慢性肝炎

T.概念

慢性肝炎と診断する患者は、急性肝炎と比較して経過が長く、治りにくく、病理組織学的には不可逆的な変化を残すという病態をもっている。

 l       慢性肝炎診断基準(犬山分類 1994)

慢性肝炎とは6ヶ月以上の肝機能異常とウィルス感染が持続している病態をいう。組織学的には門脈域にリンパ球を中心とした細胞浸潤があり、実質内に種々の程度の肝細胞壊死を認める。炎症・壊死の程度により、活動性(active: Ac)と非活動性(inactive: InAc)に区分される。すなわち、活動性の評価はpiecemeal necrosis、小葉内細胞浸潤と肝細胞の変性ならびに壊死(spotty necrosis、bridging necrosisなど)で行う。さらに、線維化(F)の程度によりF0〜F3までの4段階に分類する。

<付記>

F0:線維化なし

F1:門脈域の線維性拡大

F2:bridging fibrosis

F3:小葉の歪みを伴うbridging fibrosis

<表記法>

Chronic hepatitis, active, F3: CH(Ac/F3)

Chronic hepatitis, inactive, F1: CH(InAc/F1)

図. 慢性肝炎(A2、F2)の組織像。左:H-E染色、右:Azan染色

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U.成因

慢性肝炎の成因としては、ウィルス性肝炎が95%以上を占め、C型肝炎がB型肝炎より多い。

l       ウィルス性肝炎(B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス)

l       自己免疫性肝炎

l       薬物性肝障害

l       Wilson病

V.臨床所見

l       年齢と性:青壮年、男性優位(男:女 4:1)

l       自覚症状:一般的には全身倦怠感、易疲労感、違和感などを訴えることもあるが、全く症状のないことも少なくない。急性増悪期には黄疸、発熱、食欲不振、腹部不快感などを認めることもある。

l       肝機能検査:トランスアミナーゼ、γグロブリン、膠質反応などが高値を示す。

l       肝炎ウィルスマーカー:HBVおよびHCVの関連マーカー

l       肝生検組織像:@門脈域を中心とした持続性の炎症反応--piecemeal necrosis(削りとり壊死)--bridging necrosis門脈-門脈あるいは門脈-中心静脈間の帯状の壊死、A単核細胞浸潤と膠原線維増生による門脈域の拡大

W.治療---特異的な治療法は少ない

l       安静

l       嗜好品・入浴・その他

 *慢性肝炎の経過

l       B型慢性肝炎:母児感染からHBVキャリアーとなり、無症候性キャリアー期(HBe抗原陽性)→肝炎期(数ヵ月から数年)→無症候性キャリアー期(HBe抗原陰性)→キャリアー離脱期の経過をたどる。HBVキャリアーの約10%では肝炎が長期化し、慢性肝炎→肝硬変の経過をたどる。

l       C型慢性肝炎:慢性肝炎全体の約60%を占め、C型慢性肝炎の30〜50%に輸血歴があるが、感染時期・経路が不明な場合も少なくない。母児感染の可能性は少ない。HCV感染後、約20年で肝硬変、25〜30年で肝癌の発生を認めることが多い。

X.C型肝炎の臨床

一般献血者でのHCV抗体陽性率:1989年11月からC100-3抗体でのスクリーニングが開始された。しかし、当初は検出感度が低かったため、1992年2月より高感度のHCV抗体検査が導入された。第二世代のHCV抗体では、献血者の1%が抗体陽性で、その80%はHCV-RNA陽性(HCVキャリア率0.8%)、そのうちトランスアミナーゼの異常も60%(慢性肝疾患率0.48%)に認められている。

急性肝炎からの慢性化率:60〜80%は慢性化すると推定されている。

C型慢性肝炎に対し、1992年からインターフェロン(IFN)による治療が開始されたが、ウイルスが陰性化したのは約30%で、特にわが国に多い1b型では10%と低率である。そこで、2000年12月から抗ウイルス薬(リバビリン)とIFNの24週間併用療法が行われている。最近ではリバビリン48週間投与およびPeg-IFN療法も試みられてきている。

C型慢性肝炎に対するIFN療法の効果判定基準:

1.       著効:IFN投与後6ヶ月間GPT正常かつHCV-RNAが陰性

2.       不完全著効:IFN投与後6ヶ月間GPT正常であったが、HCV-RNAは陽性

3.       無効:著効および不完全著効以外

C型慢性肝炎に対するIFN療法の治療効果を決定する要因:

1.       HCV subtype:1bより2a、2bが有効

2.       慢性肝炎の組織学的進展度:肝炎進展度が軽度な例(CAH2A)ほど有効

3.       HCV-RNA量:105 copy/ml未満とウィルスが少ない症例が有効

C型肝炎ウィルス感染者からの肝細胞癌発生率:C型肝硬変では年4〜5%の発生率といわれ、特に血小板数が10万/ml以下となると、肝癌発生率は年7%と高くなる。つまり、血小板数10万/ml以下のC型肝硬変患者が10年生存すると70%は癌になるということ。