世界の研究者には興味を持たれていない。しかしながら、それは弱小研究室が限られた予算で真理探究の自我を満足させ、そのプライドを保つことができる研究テーマの一つであると信じている。
 藤川はマウス多倍体H1(ES)細胞を用いて研究している。2倍体から4倍体細胞を作り(2007)、4倍体から8倍体細胞を作り(2009)、そして幸運から5倍体細胞(2010)と6倍体細胞(2011)を見つけ、5倍体から10倍体細胞(2011)を樹立した。またDNA減衰の2タイプを見出し(2011)、トポイソメラーゼが細胞内に多量に必要である理由を示唆した(Human Cell, 2012)。多倍体ES細胞はnanogの過剰発現で分化抵抗性であることを示し(Cell Prolif, 2012)、相同染色体の重複存在下での遺伝子発現機構解明の必要性を説いた。今現在は異数倍数体ES細胞の多分化能を成行きで行っている。Aneuploid ES細胞が分化誘導培地中で未分化性を保ったという事実は、がん細胞の無限増殖能と重なったが、この実験ももっと面白い新しい実験事実が得られればすぐに取って代わられるであろう。
 宮越はヒト色素性乾皮症(XP, Xeroderma Pigmentosum,常染色体劣性遺伝病)患者由来細胞の多倍体化を行っている。細胞としては30年間金沢医大で凍結保存していたXP細胞、その後、購入したXP細胞を用いて来たが、細胞自体の増殖が遅く、有限の分裂寿命(50細胞分裂程度)を持つため、多倍体化実験は遅々として進まなかった。最近、少し妥協して、無限増殖XP細胞を使い始めた。得られるDNAヒストグラムは格段に美しくなり、多倍体化も容易に行えるようになった。もちろんクローニングも可能である。今後この研究は格段に進行する事が予想される。
 山岸は培地の作成、試薬調整、液体窒素管理、FCM測定、染色体分散、そして細胞培養等の実験関係を担当している。最近、1995年以来17年間測定し続けたフローサイトメーター(FACSORT)のレーザーが寿命となった。部品の供給はもちろん既に無い。測定は少し大変になるかもしれない。拾って来た炭酸ガスインキュベーターも寿命となったので4万5千円で中古を買った。
 実験室では2週毎に実験室清掃と、それに続く研究打ち合わせ、そして細胞生物学解説書の輪読を行っている。清潔で機能的でコンタミネーションがない実験室となっている。
 本分野は多倍体細胞を研究しており、現在はマウスES細胞とヒトXP細胞を細胞材料としている。我々の多倍体研究には世界的競争がない。自分自身としては興味深いことを行っているのだが、当面役立たないからか皆は興味を持たない。(文責 藤川孝三郎)

研究者名: 藤川孝三郎(教授)
研究課題: 多倍体培養細胞株の樹立と多倍体化がもたらす形質変換の研究
-4倍体ヒトはなぜ禁制か?多倍体H1(ES)細胞の分化能-
 年々の研究進捗を示すため1年間の研究成果のみを総医研セミナーで発表しており,平成23年度は多倍体H1(ES)細胞の分化抵抗性がそれにあたる。この研究は論文(Cell Prolif 45:140-147, 2012)として掲載された。ES細胞の継代培養では通常白血病阻止因子(LIF)を加える。LIFは(2倍体)ES細胞を未分化に保ち、LIFを除去すればES細胞は心筋細胞や肝細胞や神経細胞などに分化してゆくことが知られていた。2, 4, 5, 6, 8, 10倍体ES細胞をLIF除去培地で継代したところ、2倍体細胞は分化したが多倍体細胞は未分化性を保った。Nanog遺伝子を過剰発現させるとLIF不含培地中でES細胞を未分化に保つことが山中伸弥グループの論文から知られていたので、遺伝子発現を調べた。Nanogとsox2とoct3/4を調べたが、sox2とoct3/4は2倍体細胞でも多倍体細胞でも一定のmRNA密度及びタンパク質密度であったが、nanogはmRNA密度の過剰増加とタンパク密度のDNA量逆比例が多倍体細胞で観察された。これは多倍体細胞が分化抵抗性であり、発生過程においては排除されるであろうことを示唆している。多倍体マウスの存在がなく(ES細胞と体細胞のハイブリッドを除く)、多倍体胚様体が形成されず、4倍体胚補完法が成立することなどは全て多倍体細胞の分化抵抗性で説明できるかもしれない。重複する相同染色体が存在する細胞における遺伝子発現機構はこれまで(ほとんど)研究されていなかった。我々は重複する相同染色体を持つ多倍体細胞を樹立保存している。これら細胞の遺伝子発現の研究結果はおそらく全てが新知見となるであろう。来年は定年で、全ての細胞は廃棄される。
 次ページ最初の掲載論文(IF=2.742)は安定な5倍体細胞から作った10倍体細胞は不安定になるというものである。この結果は我々のDNAフラクタル構造仮説を強く支持する。5倍体はDNA配置が非対称であるが故に安定であるが、一度DNA複製して、複製されたリングがジョイント部でリンクして、5倍体の倍数体(10倍体)になれば全ての染色体は面対称に配置されるためDNA量は不安定となる。予想通りの結果が得られた論文であった。
 2番目の掲載論文(IF=1.270)は偶数倍体でも安定多倍体ができるという論文である。これまで2倍体から作った4倍体、4倍体から作った8倍体、そして1番目の論文で示したように安定5倍体から作った10倍体細胞はいずれもDNA減衰を起こし、3.5倍体、6倍体、8倍体などになった。この論文では偶数倍体が問題ではなく、DNA構造(染色体配置、ゲノム構造)が倍数体の安定性を決めると暗示した。
 3番目の掲載論文(IF=1.270)はDNA減衰のパターンには2型があると述べた論文である。DNA減衰の実例を示し、徐々にDNA量が減少する型と1倍体単位で減衰する型があることを示した。これらの結果はDNAフラクタル構造仮説で説明された。徐々に減衰するものは近接相同染色体におけるDNA合成のバイパスで説明され、1倍体単位での減衰は1倍体単位でDNAを結んでいる結合装置の存在を暗示させるとした。また、もしも1倍体単位の結合装置があるならば、それは体細胞と生殖細胞に明確な区別を与え、生殖細胞において自動的な減数分裂を引き起こすことができるとまで述べさせてもらった。
 これら3つの論文の参考文献はほとんどが我々の論文だったのでレフリーはたいへんだったであろう。

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(総合医学研究所年報抜粋)

<細胞医学研究部門活動状況2011>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔(講師)、山岸裕子(技術員)、羅賢_(大学院生)で昨年と同じ。研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で昨年と同じ。研究はゆっくり落ち着いて静かに進行している。型にはまっていることだけから言えばマンネリ化しているとも言える。しかしながら世界中のおそらく誰もが知らないマウス多倍体胚性幹細胞の性質が着実に明らかになってきているのだから、この方向で良いと思う。弱小研究室が限られた予算で真理探究の自我を満足させ、そのプライドを保つことができる最良の方法のつもりでいる。
 藤川はマウス多倍体ES細胞を用いて研究している。2倍体から4倍体細胞を作り(Cell Prorif 2007)、4倍体から8倍体細胞を作り(Human Cell 2009)、そして幸運から5倍体細胞(J Cell Physiol 2010)と6倍体細胞(Human Cell 2011)を見つけ、5倍体から10倍体細胞(Cell Prolif 2011)を樹立した。またDNA減衰には徐々に減衰するものと単倍体単位で減衰するものがあることを見出し (Human Cell 2011)、単倍体ゲノム結合装置の存在を暗示した。研究の方向は定まっておらず、縁と流れにそって遂行している。多倍体胚性幹細胞が分化抵抗性である理屈がわからないので、太田隆英准教授にiPS細胞誘導遺伝子のウエスタンブロッティングとリアルタイムRT-PCRを測定してもらい、予想通りの結果が得られた。次の論文では「4倍体胚補完法」の単語も入れさせてもらったので、1990年以来不明であったその補完機構を読者に推測させることができるかもしれない。
 宮越はヒト色素性乾皮症(XP, Xeroderma Pigmentosum,常染色体劣性遺伝病)患者皮膚由来繊維芽細胞の多倍体化を行っている。XP細胞自体の増殖が遅く、有限の分裂寿命(50細胞分裂程度)を持つため、実験は遅々として進まない。4倍体XP細胞の紫外線に対する抵抗性(修復能)は正常細胞よりは低いものの、2倍体XP細胞よりは明らかに大きかったという前の実験結果をさらに確認しようとしている。有限の分裂寿命を持つXP細胞ではクローニング操作を実験手順に加える事ができず、多倍体細胞の凍結保存ができない。従って、一度実験に失敗するともう一度最初の多倍体化から行わなければならない。困難な(patient)研究である。
 山岸は培地の作成、試薬調整、液体窒素管理、FCM測定、染色体分散、そして細胞培養等の実験関係を担当している。
 は予定通り学位を取得できた。中華人民共和国には帰らず、武漢の出身解剖教室の主題である脳神経を学ぶためか、生理学I部門の研究生となった。今後を期待したい。
 実験室では2週毎に実験室清掃と、それに続く研究打ち合わせ、そしてクーパーの細胞生物学の輪読を行っている。清潔で機能的でコンタミネーションがない実験室となっている。
 本部門は多倍体細胞を研究しており、2005年10月からマウスES細胞を細胞材料に加え、5年半が経過した。その過程で作製したDNAフラクタル構造仮説も”The hypothesis is very interesting, and provide some evidence for the confirm it.”と日本人の査読者にも言ってもらった。我々の多倍体研究には時間的世界的競争がない。(文責 部門長 藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2010>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔(講師)、山岸裕子(技術員)、羅賢文(大学院生)で昨年と同じ。研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で昨年と同じ。研究はゆっくり落ち着いて静かに進行している。本部門の研究は細胞培養が主なので実験経費は比較的少なく、論文あたりの効率はかなり良いと思える。研究遂行は研究費に調和させて行っている。
 藤川はマウス多倍体ES細胞を用いて研究している。2倍体から4倍体細胞を作り(2007)、4倍体から8倍体細胞を作り(2009)、そして5倍体細胞を見つけ(2010)、最近10倍体細胞を樹立した(投稿中)。一応新知見であるから論文の形にしておかねばならないと考えているものがある。一つは6倍体H1(ES)細胞の論文で、偶数倍体なのにDNAは安定している。二つ目は多倍体細胞の終末倍数性に関する論文で、終末倍数性は非対称6倍体になるというもの。三つ目はLIF無培地での5,8,10倍体細胞に関するin vitroin vivoの相違を述べる論文。データは揃っているのだがなかなか手がつかず、そうこうしているうちに毎日データは蓄積され、古いものが陳腐に思えてくる。しかしながら、しばしの瞑想と気分転換は研究者には必要なことだと思っている。
 宮越はヒト皮膚繊維芽細胞の研究を行っている。昨年は常染色体劣性遺伝病である色素性乾皮症(XP, Xeroderma Pigmentosum)細胞の4倍体化を試みた。通常、デメコルチンで多倍体化してからクローニングするには40細胞分裂程度が必要になる。従って、有限(50細胞分裂程度)の分裂寿命を持つXP細胞ではクローニング操作を実験手順に加える事ができず、結果は2倍体XP細胞(C群)と4倍体XP細胞の混合物が得られる。4倍体XP細胞の紫外線に対する抵抗性は正常細胞よりは低いものの、2倍体XP細胞よりは明らかに大きかった。これはXP細胞のDNA修復能が倍数性の増加で改善されたことを意味すると思われる。
 山岸は培地の作成、試薬調整、液体窒素管理、FCM測定、染色体分散、そして細胞培養等の実験関係を担当している。
 はこの報告時では大学院の3年次であったが、現在は学位論文をまとめる4年次である。ES細胞を培養するときは通常LIF(Leukemia Inhibitory Factors)存在下で行う。LIFを除けば細胞は分化すると言われている。彼女はLIF不含下で細胞培養を続け、2倍体細胞は分化するが4倍体細胞は分化しないことを見出した。これは多倍体細胞では胚様体形成ができなかったことと調和した。4倍体胚補完法とも関係がないとは言えない。
 実験室では2週毎に実験室清掃と、それに続く研究打ち合わせ、そして基礎の積み上げという意味から、そして大学院教育の意味から、クーパーの細胞生物学の輪読を行っている。
 本部門は多倍体細胞を研究しており、2005年10月からマウスES細胞を細胞材料に加え、5年が経過する。昨年の多倍体胚様体作成の失敗も今から見れば多倍体細胞の多分化能保持性質と調和する。今なお、多倍体細胞は何が起こるか想像できない愉しみを我々に与え続けている。(2010.6文責 部門長 藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2009>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔講師)、山岸裕子技術員)、羅賢文大学院生)で昨年と同じ。研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で昨年と同じ。研究はゆっくり落ち着いて静かに進行している。本部門ができて6年となるが、6年間の総論文数は32報。内訳は欧文筆頭原著17/23、邦文筆頭総説8/9である。研究部門でもあり、もう少しペースを上げたいが、現方式での研究では、このあたりが限界なのかもしれない。
 藤川はマウス4倍体ES細胞を樹立し、4倍体から8倍体細胞も作成した(Human Cell 22: 64-71, 2009)。4倍体細胞はDNA減衰を起こし、8倍体細胞もDNA減衰を示した。ところが8倍体作成過程で偶然得られた5倍体H1(ES)細胞は3倍体V79細胞と同様、全くDNA減衰を示さなかった。また楽しみが増えたといったところである。新たな作業仮説を構築している。
 宮越はヒト皮膚繊維芽細胞の研究を行っている。2008年は4倍体正常ヒト皮膚繊維芽細胞を樹立した。4倍体細胞は2倍体細胞と同程度の速度で増殖したので、2倍体と4倍体細胞の共存は可能ということになる。非常に有意義と思われる研究を行っているにも拘らず、独自の研究速度が維持されている。細胞材料はWerner, XP, Bloom, ATと揃っている。それら細胞の多倍体化研究は例を見ないものであり、研究成果に期待が持たれる。
 山岸は培地の作成、試薬調整、液体窒素管理、FCM測定、染色体分散、そして細胞培養等の実験関係を担当している。
 は大学院の2年次となり、「マウスH-1胚性幹細胞の倍数性変化に伴う形質変換に関する細胞生物学的研究」という自由度の高いテーマを与えた。多倍体研究のよりいっそうの進展を期待する。少し大変だが、2週毎に論文を紹介することにしている。
 実験室では2週毎に実験室清掃と、それに続く研究打ち合わせを行っている。基礎の積み上げという意味から、そして大学院教育の意味から、クーパーの細胞生物学の輪読も行っている。
 本部門は多倍体細胞を研究しており、2005年10月からマウスES細胞を細胞材料に加え、既に3年半が経過した。昨年は胚様体の作成に精力を注いだが、拍動心筋細胞に分化できたのは2倍体だけで、4倍体も8倍体も拍動細胞を観測できなかった。およそ半年間の寄り道であったようだ。おそらく論文にはならないであろう。研究では現在が常におもしろい。2008年は既に通り過ぎており、なぜあの時、胚様体に手をだしたのかと悔いが残る。研究とはそんなものかもしれない。多倍体細胞は何が起こるか想像できない愉しみを我々になお与え続けている。(2009.6文責 部門長 藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2008>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔(講師)、山岸裕子(技術員)で昨年と同じ。研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で昨年と同じ。研究はゆっくり落ち着いて静かに進行している。2007年4月から羅賢文(大学院生)が加わったが、日常的に顔が会わない空間的環境にあるせいか、大きな変化は起こらなかった。
 藤川はマウス4倍体ES細胞を樹立した(Establishment of a tetraploid cell line from mouse H-1 (ES) cells highly polyploidized with demecolcine. Cell Prolif, 40: 327-337, 2007)。この論文は比較的興味深い論文らしく、とある国の賞の候補にもなった。4倍体から8倍体を作成した段階で6倍体も得られ、それらの高倍体細胞はDNA減衰を起こした。現在は少し混乱している。4倍体のDNA減衰は受理されている(Alteration and preservation of cellular characteristics in long-term culture of tetraploid H-1 (ES) cells. Human Cell 21: 18-27, 2008)。ともあれ、我々は3.3倍体と4倍体、6.6倍体及び8倍体の奇形腫瘍を得ることができ、その組織像を見ることができた。それは腫瘍の一部ではあるが、組織でも同様の形態を示すであろうと推測できる。初めて見る8倍体組織。2倍体組織との相違を観るには病理学者の眼が必要となるかもしれない。
 宮越はV79細胞の3-2遷移の論文に続き、4倍体V79細胞樹立の論文 (The establishment of tetraploid V79 cells using demecolcine.J Kanazawa Med Univ, 32: 170-175, 2007.) を著し、チャイニーズハムスターV79細胞シリーズの終息を図っている。現在はプローブの多いヒト皮膚繊維芽細胞に焦点を当てはじめた。彼の始めた多倍体研究は多倍体動物創成以上に臨床に直接役立つ研究となるであろうと推測される。宮越は2008年4月から大学院講師となった。
 山岸は培地の作成、試薬調整、液体窒素管理、FCM測定等の実験関係を担当している。
 には「Tetraploid ミdiploid transition induced by the absence of LIF in 4nH1(ES) cells」の仮テーマを与えたが、20年度には正式の研究テーマを決め、研究の自主性を促さなければならない。
 実験室では2週毎に実験室清掃と、それに続く研究打ち合わせを行っている。研究は低調かつ単調だが、最近8-9年ぶりに培養細胞に細菌が生じ、細胞は全滅した。
 本部門は多倍体細胞を研究しており、2005年10月からマウスES細胞を細胞材料に加え、既に2年半が経過した。マウス多倍体細胞の組織像も初めて見ることができたが、それは2倍体と同じように見えた。多倍体細胞は2倍体とは異なる性質を持つ。これは未来臨床と結ぶ多倍体細胞の可能性の一つである。宮越が始めたヒト細胞での多倍体化実験は染色体の重複がもたらす形質変化をヒトに適用できる可能性を含んでおり、継続推進せねばならないであろう。多倍体細胞は何が起こるか想像できない愉しみを我々になお与え続けている。
(2008.6文責 部門長 藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2007>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔(助手)、山岸裕子(技術員)で昨年と同じ。そして研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で昨年と同じ。研究はゆっくり落ち着いて静かに進行してきた。19年度からは大学院生(中華人民共和国、羅賢文)が加わるので、多少の変化があるかもしれない。既に兆しはある。
 藤川は新しい多倍体細胞ゲノム構造モデル(An hypothesis about genome structures in mammalian polyploid cells based on a new concept that genome is fractal of six hierarchies. Med. Hypotheses, 66: 337-344, 2006)の合理性を今なお信じている。ES細胞は生殖細胞に分化する可能性を持ち、生殖細胞の染色体 配置は面対称であろうから、ES細胞は容易に多倍体細胞になるはずだと考え、ES細胞を研究材料として加えたが、興味の中心は多倍体癌細胞から多倍体ES細胞に徐々に移ってきている。ES細胞の維持に適した培地を見つけ (Reversible alteration in morpholoby and proliferation of mouse H-1 (ES) cells in DME versus L15F10 medium. J Kanazawa Med Univ, 31: 138-143, 2006.)、DME中では多倍体ES細胞は2倍体に戻ることが分かり(Polyploidization of mouse H-1 (ES) cells by demecolcine and K-252a. Cytologia, 71: 399-406, 2006)、4倍体ES細胞も樹立できた(Establishment of a tetraploid cell line from mouse H-1 (ES) cells highly polyploidized with demecolcine. Cell Prolif, 40: 327-337, 2007)。多倍体ES細胞の研究は多倍体癌細胞の研究よりも感動を覚えることが多いように思える。
 宮越は3倍体V79細胞の3倍体-2倍体変換を明らかにした(The reversion to diploid cells from established triploid V79 cells. Cell Prolif, 39: 421-428, 2006.)。この論文は浮遊化による増殖停止が3倍体-2倍体遷移の原因になるということを示した論文で、インパクトファクターは4.462。現在は4倍体と6倍体V79細胞に関する論文の執筆中。
 実験室では2週毎に実験室清掃と、それに続く研究打ち合わせを行っている。研究は低調かつ単調なので実験面での不自由は感じられない。
 本部門は多倍体細胞を研究しており、2005年10月からマウスES細胞を細胞材料に加えた。通常2倍体の4倍(体長)も大きい3倍体アユが容易に創成できることからも明らかなように、多倍体動物は生存できる。4倍体胎児の致死性を利用した方法も存在するが、それは多倍体哺乳類の生存を否定するものではなく、やがては多倍体哺乳類創成は可能になるであろう。我々の現在の技術では細胞の性質を解明し続けるのがやっとであるが、数年先に多倍体(おそらく3.3倍体か6倍体)マウスの創成ができればよいと思っている。先が短い小規模研究室としては妥当な研究テーマであろう。多倍体細胞は2倍体とは異なる性質を持つ。これは未来臨床と結ぶ多倍体細胞の可能性の一つである。我々は現在2倍体-多倍体キメラマウス作成のための共同研究あるいは技術習得を望んでいる。昨年も同様の感想を書いたが、多倍体ES細胞は何が起こるか想像できない愉しみを一年経過してなお我々に与え続けている。
(2007.6文責 部門長 藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2006>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔(助手)、山岸裕子(技術員)で、年令を除けば昨年と同じ。そして研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で昨年と同じ。研究はゆっくり落ち着いて静かに進行している。
 藤川は哺乳類細胞のゲノム構造のパラダイムシフトを示唆する論文を発表した(An hypothesis about genome structures in mammalian polyploid cells based on a new concept that genome is fractal of six hierarchies. Med. Hypotheses, 66: 337-344, 2006)。この論文の基礎となる基本概念は1996年に故高橋学の私本中で提案され、その本の翻訳は本学有志によってなされ、翻訳書は本学図書館に懸架されている。この新概念は既存概念で説明できる現象も説明できない現象も共に説明できるので、この概念への賛同者は徐々に増えるであろう。この論文は本来、仮説の提案と実験的証明という2本立てであったが、内容が多くなり、2つに分離した。仮説論文のページ番号が実証論文(Cytologia, 70: 337-344, 2005)のページ番号と等しくなったことには奇蹟を感じる。
 宮越は3倍体V79細胞の3倍体- 2倍体変換に関する論文を投稿、受理された(Cell Prolif, 39: in press, 2006)。3倍体細胞が2倍体細胞に変換されるとき、性染色体の分配とか1倍体の生成とか興味は尽きない。V79細胞はチャイニーズハムスター由来のため、使用できるプローブが少ないのが弱点である。
 研究室は多倍体を研究しており、多倍体細胞の性質は2倍体とは同じにはならないので、これまで2倍体細胞で行われてきた研究テーマはほとんどすべて多倍体細胞の研究テーマになり得る。なんとも手にあまる広い研究領域であり、興味の趣くまま進んでいる。研究室は2005年10月からES細胞を細胞材料に加えた。ES細胞が世に出て四半世紀。培養技術もES細胞への期待も初期の夢から現実に移行している。ES細胞はセルバンクから随時入手でき、情報も豊富で、細胞維持も比較的安価である。そしてなにより多倍体個体とはそもそもどんなものなのか想像もできない。弱小研究室が夢を持って細々と続けるには良い研究テーマであろう。ES細胞の維持に適した培地を見つけ (投稿中)、ES細胞は多倍体化に弱いことが分かり(投稿準備中)、4倍体細胞は仮説から予想された通り容易に作製できた(投稿準備中)。4倍体-2倍体転換も任意に再現できるようになり(未発表)、4倍体細胞(ガン化4倍体細胞?)はマウス腹腔でほとんどの臓器に転移し、4倍体がん組織を形成した(未発表)。ES細胞は培養中に徐々に分化するらしく、厄介な細胞ではあるが、何が起こるか想像できない愉しみを現在我々に与え続けている。
(2006.6文責 部門長 藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2005>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔(助手)、山岸裕子(技術員)で昨年と同じ。そして研究テーマも「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」で昨年と同じ。研究面での成果はそれほど多くないが(著書1册、訳本1册、報告書1册、欧文原著5報)、実験結果は期待通りとなった。
 藤川は8及び4倍体Meth-A細胞集団のDNAヒストグラムを1年間測定し、それらのDNA量が最初は指数関数的に減少し、その後、2倍体よりもずっと高いDNAレベルで一定になることを見出した。その減衰関数はf(t)=Ipexp[-at/{exp(-bt)+ct}]で、f(t)は時刻tでの倍数値、Ipは初期倍数値、a,b,cはパラメーターであった。また、減衰関数の解析から、培養初期の8倍体では細胞分裂毎に4本の染色体が喪失し、その染色体は細胞集団中の全ての細胞で同じであるらしいことを明らかにした。これらの結果は「染色体は細胞内で独立に存在する」とする既存概念では説明できない。
 宮越は3倍体V79細胞を2倍体に戻せることを証明した。単層培養細胞である3倍体V79細胞を数週間浮遊培養した後に、元に戻すことで3倍体細胞を2倍体細胞に変換した。この実験結果は細胞内DNA構造に関する藤川モデルから予想できる。4倍体が生じなかったことから、長期のG1期停止が細胞内染色体再配置を起こし、完全2倍体と1倍体が生じ、2倍体だけが生き残ったと考えている。我々は1倍体V79細胞の培養条件を知らず、どなたかの協力を得たいと考えている。
 我々は哺乳類細胞DNA構造はヒトの場合、ゲノム(32∨5=33554432)、染色体(32∨4=1048576)、染色体バンド(32∨3=32768)、レプリコン(32∨2=1024)、ロゼットループ(含遺伝子)(32∨1=32)、ヌクレオソーム(32∨0=1)の6階層フラクタルであり、全てのDNAは繋がっており、父母由来の相同染色体は体細胞では点対称に配置し、テロメアはDNA鎖の切断を緩和する構造にすぎず、偶数多倍体細胞ではG1期での折畳み構造時に相同染色体の接近が許容となること等の独自仮説を採用している。詳細は著書にまとめられ、本学図書館に懸架されている。DNA構造に関するこの構造モデルはこれまで不可思議の範疇を出なかった現象を容易に説明できるのだが、今の所は過去先人の観測結果から導かれた仮説にすぎない。昨年も述べたが、今後はプロープの豊富なヒト細胞を利用し、このDNA構造仮説を証明しようと考えている。(2005.6.29文責、部門長、藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2004>
 細胞医学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔(助手)、山岸裕子(技術員)である。本部門の現在の研究テーマは「哺乳類細胞におけるDNA構造と倍数性変換についての研究」であろう。昨年の研究テーマは「哺乳類の多倍体細胞についての研究」であったから、多倍体の比重が少なくなっている。我々は既に3、4、6、8、10、12、16、18倍体細胞を樹立している。高倍体細胞でのDNA量の減少は激しく、高倍体細胞の長期の維持は至難であった。
 藤川は当面の研究を高倍体Meth-A細胞におけるDNA減少の機構の解明として、あてのない細胞培養をくり返している。100日間培養を続け、DNA量が指数関数的に減少してゆくらしいことを見出し、@高倍体ほどDNA減少率は大きい、ADNA減少率は継代数の増加と共に減少する、と結論し、学会発表した。これは例えば8倍体細胞はDNA減少するが、決して4倍体細胞に等しいDNA量とはならないということを意味し、DNA構造の対称性の破たんに起因すると説明した。
 宮越は3倍体V79細胞を材料として研究している。V79細胞はチャイニースハムスターの雄の細胞であるから、X染色体とY染色体を持っている。樹立された3倍体V79細胞がXYYなのかXXYなのかは不明であるが、3倍体細胞が2倍体細胞になる時にはYY細胞ができる可能性がある。3倍体V79細胞にストレスを与えると、細胞集団は2倍体となった。得られた2倍体細胞がYY細胞か否かは未だ確定されていない。チャイニーズハムスターY染色体のプローブはヒトと比べて入手困難だからである。今後の研究展開は機構証明が必要となるであろうから、ねずみ細胞ではなく、プローブが豊富なヒト細胞を用いた研究に移行しようと考えている。
 我々は全てのDNAは繋がっており、父母由来の相同染色体は体細胞では点対称に配置し、テロメアはDNA鎖の切断を緩和する構造にすぎず、偶数多倍体細胞ではG1期での折畳み構造時に相同染色体の接近が許容となること、等々のDNA構造に関するパラダイムシフトを目指している。この構造モデルはこれまで不可思議の範疇を出なかった現象を説明できるのだが、それは証明を伴わないので単なる説明に過ぎず、論文はなかなか採用されない。しかしながら、部門内はまとまっており、調和が保たれていると思っている。(2004.6.29文責、部門長、藤川孝三郎)
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<細胞医学研究部門活動状況2003>
 2003年1月1日の組織変更により、基礎医科学研究部門は細胞医学研究部門と名称変更となった。先立つ2002年10月の配置換により基礎医科学研究部門のメンバーは藤川孝三郎(教授、部門長)、宮越稔助手、山岸裕子技術員の3名となっていた。移籍した諸氏の活躍を期待する。新生細胞医学研究部門の研究テーマは「哺乳類の多倍体細胞についての研究」になって来ている。およそ13年前から始めたこの方面には素人の多倍体化の研究は10年も経てば少しは進歩するもので、2001年に4倍体細胞の樹立を発表し、2002年には3倍体細胞の樹立、2003年には8倍体細胞の樹立を発表した。現在は6、10、12、16、17、18倍体のMeth-A樹立(藤川)あるいは4、6倍体のV79細胞の樹立(宮越)等を行いつつある。部門内のセミナーは昨年の11月から2週に1回3名で行っている。実験の打ち合わせ、重要論文の紹介、そして講義がその内容となっている。1「フラクタル次元」、2〜7「DNA構成」、8〜9「多倍体細胞のDNA構造」、10〜「細胞周期解析」が講義のこれまでの内容で、かなりの部分が藤川の持論の展開となっている。(私としては教科書や論文に載っていないことを何らかの形で伝えておきたいという思いがある。)重要論文とは持論を展開する上での証拠論文のことであり、宮越と山岸が紹介を担当している。哺乳類の細胞については良く解っていない事がある。減数分裂における全ての相同染色体の対合は確率的に理解が困難であるし、マウスとヒトとのハイブリッドからヒト染色体が次第に減少してゆくこと等は古くから知られているが明解な説明はないと思える。我々が採用しているDNAフラクタル構造モデルを採用すれば、それらは起こりそうであると想像できる。我々はDNA構造に関するパラダイムシフトを暗に目指している。3倍体細胞集団が2倍体と4倍体の(1:1)細胞集団になり、8倍体から6倍体が生ずる等の倍数性変化の実験事実を説明しようとして構築したモデルがこれまで不可思議の範疇を出なかった現象を説明できるとは愉快なことである。ともあれ、論文が採用されなければモデルは認知されない。3倍体樹立と8倍体樹立の論文には当該モデルの一部を記載したので、細胞医学研究部門の研究も少し安心。今後はモデルが適合できない実験事実が生ずるまでモデルの補修を行ってゆく予定でいる。
(2003.6. 4文責、部門長、藤川孝三郎)
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<基礎医科学研究部門活動状況2002>
 基礎医科学研究部門のメンバーは昨年よりまた一人少なくなった。2002年3月、論文産生機とも言える宗志平助手が医学部血清学教室に講師として移籍し、本部門の平均年令(49歳)は少し増加した。移籍先の山口教授との調和を期待する。石川義麿教授は13年度研究所フォーラムでは「Cytochrome oxidase活性と心筋の機能」と題して発表している。病理診断、病理解剖、講義、そして学生の世話に忙しい。栗原孝行講師は「高発がん性遺伝病、ブルーム症候群患者由来細胞のハイドロキシウレアに対する高感受性について」と題して発表しているが、相変わらずのマイペースで研究している。宮越稔助手は「ハムスターの長期不完全胆管閉塞により誘発される肝細胞腫瘍」と題して発表し、藤川の依頼実験もこなしている。村上学助手は「植物由来物質のヒト培養細胞への影響」と題して発表しており、玉川大学の出身教室との連係も行っている。山下政俊教務員は竹上教授の指導で遺伝子関係の装置の維持と実験を行いつつ(週3日)、従来の大型機器の管理にも専念している。橘治夫副技師長は本学の研究用組織標本の作成を一手に引き受けている。腕は一流。もっと多数の標本作成依頼をと望んでいるが、これは学内研究の活性化と関係すると思われる。竹原照明主任技術員は電子顕微鏡の維持管理を行っている。村野秀和技術員は人類遺伝学研究部門(臨床)の仕事を手伝っており、全国から集まる試料の核型分析(カリオタイピング)を行っている。昨年は「電子メールによる染色体検査報告の有用性」という短報をだしている。評価を受け、奨励金が贈呈された。山岸裕子技術員は細胞培養に係る種々の仕事を一手にこなしている。藤川孝三郎(教授、部門長)は相変わらず哺乳類多倍体細胞についての研究を行っている。DNA構造モデルを得、染色体構造の解説書を読んで「皆まだわかっていないんだ」と独りほくそ笑んでいるが、肝心の倍数性逆変換が再現できなくて3年間も悩んでいる。
 現在、組織改変計画が進行中であり、本誌が発刊されるころには部門メンバーは変わっていると思われる。移籍先での活躍を期待している。(2002.8.13文責、部門長、藤川孝三郎)

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