PCNSL治療研究会
中枢神経原発の悪性リンパ腫(PCNSL)の殆どは、びまん性大細胞Bリンパ腫(DLBCL)であるが、中枢神経以外の部位より発生する通常のDLBCLに比べ明らかに予後が不良である。
予後不良の原因としては
1)診断確定が困難(診断のために開頭脳生検を必要とする)で、診断確定時には様々な神経症状を有し、全身状態(performance status: PS)の悪い症例が多い。
2)脳血液関門(BBB)があるため、通常量の化学療法では、十分な治療効果が期待しづらい。
3)一部は全身性のリンパ腫特にIntravascular large B cell lymphoma (IVL-DLBCL、血管内大細胞型Bリンパ腫)の一部分症としての中枢神経病変の可能性がある。
4)寛解に入っても、その後、中枢神経に再発しやすい。
などが挙げられる。
北陸造血器腫瘍研究会では、既にIVLに対する前方視的治療研究を開始しており、IVL関連のCNS-MLはその治療プロトコールに沿って治療している。
一方、中枢神経以外に明らかな全身病変を見いだせない症例に関しては、別の治療アプローチが必要と考えられる。従来は通常量の化学療法では、BBBを通過せず効果が不十分であるという点から、全脳照射、全脳+全脊髄照射、MTX(メソトレキセート)髄腔内投与などが行われてきた。しかしながらこれらの治療成績は芳しくなく、全脳照射単独によるmedian survivalは12〜18ヶ月、5年生存率は5%以下とされている。これらの治療では、治療関連神経障害も問題となり、これによる死亡例もある。近年欧米では、大量MTXを組み込んだ化学療法による治療成績が報告されており1,2、化学療法→全脳照射、化学療法単独など様々な治療法が試みられているが、いずれの治療法に関しても様々な意見があり、未だ標準的な治療法は確立していない。
以前当科では、福井大学で考案されたMEDOCH療法にRituximabを加えたMEDOCH-R療法を施行し、良好な治療成績をおさめていた。しかしながら、MEDOCH-R療法では数日間に渡る持続点滴が必要なため、神経症状を有し時に不穏状態を呈する中枢神経リンパ腫症例には、必ずしも行い易い治療法ではなかった。
言うまでもなく、他の部位の原発のDLBCLの標準的治療法はR-CHOP療法(rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine,predonisolone)であり、rituximabの追加により従来のCHOP単独治療に比べ劇的な治療成績の向上が認められている。
MEDOCH-R療法は、コンセプトとしてはMTX大量療法+R-EPOCH療法である。R-EPOCH療法は再発難治例に行われる代表的サルベージ療法の治療レジメンであるが、そこで使われる薬剤はrituximab,cyclophosphamide, doxorubicin,vincristine,predonisoloneというCHOP療法で使用される抗がん化学療法剤+VP16(etoposide)である。従って、MEDOCH療法(MTX大量療法+EPOCH療法)からMTX大量療法+R-CHOP療法(MR-CHOP)に変更しても大きな差はないものと予測された。MR-CHOPにする事により、数日間に渡る持続点滴が不要となり、更にrituximabによる成績の改善も期待出来る。
rituximabは分子量が大きいためCSF中濃度が上がらず、BBBを通過しないと考えられており、従来は中枢神経のリンパ腫に対する使用については否定的な見解が多かった。しかし、近年少数例ではあるが有効例も報告されてきている。脳腫瘍においては、blood-CSF barrierを通過しなくても、blood-brain tumor barrierが破綻しており有効な可能性もある。rituximabの髄腔内注射もその有効性が報告されているが、これは現在のところ保険承認された投与経路ではない。
Pilot studyとしてMR-CHOPで加療した症例において、十分な治療効果と安全性、簡便性が確認されたため、phase II trialとして、治療成績/安全性を評価する必要があると思われ、今回、前方視的臨床試験を計画した。
MR-CHOP療法の利点として、以下の点が挙げられる。
1、化学療法単独:放射線治療なし:放射線照射による神経毒性なし
2、髄注なし:髄注による神経毒性なし
3、持続点滴なし:中心静脈路不要、末梢のみで投与可
4、procarbazineの内服なし: 経口で服用できなければ、点滴のみでも投与可:だらだら抗がん剤を長期間服用させない
5、現在本邦でリンパ腫に対する保険適応のある薬剤のみで、適応のある投与経路のみで投与可(リツキサン髄注は適応なし)
前視方的臨床研究であり、施設のIRB承認を得られた施設では参加可能とする。UMIN試験ID: UMIN000001343
適格条件
以下の1)〜3)の全てを満たすもの
1)中枢神経原発B細胞性リンパ腫(CD20陽性)で病理学的に確診がついているもの、または臨床所見・画像診断として中枢神経病変があり脳脊髄液*の検査にてリンパ腫の髄膜播種(CD20陽性)が確定されているもの。
2)初発例を対象とする。
3)書面により本人もしくは代諾者の同意が得られた症例
(意識障害者や全身状態不良者などの場合は、代諾者より書面により同意を取得する)
除外条件
1)中枢神経以外にも明らかな病変を有する症例→むしろIVL治療プロトコールを推奨
2)明らかな重症感染症が証明されている症例
3)以前に悪性リンパ腫に対して化学療法歴がある症例
4)HIV陽性、HTLV1陽性、HBV-Ag陽性症例(HCV抗体単独陽性者は除外しない)
5)担当医が本研究への登録に不適格と判断した症例
治療方法
1、MR-CHOP (high dose MTX + R-CHOP)療法
high dose MTX + R-CHOP療法:
MTX 2g/sqm,div (day1)
Leukovorin 15mg/body×4/day (day2-4)
RIT 375mg/sqm,div (day1)
CPM 750mg/sqm,div (day3)
ADM 50mg/sqm ,div (day3)
VCR 1.4mg/sqm(max 2mg),iv (day3)
PSL 100mg/body, po or div (day1-5)
通常のR-CHOPより骨髄抑制が早く/強く/長く起こるので、G-CSFを早期より十分に投与する。
MTX投与当日〜数日間は、ソリタT3+メイロンなどの補液(化学療法以外に1500〜2000ml程度)を行い、尿アルカリ化を行う。day3〜4にMTX血中濃度を測定し基準値以上であれば、Leukovorinを追加投与する。
2、MR-CHOPは合計6コースとする。
3、6コースのMR-CHOP療法後に、長期的予後を改善する目的で、強化療法を行う。
(a)比較的若年例(70歳未満:施設判断によっては更に高齢でも可)や治療によりPSの改善された症例についてはAutoPBSCT併用大量化学療法を行う。Rituximabは計8回までの投与が保険で認められているため、6コースのMR-CHOP後に、Rituximab2回を組み込んだ(in vivo purging)化学虜法(CHASERなど)にてPBSCHを行い、AutoPBSCT併用大量化学療法(LEEDなど)を行い治療終了とする。
(b)高齢者(70歳以上)やPS不良例でPBSCTを行えない場合は、後治療は規定しない。残り2回のrituximab + high dose MTX(4g/m2へ増量)などを推奨する。
Studyとして上記治療を行う場合は必ず、各施設のIRBの承認後に、下記研究事務局へ御連絡の後に行ってください。
お問い合わせ
金沢医科大学 血液免疫制御学(血液・リウマチ膠原病科)
PCNSL研究会事務局
御連絡いただければ、full protocolをお送りします。