慢性膵炎・膵癌

T.慢性膵炎

A.定義

慢性膵炎とは組織学的には膵におけるび漫性、または限局性の炎症の持続あるいは炎症の後遺症的変化であり、臨床的には6ヵ月以上持続または継続している病態。

l     膵損傷、十二指腸憩室、高脂血症、副甲状腺機能亢進症なども原因となる。

l     Crohn病、潰瘍性大腸炎、Sjogren症候群、橋本病に合併する。

C.病理

外分泌系実質の破壊と膵の線維化が巣状、区域性、び漫性に存在し、膵管系は不規則な拡張を示す。

D.臨床像

l     自覚症状:腹痛、背部痛、食欲不振、悪心・嘔吐、糖尿病を合併すると口渇・多飲

l     身体所見:腹部圧痛、痩せ、腹部抵抗、発熱、膵腫大

E.検査所見

l     血中・尿中膵酵素:膵機能が荒廃すると膵酵素が上昇しないことがある

l     腹部エックス線:膵石

l     ERCP:膵管および分枝の不整・拡張像

l     膵機能検査

セクレチン試験:膵液量、膵分泌酵素量、重炭酸塩最高濃度の3因子測定

BT-PABA(pancreatic function diagnostant:PFD)試験

l     超音波・CT:主膵管の不整、膵石、膵実質の萎縮、仮性嚢胞など

l     糖負荷試験

F.診断基準(1995)

典型的な慢性膵炎症例では、腹痛や腹部圧痛などの臨床症状、あるいは膵外・内分泌機能不全に基づく臨床症候がみられる。慢性膵炎の臨床診断基準は、このような臨床症状あるいは臨床症候をもつ症例に運用されるものである。しかし、慢性膵炎の中には観察期間内は無痛性あるいは無症候性の症例も存在する。そのような症例に対しては、より厳格に臨床診断基準を適用すべきであり、期間をおいた複数回の検査所見に拠る。

l     慢性膵炎の確診例

1.     腹部超音波検査:膵石が描出される。

2.     XCT検査:膵内の石灰化が描出される

3.     ERCP:不均一な分枝膵管の不規則な拡張、膵石や蛋白栓で主膵管が閉塞または狭窄している

4.     セクレチン試験:重炭酸塩濃度の低下、膵酵素分泌量と膵液量の低下

5.     生検膵組織:膵実質の減少、線維化が全体に散在する

 

l     慢性膵炎の準確診例

1.     腹部超音波検査:粗大高エコー、膵管の不整拡張、辺縁の不規則な凹凸が描出される。

2.     XCT検査:辺縁の不規則な凹凸が描出される。

3.     ERCP:主膵管のみの不規則な拡張、膵石や蛋白栓が観察される。

4.     セクレチン試験:重炭酸塩濃度の低下のみ、膵酵素分泌量と膵液量の同時低下

5.     BT-PABA試験:尿中PABA排泄率の低下、便中キモトリプシン活性に低下を2回以上みとめる。

6.     膵組織:実質の脱落を伴う小葉内線維化、ランゲルハンス島の孤立、仮性嚢胞のいずれかが観察される。

 

G.治療

l     原因の除去: 禁酒

l     膵庇護: 絶食、消化酵素の大量投与、H2 blockerや抗コリン剤による胃酸分泌抑制

l     食事療法: 過食を避け、脂肪分や肉類を制限し、膵への負担を少なくする

l     外科的適応: 陳旧性の仮性嚢胞、腸管や総胆管の通過障害、膵癌の合併が疑われる場合

 U.膵腫瘍

l     良性腫瘍

1.     嚢胞腺腫:女性に多い。膵体尾部に発生する。@serous type:多数の小嚢胞が集合してスポンジ状となる。悪性化はまれ。Amucinous type:単房性ないし隔壁を有する多房性で、悪性化する。

l     悪性腫瘍

2.     膵癌:@膵管上皮から発生する膵管癌、A膵腺房細胞から発生する腺房細胞癌、Bランゲルハンス島から発生する島細胞癌に大別される。このうち膵管癌が90%を占め、圧倒的に多い。占拠部位:膵頭部癌、膵体尾部癌、膵全体癌。頻度:頭部>体尾部>全体。症状:腹痛、黄疸、食欲不振、腰背部痛、体重減少など。5070歳の男性に多い。肉眼的進行度はstageT〜Wまでであるが、手術例の過半数はstageWであって、診断の立ち後れが目立つ。5年生存率は10%台に留まる。Courvoisier徴候:黄疸出現期に無痛性の胆嚢腫大を認めた場合膵頭部癌の可能性が高い。血液検査所見:CEACA19-9DU-PAN-2の高値、随伴性膵炎があると膵逸脱酵素の上昇もみる。胆道系酵素の上昇。耐糖能障害。画像診断:膵腫瘍の描出とそれより尾側の()膵管の拡張など。ERCP:膵癌による膵管の断列、狭窄・閉塞像。治療:完全切除、黄疸に対してはPTC-Drainageによる減黄をおこなったうえで手術。

3.     膵嚢胞腺癌:膵嚢胞腺腫から悪性化したもの、女性、膵尾部に多い。

4.     粘液産生癌:主膵管ないし膵管分枝原発の癌で、大量の粘液を産生する。分化度が高く異型性も少ないので、予後が良い。

 

V.膵内分泌腫瘍


膵内分泌腫瘍の特徴:自律性分泌とfeedback機構の欠如

l     診断:@ホルモンの定量、A動脈造影で濃染像として描出される

l     治療:@病巣完全切除、A化学療法による腫瘍の縮小化

l     多発性内分泌腺腫瘍(multiple endocrine neoplasia:MEN):複数の異なる内分泌臓器に過形成、腺腫、癌などの腫瘍性病変が同時にまたは時期を異にして出現する。MEN type I(Wermer症候群):ガストリノーマ、下垂体前葉および副甲状腺機能亢進症の合併。MEN type U(Sipple症候群):甲状腺髄様癌、副甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫の合併。これらはいずれもAPUD(amine precursor uptake and decarboxylation system)系母細胞の腫瘍性変化と考えられている。

l     ランゲルハンス(膵島)の細胞:A細胞、B細胞、D細胞の3種類。B細胞が圧倒的に多く、A細胞とD細胞は少ない。A細胞はグルカゴン、B細胞はインスリン、D細胞はソマトスタチンを産生している。

l     インスリノーマ:インスリンの過剰産生によって低血糖症状を発現。症状:Whipple 3主徴@自発性低血糖症状、A血糖値50mg/dl以下、Bブドウ糖投与により症状の改善。組織学的には腺腫が80%で、良性であることが多い。

l     ガストリノーマ:難治性の消化性潰瘍(球後部潰瘍)、胃酸分泌過多(胃酸分泌は2L以上にもなる)、ラ氏島非B細胞腫。Zollinger-Ellison症候群ともいう。特徴:セクレチン静脈内投与により血中ガストリンの上昇をみる。診断基準:基礎胃液分泌量100ml/hr以上、基礎酸分泌量(BAO)20mEq/hr以上、最高酸分泌量(MAO)60mEq/hr以上、BAO/MAO 0.6以上。症状:腹痛、吐・下血、下痢。治療:膵腫瘍切除、胃全摘。PPIH2 blocker投与も対症療法として有用。

l     グルカゴノーマ:ラ氏島A細胞腫、膵体尾部。症状:糖尿病、壊死性移動性紅斑。

l     VIP(vasoactive intestinal polypeptide)オーマ:水様性下痢(watery diarrhea)、低カリウム血症(hypokalemia)、胃無酸症(achlorhydria)を特徴とする。WDHA症候群、Verner-Morrison症候群、膵コレラとも呼ばれている。