症例5解説

1. 意識障害について

1)肝性脳症の分類、およびこの症例はどれに相当するか。

この症例では見当識障害があって、羽ばたき振戦を認めることから、U度の肝性脳症を考える。

2)肝性脳症の発生機序は?

高アンモニア血症およびアミノ酸不均衡が肝性脳症の成因に関わっている。この症例でも血中アンモニア の高値、Fisher比の低下を認めている。

3)治療はどうするか。

一般的な肝性脳症の予防としては、@便通を整える、A消化管出血を予防する、B蛋白の摂取制限、C電解質異常の補正などが挙げられる。

この症例では、高アンモニア血症に対しては、蛋白摂取量を1日40g以下に制限し、ラクチュロース投与を開始する。さらに、分岐鎖アミノ酸製剤も併用する。

2. 肝の画像診断について

1)肝細胞癌の超音波およびCT所見の特徴について説明しよう。

肝癌の腹部超音波検査所見は、@辺縁低エコー(thin halo)、A内部モザイク像(mosaic pattern)、B側方音響陰影(lateral shadow)、C後方エコー増強(posterior echo enhancement)。

この症例ではBとCがやや所見に乏しい。CTでは単純でlow density area、造影剤による造影効果(enhancement)をみとめるため、肝癌に特徴的といえる。

2)肝細胞癌の治療法にはどのようなものがあるでしょう。

経皮的ラジオ波焼灼療法、経皮的エタノール局注療法、経皮経肝的肝動脈塞栓療法、化学療法、および外科的切除などがある。3cm以下、3病変以下の肝癌では経皮的ラジオ波焼灼療法が一般的治療法になってきている。

3)経皮経肝的肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization:TAE)の適応、あるいは禁忌は何でしょう。

経皮経肝的治療の適応にならない、多発性肝癌の場合が適応になる。

禁忌として門脈本幹に腫瘍塞栓が存在したり、大きな肝内短絡路が存在する場合が挙げられる。


3. 肝細胞癌に特異性が高い腫瘍マーカーは何でしょう。

@AFP(α-fetoprotein)、APIVKA-U(protein induced by vitamin K absence or antagonist-U)

4. 肝硬変患者の経過をみていく時のポイントは何でしょう。

肝硬変の3大死因である、肝癌の発生と食道静脈瘤、および肝性脳症に対する治療がポイントとなる。