北陸IVL治療研究会
Intravascular large B cell lymphoma (IVL)は1959年にPflegerとTappeinerにより(Der Hautarzt 10; 363-369: 1959)報告されて以来多数の報告があり、全身の微小血管の腫瘍性閉塞による様々な徴候が記載されている。
IVLはWHO分類により、Diffuse large B cell lymphoma(DLBCL)の亜型のdisease entityとして位置づけられている。
またMuraseらの報告により(Br. J Haematology 111; 826-834: 2000)、Asian variant型のIVL(aIVL)の亜型の存在が明らかにされ、徐々にその病態が明らかにされつつある。
IVLの報告は集積数が少なく、後方視的集積に限られ、多数例の報告は少なく、前方視的集積の報告は存在しない。
IVLは従来非常に予後不良とされており、確立した診断法および治療法は存在しない。
今後のIVLの標準的治療法の確立を目指して、従来行われているR-CHOP療法を若干工夫した治療法の治療効果と安全性を明らかにすること目的とし、pilot studyとして北陸造血器腫瘍研究会の治療プロトコールを作成した。また、診断→治療の開始の遅れが予後不良に繋がっているという観点から、新たに作成した臨床的診断基準での治療開始も可能とし、臨床的診断基準段階での治療開始の有用性/問題点を検証する。
更に、比較的若年例や治療によりPSの改善された症例についてはAutoPBSCT併用大量化学療法を積極的に行い治療強度を高める事、高齢者やPS不良例に対してもMTX大量療法を含めた化学療法を追加し中枢神経などの再発を防ぐ事により、予後の改善を目指す。
北陸造血器腫瘍研究会での前視方的臨床研究であるが、施設のIRB承認を得れば北陸外の施設でも参加可能とする。
UMIN試験ID: UMIN000001309
IRB承認施設:9施設(承認順)
金沢医科大学 2007.3/15承認
金沢大学 2007.4/12承認
石川県立中央病院 2007.4/27承認
あわら病院 2007.5/15承認
NTT西日本金沢病院 2007.5/30承認
福井大学 2007.6/19承認
福井県立病院 2007.6/29承認
富山大学 2007.8/08承認
富山市民病院 2007.9/28承認
適格条件
以下の1)〜3の全てを満たすもの
1)成人(20歳以上)初発例
2)IVLの診断
2−1)病理学的にIVLもしくはIVL類似の全身播種性DLBCLと確診された症例
または
2−2)IVL臨床的診断例:以下の臨床的診断基準を満たすもの。
病状が高度進行性で病理学的確診を待てないと判断された症例。
この場合は、治療前にBM / random skin biopsyを行う事とする。
3)書面により本人もしくは代諾者の同意が得られた症例
(意識障害者や全身状態不良者などの場合は、代諾者より書面により同意を取得する)
IVLの臨床的診断基準:以下の全てを満たすもの
(1)年齢は40歳以上で、明らかな腫瘤性病変を認めない。
(2)PS不良(ECOG 2〜4)を伴う、原因不明の発熱(38℃以上)。
(3)血清LDH 施設上限値の2倍以上 または 血清sIL2R 5,000 U/ml以上
(4)連日悪化する全身状態、または連日(検査の度に)上昇するLDH。
(5)末梢血または骨髄塗抹標本におけるリンパ系腫瘍細胞の確認。
(6)骨髄/random skin biopsyが治療前に行われる事
上記臨床的診断における留意事項
*EBVなどによるVAHSなどを除外するために、臨床的診断で治療開始するのは40歳以上のみとし、40歳未満の症例は病理学的確定診断がついたもののみとする。
*症例によっては朝→夕(半日)の単位でも全身状態の悪化やLDH上昇が観察される。
*原因不明の38℃以上の発熱:いわゆる不明熱の診断基準までを完全に満たす必要はない。
*血清LDHは腫瘍性のLDH単独上昇である事(肝疾患や筋疾患を除外する事)が重要。
AST/ALTなど肝逸脱酵素の上昇を伴わない事:AST/ALTのいずれよりも5倍以上
CPKなど筋原性酵素の上昇を伴わない事:CPKの5倍以上
*末梢血/骨髄中のリンパ系異常(腫瘍)細胞は、モノクロナリティが確認されればなお望ましいが、形態学のみでも可。ただし形態学のみで診断する場合は複数の血液専門医もしくは血液専門医と病理医が確認し合意する事。形態学的にはIVL腫瘍細胞は、中〜大型のリンパ系細胞で細胞質は好塩基性で空胞を有する事も多い。
ごく少数の疑わしい細胞を認めてモノクロナリティが証明されない場合、もう一度上記のLDH/sIL2Rのいずれかが基準値以上となっているかどうか確認する。特にLDHが上昇していない症例では、むしろ否定的と考え、早期治療は見合わせる。
*モノクロナリティ確認のために、末梢血および骨髄穿刺液の両方でフローサイトメトリーによる表面マーカー解析特に表面免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM,IgD,κ,λ)の提出を推奨する。細胞数が少ない場合もκ,λの偏りだけでも重要な情報を得うる。また、血清蛋白の免疫固定法で微量の腫瘍性M蛋白を検出できる事もあり、検索が望ましい。
*random skin biopsy:Matsue Kにより報告された(2006. 11/23 中村班班会議)
最近の3例は、IVLを疑ってrandom skin biopsyを行い、生前診断が確定できたというもの。
IVLは全身の血管内の病変であり、皮疹の無い部位からの皮膚生検でも診断できるとされた。
具体的には、前腕、大腿、腹壁など3箇所程度の皮膚生検を行う。
皮下脂肪織の血管内に病変が見つかる事が多いため、パンチ生検でなく、楔状に切る古典的な切開生検を推奨された。
**. IVLを疑うための参考事項:全身症状を把握し、特徴的所見がないか考える。
(逆にこれらの症状が一つもなければIVLは否定的)
・血球減少(貧血・白血球減少・血小板減少)、白血球分画異常。(Asian)
・原因不明の意識障害、痴呆、脳虚血様症状。(Classical,Asian)
・肺に陰影がないのに呼吸困難がある and/or 低酸素血症。(Classical,Asian)
・原因不明の肝脾腫。肝酵素・胆道系酵素検査値の上昇。(Asian)
・腹部CTで副腎の腫大。(Classical,Asian)
・痛み、かゆみのない皮疹。 (Classical)
・PSA・PAPなどの前立腺腫瘍マーカー高値。女性でも上昇することがある。(Classical, Asian)
除外条件
1)膠原病/血管炎が疑わしい症例。
2)明らかな重症感染症が証明されている症例
3)以前に悪性リンパ腫に対して化学療法歴がある症例
4)HIV陽性、HTLV1陽性、HBV-Ag陽性症例(HCV抗体単独陽性者は除外しない)
5)担当医が本研究への登録に不適格と判断した症例
上記除外条件における留意事項
*膠原病/血管炎が疑わしい症例:膠原病に特徴的な身体所見(蝶形紅斑、Raynaud、関節腫脹や変形、皮膚硬化、Gottron徴候、Heliotrope疹など)を有する症例、RF著明高値、抗核抗体高値陽性、C-ANCA/P-ANCA陽性例ではむしろ膠原病/血管炎を疑い、組織学的確診がつかない限り(疑診では)治療開始しない。膠原病/免疫専門医と事前に相談する事。
*明らかな重症感染症が証明されている症例:各種培養、エンドトキシン/βDglucanなど陰性を確認する事。
*以前に悪性リンパ腫に対して化学療法歴がある症例:前治療としてCHOP/CHOP-like regimenが行われている症例では、別のサルベージ療法を考慮する。
*IVLの肝病変によりT-bil>2.0mg/dl以上の場合は、治療開始により改善が期待できるため、あえて除外しない。
治療方法
1、IVLを臨床的診断の段階(病理診断がまだ未確定)でも、必要に応じて出来るだけ早期に(臓器障害が重篤となり手遅れにならないうちに)治療開始する。ただし全身状態が比較的安定していて病理結果が待てそうな場合や、ステロイド剤投与で時間稼ぎが可能な場合は病理診断を待ってから行う方が望ましい事は言うまでもない。
2、初回治療は:
全例2/3減量CHOPを先行し、day7以後(CD20陽性確認後)にRituximabを投与する。
初回治療時には、特に血球貪食症候群や骨髄浸潤による骨髄抑制が存在する症例においては、治療開始後に更に重篤な骨髄抑制を併発する事が多いので、感染症の予防/治療、G-CSFの投与は早期より十分に行う。
3、通常は、上記の1コース目の治療で全身状態の著明な改善が認められる。2コース目以後は通常のR-CHOPを施行する。R-CHOPは合計6コース(1コース目のRituximab先行投与を含めて)とする。
4、長期的予後を改善する目的で、強化療法を行う。
(a)比較的若年例(70歳未満:施設判断によっては更に高齢でも可)や治療によりPSの改善された症例についてはAutoPBSCT併用大量化学療法を行い治療強度を高める。Rituximabは計8回までの投与が保険で認められているため、6コースのR-CHOP後に、Rituximab2回を組み込んだ(in vivo purging)化学虜法(CHASERなど)にてPBSCHを行い、AutoPBSCT併用大量化学療法(LEEDなど)を行い治療終了とする。
(b)高齢者(70歳以上)やPS不良例に対してもMTX大量療法を含めた化学療法を追加する事により中枢神経などの再発を防ぐ事で、予後の改善を目指す。high dose MTX + R-CHOP療法、MEDOCH-R療法など2コースを追加し治療終了とする。
5、CD20低発現例や上記治療で十分な治療効果の得られなかった難治例(後述の2コース目開始基準に達しない症例)では、本治療プロトコールより離脱し、別のサルベージ治療を考慮する。この場合の治療は本プロトコールでは規定しない。
初回化学療法
2/3 減量CHOP→R療法
RIT 375mg/sqm: day7以後
CPM 750mg/sqm: day1
ADM 50mg/sqm: day1
VCR 1.4mg/sqm(max 2mg) : day1
PDN 100mg/body: day1〜5
day21までを1コースとする
上記R-CHOPを2/3に減量して投与する。
CD20陽性が確認されてから、day7以後にRITを投与する。
RIT, PDNは減量しない。day21までを1コースとする。
なお、血球貪食症候群か骨髄浸潤による骨髄抑制が治療前より存在する症例やPSの著明不良例、超高齢者では更に減量も、施設判断で可能とする。
*なお、初期治療開始後であっても、病理診断の結果別の良性疾患が判明した場合や、その他主治医/施設判断で当プロトコール治療を継続する事が妥当でないと判断された場合は、プロトコール終了とする。
以下の2コース目開始基準を満たした場合に、2コース目を開始する。
2コース目開始基準
(1)解熱傾向(完全に平熱化が望ましいが、少なくとも治療前の平均より改善する事)
(2)PSの改善
(3)LDHの正常化(施設正常範囲内に入るか、治療開始前LDH>500U/lの高値例では治療開始前最大値の2/3以下への減少を認める事)
(4)好中球数の回復(Neut>1,000/μl)
の全てを満たす事。
1コース目開始後day28以後でも上記を満たさない場合は、プロトコールoffとし、個々の症例に応じた治療を行う。
*sIL2Rは最後まで正常範囲に入らない症例も多い事や、保険適応上月に1回しか検査できない事が多い事から2コース目開始基準には入れない。
*画像診断はこの疾患の多様性を考慮し、2コース目開始基準には入れない。
2〜6コース目の化学療法
R-CHOP療法
初回のCHOP先行→R療法も含めて合計6コースのR-CHOP療法。
強化療法
(a)比較的若年例(70歳未満:施設判断によっては更に高齢でも可)または治療によりPSの改善された症例:
AutoPBSCT併用大量化学療:Rituximab2回を組み込んだ(in vivo purging)化学虜法(CHASERなど)にてPBSCHを行い、AutoPBSCT併用大量化学療法(LEEDなど)を行い治療終了とする。
PBSCHの前処置レジメンおよび大量化学療法のレジメンは、各施設で通常行っているもので可。
(b)高齢者(70歳以上)またはPS不良例
MTX大量療法を含めた化学療法を追加する事により中枢神経などの再発を防ぎ、予後の改善を目指す。high dose MTX + R-CHOP療法、MEDOCH-R療法など2コースを追加し治療終了とする。
治療終了時効果判定基準
完全寛解(CR):以下の(1)〜(10)の全てを満たすもの
(1)平熱化
(2)PSの改善
(3)LDHの正常化(施設正常範囲内に入る事)
(4)正常造血の回復: 好中球数>2,000/μl、血小板数>100,000/μl、Hbは男性>12g/dl, 女性>11g/dlの全て。
(5)骨髄中腫瘍細胞の消失:全治療終了後に骨髄穿刺および生検を必ず施行。
塗抹標本上の腫瘍細胞の消失、フローサイトメトリーによる異常クローンの消失、
病理組織における腫瘍の消失 の全てを確認する。
(6)腫瘍による皮疹の消失
(7)肝脾腫の消失
(8)腫瘍による神経症状の改善:
意識状態・麻痺等は完全に回復する事が望ましいが、神経障害の部位/程度によっては治療開始時に既に不可逆的に障害されている事も多いため、この点を考慮する。
ただし、少なくとも進行性の神経障害を認めない事。
(9)低酸素血症の改善:酸素吸入を必要としない事
(10)Ga-scanまたはFDG-PETにおける異常集積の消失
治療開始前に存在した異常集積が全て消失する事。治療開始前に施行したものと同じ画像検査を行う。
不確かな完全寛解(CRu)
上記(1)〜(10)の全ては満たさないが、臨床的に改善が得られCRに近いものをCRuとする。
その場合は、どの項目が満たさなかったか、診療録およびケースカードに記載する。
部分寛解(PR)は規定しない:今回の治療研究ではPR判定はしない。
進行(PD)
治療にも関わらず、腫瘍性の全身状態(PS)の悪化、LDHの増加を認めるものをPDとする。
評価不能(NE)
本症では治療開始時既に多臓器不全に陥っている症例も多いため、腫瘍自体による全身状態の悪化なのか、治療に関連した毒性なのか判断が困難な場合も予測され、その場合はNEとする。
ただし、診療録およびケースカードに、治療開始前/治療開始後の最増悪時の全身状態、症状、身体所見異常、検査値異常を記載する。
Studyとして上記治療を行う場合は必ず、各施設のIRBの承認後に、下記研究事務局へ御連絡の後に行ってください。
お問い合わせ
金沢医科大学 血液免疫制御学(血液・リウマチ膠原病科)
北陸IVL研究会事務局
御連絡いただければ、full protocolをお送りします。