自己免疫性肝炎(AIH)は肝細胞障害に自己免疫機序が関与していると考えられる肝炎で、ステロイドなど免疫抑制剤が治療として有効である。
T.分類
AIHはT型からW型まであり、わが国ではU、VとW型はきわめて稀である。T型では全身性エリテマトーデス(SLE)様の症状とLE細胞現象などの検査成績がみられることがあり、LE細胞現象陽性の症例にかぎってルポイド肝炎と呼んでいる。またU型では、高率にHCVマーカー(抗体、RNA)が陽性であり、AIHの発症にHCVが関与している可能性がある。
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自己抗体 |
T型 |
抗核抗体、抗平滑筋抗体、抗肝細胞膜抗体 |
U型 |
肝腎マイクロソーム抗体1型 |
V型 |
可溶性肝抗原に対する抗体 |
W型 |
抗平滑筋抗体のみ陽性 |
1. 肝腎マイクロソーム抗体:肝と腎(近位尿細管)のマイクロソームと反応する抗体で、1から3型にまで分類されている。このうち1型の標的抗原はチトクロームP450 2D6といわれ、HCV蛋白との相同性が示されている。
2. U型AIH:患者は女性に多く、年齢分布は2峰性(Ua:若年2〜14歳 HCVマーカーの陽性率は低頻度、Ub:45歳以上 HCVマーカーの陽性率は高頻度)、進行が速く3年くらいの経過で肝硬変へと進展する。コルチコステロイドが有効である。
3. V型は肝細胞のサイトケラチンが抗原となっている可能性が考えられている。
U.病因
遺伝的素因のある人にウィルスや薬剤による肝障害が起き、それが引き金となって自己肝に対する免疫反応が引き起こされると考えられている。
V.病態
AIHでは肝細胞膜と反応する抗体が高率に陽性なので抗体依存性細胞障害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)による肝細胞障害機序が考えられている。
W.病理
門脈域への単核球の浸潤、piecemeal necrosisなどの慢性活動性肝炎の像を示すが、形質細胞の浸潤を認めることも多く、AIH組織像の特徴とされている。
X.診断
1996の診断の指針を参考資料として示す。
l 臨床像:中年以降の女性に多い。発症様式は急性肝炎様の急性発症と発症時期が不明な潜伏性発症がある。肝外症候(発熱、関節痛)、高度な黄疸、他の自己免疫疾患の合併がみられる。
l 検査成績:血沈の亢進、トランスアミナーゼ高値、γグロブリンの高値、膠質反応も高値をとる。ウィルスマーカーは原則として陰性。しかし、HCVについては陽性例も除外しない。
Y.治療および予後
免疫抑制剤としてステロイドが第一選択(30〜60mg/日)。トランスアミナーゼの低下がみられた場合、徐々に減量し維持量(5〜10mg/日)とする。免疫抑制剤による治療効果は高く予後良好であるが、しかし長期にわたるため副作用が問題となる。
参考資料
自己免疫性肝炎診断指針1996(原文)
厚生省難治性の肝疾患調査研究班(班長 小俣政男)
自己免疫性肝疾患分科会会長 戸田剛太郎
概念
中年以降の女性に好発し,慢性に経過する肝炎であり,肝細胞障害の成立に自己免疫機序が想定される*1.診断にあたっては肝炎ウイルス*2,アルコール,薬物による肝障害,および他の自己免疫疾にもとづく肝障害を除外する.免疫抑制剤,特にコルチコステロイドが者効を奏す*3.
主要所見
1. 血中自己抗体(特に抗核抗体,抗平滑筋抗体など)が陽性.
2. 血清γ-グロブリン値またはIgG値の上昇(2g/dl以上).
3. 持続性または反復性の血清トランスアミナーゼ値の異常.
4. 肝炎ウイルスマーカーは原則として陰性*2.
5. 組織学的には肝細胞壊死所見およびpiecemeal necrosisを伴う慢性肝炎あるいは肝硬変であり,しばしば著明な形質細胞浸潤を認める.特に急性肝炎像を呈する.
(註)
*1:本邦ではHLA‐DR4陽性症例が多い.
*2:本邦ではC型肝炎ウイルス血症を伴う自己免疫性肝炎がある.
*3:C型肝炎ウイルス感染が明らかな症例では,インターフェロン治療が奏効する例もある.
診断
上記の主要所見1から4より,自己免疫性肝炎が疑われた場合,組織学的検査を行い,自己免疫性炎の国際診断基準(後記)を参考に診断する.
治療指針
1. 診断が確定した例では原則として免疫抑制療法(プレドニゾロンなど)を行う.
2. プレドニゾロン初期投与量は充分量(30mg/日以上)とし,血清トランスアミナーゼ値の改善を効果の指標に漸減する.維持量は血清トランスアミナーゼ値の正常化をみて決定する.
3. C型肝炎ウイルス血症を伴う自己免疫性肝炎の治療にあたっては
a. 国際診断基準(Scoring system)でのスコア−が高い症例ではステロイド治療が望ましい.
b. 国際診断基準でのスコア−が低い症例ではインターフェロン治療も考慮される.しかし,その実施にあたっては投与前のウイルス学的検索を参考に適応を決定する.投与開始後は血中ウイルス量,肝機能を評価し,明らかな改善がみられない場合には,速やかに投与を中止し免疫抑制剤の使用を考慮する.