便秘

 便秘とは何らかの原因で排便が障害され、腸管内に異常に糞便が貯留した状態をさす。通常、排便回数の減少、便量の減少、硬い便、残便感、直腸からの便排泄困難あるいはこれらの状態の組み合わせを便秘と呼んでいる。便秘は、その発生機序から機能性便秘と器質性便秘に大別される。前者はさらに弛緩性便秘、痙攣性便秘、排便困難(直腸性便秘)の三つに分けられるが、弛緩性便秘と排便困難は合併することが多いのでこの両者をあわせて単純性便秘と呼ぶ。

1)弛緩性便秘

 結腸の蠕動と緊張が低下し、腸内容の輸送が遅延するために起こる。太くて硬い便となり、便意に乏しく、排便後の残遺感も伴わない。長期臥床者、妊婦、老人などで排便に関与する腹筋の筋力が低下した場合や低残法食を摂取した場合などにみられる。

2)痙攣性便秘

 S状結腸を中心とする下部結腸の痙攣性収縮により結腸内容の進行が障害されるために起こる。便は兎糞状となり、便意は強く、排便後の残遺感を伴う。過敏性腸症候群の便秘型でみられる。

3)排便困難

 直腸に糞便が進入しても骨盤神経による排便反射が鈍麻しているために便意を生じない。日常生活の忙しさや排便痛を伴う肛門疾患のため故意に便意を抑え続けた場合、強い下剤や浣腸の乱用によって排便のリズムが障害された場合などにみられる。

4)器質性便秘

 腸の通過障害(腫瘍、炎症などによる狭窄)あるいは腸以外の器質的疾患に伴う大腸の運動機能異常によって起こる。

 

a. 問診のポイント

問診は、@排便回数、A便の性状(外観、量、硬さ、便柱の太さ)、H発症のしかた、C経過(周期的、持続的、進行性)、D便意、E排便後の残遺感、F随伴症状(血便、腹痛、腹部膨満感、便失禁、体重減少、排便痛、自律神経症状)の有無、G既往歴(開腹手術、神経疾患、内分泌疾患など)、H薬物服用(抗コリン剤、制酸剤、抗うつ剤、下剤、浣腸など)、I生活歴(職業、ストレス)などの項目について注意深く聴取する。問診のみからでも、上述した分類のいずれに属する便秘であるかをある程度診断できる(1)

 

b. 診察のポイントと検査

 器質性便秘の原因となる神経疾患や内分泌・代謝疾患を見おとさないように全身の診察を行う。腹部は視診、聴診、打診、触診、直腸指診の順に診察する。視診により蠕動不穏や手術瘢痕の有無をみる。聴診によって腸雑音の程度を聴き、打診によって鼓音の分布をみる。触診では、腹部腫瘍の有無、腹筋の筋力をチェックする。直腸指診では、肛門部病変(痔疾、瘻孔、膿瘍、肛門裂)、肛門・直腸の狭窄あるいは腫瘍、直腸内糞塊の有無を調べ、さらに指嚢に付着した便の潜血反応をみる。

ルーチン検査として、検便(潜血反応)、検血、腹部単純]線検査を行う。便秘が持続する場合は注腸造影あるいは大腸内視鏡検査が必須となる。腹腔内腫瘤、イレウスなどが疑われる場合には腹部超音波検査やCTを施行する。また、内分泌・代謝疾患、神経疾患などの器質性便秘が疑われる場合は個々の原因疾患に応じた検査を追加する。痙攣性便秘では面接、心理テストなどの心身医学的検査を行う。

 

1 便秘の鑑別診断

鑑別点

機能性便秘

器質性便秘
(
遠位側大腸癌)

弛緩性便秘

痙攣性便秘

便の性状

太くて硬い

兎糞状あるいは細く少量

細く少量

便意

少ない

強い

正常

排便後残遺感

()

()

(±)

血便

()

()

()

便秘の経過

持続的

 

間欠的
下痢と交替

進行性

腹痛

(±)

()

()

自律神経症状

()

()

()

直腸指診
 

糞便の停滞

あり

糞便の停滞

なし

糞便の停滞なし

あるいは腫瘤触知

精神的影響

少ない

受けやすい

少ない

 

c. 原因疾患と鑑別診断

便秘の鑑別診断上最も重要なことは大腸癌を見おとさないことである。表1に挙げた鑑別点から機能性便秘と考えられる患者に対しても、一度は注腸造影ないし大腸内視鏡検査を行い、器質的疾患を否定しておくことが重要である。

n        発症が急性か慢性か:食事や生活様式の変化安静・運動不足、旅行などを契機に急に発症する場合は一過性単純性便秘と呼ばれる。原因が除去されるか、新しい環境に慣れることによって自然に通常の排便状態に戻るので、病的意義は少ない。慢性便秘は、機能性便秘の大部分を占め、いつとは知れず発症し、ある程度長期にわたって持続する。

n        便の性状:太くて硬い便は弛緩性便秘、兎糞状の便は痙攣性便秘、血液が付着した細い便は直腸癌などによる器質性便秘が最も疑われる。便意が強いのに十分排便できず、排便後も残遺感を訴える場合は痙攣性便秘、そうでない場合は弛緩性便秘の可能性が高い。間欠的あるいは下痢と交替性に起こる場合は痙攣性便秘、進行性であれば大腸癌による器質性便秘が考慮されるべきである。腹痛、腹部膨満感などの腹部症状を強く訴える場合は痙攣性便秘あるいは腸狭窄に基づく器質性便秘が疑われる。頭痛、めまい、不眠、動悸などの自律神経症状を伴う場合は痙攣性便秘の可能性が強い(1)

n        随伴症状:@便失禁は精神障害や脊髄損傷の患者、外傷によって外陰神経や外肛門括約筋の損傷を受けた患者などで認められる。A体重減少は稀であるが、進行性であれば遠位側大腸癌を疑う。B排便痛は弛緩性便秘(排便困難)の原困として重要であるが、便秘の結果として起こることもある。すなわち、非常に硬い便を頻繁に排出することによって肛門管が障害を受け、局所的な炎症を惹起し排便痛を自覚するようになる。

n        聴診:腸雑音の亢進を認める場合は腸管癒着や大腸癌などの狭窄性病変による器質性便秘を疑う。

n        触診:左下腹部に棍棒状の結腸索を触知し、圧痛を認める場合は痙攣性便秘を考える。老人や経産婦で腹筋がたるんでいる場合には弛緩性便秘を疑う。

n        直腸指診:糞便の停滞を認める場合は弛緩性便秘を疑い、直腸内に糞塊を触れない場合は痙攣性便秘を考慮する。