腹部膨隆

腹部膨隆をきたす病態として、従来から腹水(fluid)、鼓腸(flatus)、宿便(feces)、肥満(fat)、胎児(fetus)の5項目を「5つのF(five Fs)」と呼んで、日常の診療ではこれらの可能性を念頭に置くことが強調されてきている。実際には、まず視診で腹部膨隆が全体的か局所的かを見きわめることが重要で、そのためには腹部全体を十分露出させ、仰臥位と腹臥位で、かつ正面と側面から観察する。

 

1. 全体的な腹部膨隆をきたす疾患

  診断の進め方としてはまず腹水の貯留とそれ以外の病態とを鑑別することである。多量の腹水貯留であれば、波動として触知が可能であり、少量の場合には体位変換現象を認めることにより診断できる。

1)腹水

腹水は漏出性と浸出性に分類されるが、各々の発生には特有の病態が関係するため、両者の鑑別はきわめて重要である。肝硬変患者で腹水が貯留した場合は、立位にすると下腹部の膨隆が目立ち、仰臥位にすると側腹部が膨隆するいわゆる蛙腹(frog-belly)を呈する。しばしば臍の突出(臍ヘルニア)を認める。一方、結核性腹膜炎などの炎症性腹水では腹壁の緊張を伴い、腹部は側壁より前方に膨隆し、いわゆる尖腹(pointed abdomen)となることが多い。超音波検査では無エコー領域として描出され鑑別は容易であるが、ごく少量の場合には肝と右腎の前面(Morison’s pouch)、横隔膜と肝の間隙、脾の前面などで検出される。

2)卵巣嚢腫

仰臥位では臍を中心として腹部中央がより強く膨隆し、立位にしても膨隆があまり下腹部に移動しないことや、臍ヘルニアを認めないことなどが視診上重要な所見である。さらに、腸管が側腹部に圧排されるため、打診では腹部中央が濁音、側腹部が鼓音を呈し、腹水とは反対の打診所見を認める。超音波検査では、卵巣は子宮の両側側背に位置しているが、嚢胞状の低エコー域として容易に描出される。

3)鼓腸

麻痺性イレウスに特徴的な病態であるが、腹部全体が膨隆することが多く、打診で鼓音の増強と腸管雑音の減少を確認すれば診断は難しくない。超音波検査では、拡張した小腸内腔に液体の貯留が認められ、Kerckring皺壁がピアノの鍵盤状に見えることからkeyboard signと呼ばれる。その他、心理的・精神的要因で胃や腸管にガスが貯留するヒステリー性鼓腸では発作性に著しい腹部膨隆をきたすことがある。また、小児ではHirschsprung病も考慮する必要がある。

4)腹部臓器の腫瘍・嚢胞

肝・腎・脾などの腫瘍や嚢胞もそれ自体が巨大となると腹部全体の膨隆をきたすようになる。

5)肥満

腹部の形状は腹水貯留に似ているが、皮下脂肪をつまんでみると厚いことや臍の変化を認めないことなどが参考となる。

 

2. 局所的な腹部膨隆をきたす疾患

  膨隆が局所的な場合は、その部位に一致した臓器に病変があると考えられる。したがって、膨隆部位には必ず超音波プローブを当てて膨隆をきたした臓器や病変を分析すれば、ほとんどの疾患を鑑別できる。

1)心窩部

  胃癌や急性胃拡張などの胃に関連する疾患、肝癌や肝嚢胞などの肝疾患、膵癌や膵嚢胞などの膵疾患で膨隆するほか、剣状突起と臍の間の正中線上は腹壁ヘルニアの好発部位であることにも留意する。

2)右季肋部

癌やうっ血などで腫大した肝や腫脹した胆嚢などで膨隆する。これらは、吸気時に下降、呼気時に上昇する呼吸性移動を示すことが特徴である。

3)左季肋部

脾腫をまず念頭に置き、特発性門脈圧亢進症(いわゆるBanti症候群)、骨髄線維症、慢性骨髄性白血病などの疾患の可能性を考慮する。

4)側腹部

水腎症、嚢胞性腎疾患、Grawitz腫瘍などの腫大した腎で膨隆するが、特に多発性嚢胞腎では両側の腎腫大を呈することが多い。

5)腸骨窩

右側は回盲部の癌や虫垂周囲膿瘍、一方、左側はS字結腸の癌を考える。

6)下腹部

尿で緊満した膀胱、妊娠子宮や子宮腫瘍、卵巣の腫瘍・膿瘍などがある。女性の場合、既婚・未婚を問わずまず妊娠を考慮に入れることは当然である。

7)その他

  鼠径部ではヘルニアやリンパ節腫大、男性では停留睾丸があり、腹壁に悪性腫瘍が転移することもしばしば経験される。

 

2. 局所的な腹部膨隆をきたす疾患
膨隆が局所的な場合は、その部位に一致した臓器に病変があると考えられる。したがって、膨隆部位には必ず超音波プローブを当てて膨隆をきたした臓器や病変を分析すれば、ほとんどの疾患を鑑別できる。
1)心窩部
胃癌や急性胃拡張などの胃に関連する疾患、肝癌や肝嚢胞などの肝疾患、膵癌や膵嚢胞などの膵疾患で膨隆するほか、剣状突起と臍の間の正中線上は腹壁ヘルニアの好発部位であることにも留意する。
2)右季肋部
癌やうっ血などで腫大した肝や腫脹した胆嚢などで膨隆する。これらは、吸気時に下降、呼気時に上昇する呼吸性移動を示すことが特徴である。
3)左季肋部
脾腫をまず念頭に置き、特発性門脈圧亢進症(いわゆるBanti症候群)、骨髄線維症、慢性骨髄性白血病などの疾患の可能性を考慮する。
4)側腹部
水腎症、嚢胞性腎疾患、Grawitz腫瘍などの腫大した腎で膨隆するが、特に多発性嚢胞腎では両側の腎腫大を呈することが多い。
5)腸骨窩
右側は回盲部の癌や虫垂周囲膿瘍、一方、左側はS字結腸の癌を考える。
6)下腹部
尿で緊満した膀胱、妊娠子宮や子宮腫瘍、卵巣の腫瘍・膿瘍などがある。女性の場合、既婚・未婚を問わずまず妊娠を考慮に入れることは当然である。
7)その他
鼠径部ではヘルニアやリンパ節腫大、男性では停留睾丸があり、腹壁に悪性腫瘍が転移することもしばしば経験される。

 

3. 腸閉塞のレントゲン写真

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鏡面形成像(niveau formation)とともに、小腸の閉塞ではKerckring皺壁(左)が、大腸ではHaustra(右)が認められる。

intestine.jpg (59994 バイト) colon.jpg (53992 バイト)