お知らせ

金沢医科大学 教えて!ドクター 第1回

 

狭心症・心筋梗塞の治療法

 
【心臓カテーテル治療】
手首や足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を入れ、風船やステント(網状の金属製筒)などを使って狭くなったり詰まったりしている冠動脈を広げる治療法。経皮的冠動脈形成術、PCIとも呼ばれる。

 

狭心症や心筋梗塞などの治療法には心臓カテーテル治療などの内科的治療と冠動脈バイパス手術などの外科的治療があります。狭心症と診断された天皇陛下の治療には後者が選択されましたが、現在の主流は体への負担が少ないカテーテル治療です。2つの治療法のメリットとデメリット、選択の基準などについて金沢医科大学の3人の専門家に話し合っていただきました。 

【今月の回答者】

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北山  道彦(きたやま みちひこ)  竹越  襄たけこし のぼる) 秋田  利明(あきた としあき

金沢医科大学循環器内科学教授□□□□□□□□□□□□□□□□□□金沢医科大学理事長□□□□□□□□□□□□□□□□□□金沢医科大学心血管外科学教授
(金沢医科大学病院循環器内科教授、□□□
□□□□□□□□(学校法人金沢医科大学循環器内科学名誉教授)□□(金沢医科大学病院心臓外科教授・科長)
心血管カテーテル治療科教授・科長)


再狭窄率10%未満の薬剤溶出ステント

竹越 狭心症と診断された天皇陛下が2月に冠動脈バイパス手術を受けられました。無事、成功したわけですが、開胸手術をせずに済む内科的な心臓カテーテル治療という選択肢もありました。

北山 かつては薬物療法が中心だった内科的治療ですが、カテーテル治療が登場して劇的に進化しました。30年余り前にカテーテルで風船を膨らませ、狭くなっている冠動脈を広げるバルーン療法が現れ、90年代には網状の金属製筒「ステント」をカテーテルで動脈内に設置し、血管を広げた状態を維持するステント療法が導入されました。さらに21世紀に入ると、血管内膜の増殖を抑える免疫抑制剤をステントに染み込ませた薬剤溶出ステント(DES)が開発されました。金沢医科大学病院ではカテーテル治療の85%が最先端のDESを適用しています。

竹越 バルーン療法の弱点は治療部分の血管が再び狭くなってしまう再狭窄でした。ステントやDESは再狭窄を防ぐ目的で開発されたわけですね。

北山 バルーン療法だと治療後3カ月ほどで30~40%の割合で再狭窄が起こります。ステント療法により再狭窄率は20~30%に減り、DESでは10%未満まで減らすことができています。

秋田 その点、バイパス手術は冠動脈の狭窄している部分は触らずに、別の血管を使って迂回路を設ける手術ですので、再狭窄のリスクは少ないと言えます。かつては足の大伏在静脈をバイパスに用いていましたが、現在では長期的に良好な状態が保てる内胸動脈が主に使われます。天皇陛下のバイパス手術に使われたのも内胸動脈です。

 

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カテーテルが基本、バイパスは最終手段
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竹越 襄 理事長

竹越 カテーテル治療は足の付け根などの動脈からカテーテルを入れて治療しますので、開胸が必要なバイパス手術に比べ体への負担が格段に少ないのがメリットです。

北山 治療時間は30分以内、入院期間も3~5泊程度で済みます。

秋田 バイパス手術だと手術は2~5時間かかります。入院期間は2週間程度です。ただ、複数個所に狭窄がある場合、カテーテル治療ではそれぞれの個所で治療が必要になりますが、バイパス手術なら1回の治療で血行を完全に回復できます。これもバイパス手術のメリットです。

竹越 双方の治療成績を示していただきたい。

北山 合併症のない単純な症例で比較した場合、生存率はほとんど変わりません。

秋田 バイパス手術後に病院で亡くなるケースは1%程度ですので、体への負担が大きいとはいえ、基本的には安全な手術です。少し古いデータですが、5年生存率も90%以上です。

竹越 治療成績にほとんど違いがないとすれば、体への負担が少ないカテーテル治療を選択する流れになるのは当然ですね。

秋田 カテーテル治療が進化して、治療成績もどんどん上がってきたために、バイパス手術は減ってきています。かつては左主幹部病変や主要な3本の冠動脈すべてに狭窄がある3枝病変についてはバイパス手術が基本でしたが、最新の世界的な適用基準では見直されました。国内では、2000年でカテーテル治療約15万件、バイパス手術約2万5000件でしたが、現在はカテーテル治療約30万件、バイパス手術約1万5000件と推定されています。

北山 金沢医科大学病院でも、弁膜症や胸部大動脈瘤などを併発しているような重症の患者さんは外科にお願いしますが、それ以外の安定狭心症の場合は、カテーテル治療を第一選択にしています。

秋田 バイパス手術は最終手段というのが基本的考え方ですね。

 

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ステントを設置した個所では血管の損傷に対応して組織が異常に増殖し、再狭窄(きょうさく)は起こる危険性がある


天皇陛下の治療はご公務重視で選択
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北山 道彦 教授

竹越 ただ、カテーテル治療はバイパス手術よりも綿密なフォローアップが求められます。

北山 血小板がステントに付着して血栓ができるリスクがありますので、血をサラサラにする抗血小板剤を飲み続ける必要があります。抗血小板剤には出血しやすく、出血が止まりにくいといった副作用があります。また、再狭窄が起きていないかなどをチェックするために、定期的な血管造影検査やCT検査が必要です。頻繁に経過を観察しなければならないのはカテーテル治療のデメリットですね。

竹越 カテーテル治療でも対応できたはずの天皇陛下の治療で、あえてバイパス手術が選択された理由の1つはそこにあるのではないでしょうか。天皇陛下は3月11日の東日本大震災の追悼式に強く出席を希望されるなど、ご公務をとても重視されています。ご公務への支障の少なさが選択の重要なモノサシになったのだと思います。

秋田 万が一のことがあってはならないという判断もあったのでしょうね。カテーテル治療全盛の中でバイパス手術が選ばれたことは、われわれ心臓外科医を勇気づけてくれました。

竹越 どちらを選ぶかは医師と患者さんが話し合って決めるわけですが、患者さんにとっては体への負担や治療成績などに加え、医療費がどれほどかかるのかも気になるところです。

北山 カテーテル治療の場合、単純な1枝病変で、3~5泊の入院であれば、検査費用も含めて70万~80万円でしょうか。現実的には3カ所ほど治療するケースが多いので150万円前後が平均ですね。

秋田 バイパス手術は2週間ほどの入院も含めて1回あたり200万円余りです。

竹越 単純に比較すればカテーテル治療の方が安いわけですが、複数個所の治療が必要な例が多いことや、術後の検査頻度なども含めて考えると、あまり差はないということですね。

北山 もちろん高額療養費制度が適用されますので、患者さん自身の負担はこれよりも格段に少なくて済みます。


内科・外科が連携して急性期治療にも対応
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秋田 利明 教授

竹越 金沢医科大学病院では心臓病全般をカバーするハートセンターを設け、専門的な医師とスタッフを配置して、循環器内科と心臓外科が連携しながら24時間体制で急性期の患者さんにも対応しています。症例数も北陸では上位の実績をキープしています。それぞれの科では治療成績を上げるために、どんな取り組みをしていますか。

北山 循環器内科とは別に専門の心血管カテーテル治療科を設けており、手間をいとわず、きめ細かな対応に努めています。例えば、治療の前には血管造影検査だけでなく、血管内超音波検査なども必ず実施しています。また、血管内部が石灰化して固くなっている場合は、先端にダイヤモンドドリルが付いたロータブレーターで血管内部を削って、きれいな状態にした上でステントを設置するようにしています。

秋田 心臓外科では進行した左心房瘤や僧帽弁閉鎖不全などを併発し、心臓機能が非常に落ちているような重症患者さんに対しても最適な治療法を実施しています。心不全治療の研究成果なども取り入れており、難しいバイパス手術でも高い治療成績を収めています。

竹越 狭心症や心筋梗塞は命にかかわる怖い病気です。動脈硬化を招く高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙などが危険因子ですので、日ごろからこれらをしっかりコントロールして予防に努めていただきたいですね。

【月刊北國アクタス2012年4月号掲載】

金沢医科大学病院

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