お知らせ

金沢医科大学 教えて!ドクター 第3回

 

人工股関節の最前線 

材質・構造の進化で寿命20年以上に

 

 中高年女性に多い変形性股関節症。50歳以上の重症患者には人工股関節を装着する外科手術が一般的です。金沢医科大学病院整形外科では熟練の手技と先端的人工股関節の導入により高い治療成績を収め、北陸最多の年間200件を超える症例を手掛けています。松本忠美金沢医科大学副理事長・整形外科学主任教授と兼氏歩整形外科学准教授に、最新事情を教えていただきました。

 

【今月の回答者】

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兼氏 歩(かねうじ あゆみ) □□□□松本  忠美(まつもと ただみ)

金沢医科大学整形外科学准教授□□□□□□□□□□□□□□□□金沢医科大学副理事長
(金沢医科大学病院整形外科准教授)□□□□□□□□□□□金沢医科大学整形外科学主任教授
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□(金沢医科大学病院整形外科教授・科長)

 

女性が圧倒的に多い変形性股関節症

松本 まず変形性股関節症について、あらましを説明しておきましょう。股関節は骨盤と大腿骨のつなぎ目にあたり、骨盤側のおわん状のくぼみである寛骨臼に、大腿骨先端の球状の大腿骨頭がはまり込んでいま

す。寛骨臼も大腿骨頭も弾力のある関節軟骨に覆われており、関節がなめらかに動くようになっています。先天的な股関節の異常や長年の酷使によって、加齢とともにこの関節軟骨が徐々にすり減り、足を動かすときに股関節に痛みが生じるようになり、進行すると歩けなくなります。これが変形性股関節症です。

兼氏 先天的な異常で多いのは股関節脱臼と寛骨臼のかぶりが浅い臼蓋形成不全です。原因は定かではありませんが、日本人の場合、圧倒的に女性に多く、変形性股関節症の患者さんの9割近くを占めています。

松本 歩くだけで股関節には体重の約3倍もの力が加わります。仮に1日に1万歩歩くとすると、片脚で5000回です。これを何十年も続ける間に、次第に軟骨がすり減っていくのは仕方ありません。ましてや股関節に異常があると早くすり減るので、発症しやすいわけです。

兼氏 病期は前、初期、進行期、末期の4段階に分かれています。進行期になると、関節の隙間が狭くなり、寛骨臼表面の臼蓋と大腿骨頭がぶつかったりして痛みが強くなるとともに、股関節を動かしにくくなります。病変部周辺の骨も虫食い状に穴が開き、もろくなって、悪循環に陥ります。末期に至ると軟骨がすり切れて関節の隙間がなくなります。杖が必要になったり、歩けなくなったりするなど日常生活に大きな支障が出ます。

 

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人工股関節の8割がセメントレス方式

松本 患者さんが40代未満で、関節軟骨が残っている場合は、骨を切って股関節の形や負荷がかかる方向を改善する骨切り術で治療できますが、50歳を超えていて、進行期や末期にある場合は、ほとんどが人工股関節を装着する人工股関節置換術が必要になります。

兼氏 人工股関節は人工大腿骨(ステム)、人工大腿骨頭(ヘッド)、人工関節軟骨(ライナー)、人工臼蓋(カップ)という4つのパーツで構成されています。こうした近代的な人工股関節は1960年代初頭にイギリスのチャンレー博士が開発し、日本にはその10年後くらいから導入されました。当時はステムやカップをセメントで固定する方式でしたが、治療成績があまりよくないものもありました。その後、セメントを使わないセメントレス方式が開発され、86年ごろに松本先生らがアメリカからいち早く導入したのです。

松本 当時、草分け的に実施したセメントレス方式の人工股関節置換術で、今もちゃんと機能している症例もあります。そのころは「人工股関節は、もって10年」といわれていましたが、26年後でも寿命を保っている事例もあります。

兼氏 その後もセメントレス方式の技術革新がどんどん進み、現在では日本の人工股関節の約8割がセメントレスだとされています。治療成績も上がっており、金沢医科大学病院の症例では10年後の生存機能率は100%、15年後でも90%以上となっています。

 

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骨密度の低下防ぐ日本人仕様ステム
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松本 忠美 副理事長

松本 金沢医科大学はセメントレス人工股関節の技術革新に大きな貢献をしています。兼氏先生が研究・開発にかかわったAPS(アナトミック・プラズマ・スプレーコーティング)ステムです。最大の特長は、人工股関節を使っているうちに周囲の骨密度が下がり、骨がもろくなるという弱点を克服したことにあります。これにより20年、25年、さらには30年も寿命が保てる可能性が高まりました。

兼氏 無重力状態に長くいると骨粗しょう症になるように、骨は力が加わっていないと痩せていく性質があります。そこで、APSステムは骨頭に近い部分でステムを大腿骨と固着させることで骨に力を伝達させ、骨密度が落ちにくい設計にしているのです。術後2年経過時のデータでは、従来のステムでは骨密度が20%以上落ちていたのに、わずか3%強の減少にとどまっています。私の知る限り、これは世界最高水準の数値です。

松本 骨がスカスカになってしまうと、将来の人工股関節の交換も困難になります。そこまで考えてある超長期耐用型のステムというわけです。

兼氏 固着部分は骨との親和性が高いチタンを吹き付けてあり、がっちりと骨と結合します。先細り型で、長さも従来のものより短いので、太ももが痛くなる副作用も減りました。

松本 APSステムのもう一つの特長は、CTを活用して日本人の大腿骨形状を三次元的に解析し、日本人仕様の3種類の形状が開発されていることです。

兼氏 ステムのボディ部分に対する先端部の角度がそれぞれ微妙に異なっています。この3種類を患者さんに合わせて使い分けることで、骨の強さが十分なら95%以上の患者さんに最適にフィットさせる

ことができます。97年から研究を始め、08年に製品化されました。

松本 かつてはステンレスだったステム自体の材質も、軽く丈夫で、MRIで撮影できるチタン合金に変わりましたし、ライナーもクロスリンクポリエチレンという磨耗が格段に少ない材料が使われるようになっています。周辺科学の発達が人工股関節の技術革新を促したのです。

兼氏 基礎研究では工学的な知見が不可欠になっていますので、私も金沢工業大学さんと共同研究を行っています。

 

目指しているのは「生涯歩行」の実現
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兼氏 歩 准教授

松本 APSステムのデメリットは従来のステムに比べると手術が難しいことにあります。初心者は使いこなせない上級者用ゴルフクラブと同じで、熟練した整形外科医が執刀する必要があるのです。そのため、まだ日本の主流にはなっていませんが、徐々に普及してきています。

兼氏 金沢医科大学病院では、北陸の第一人者である松本先生と、その指導の下で手技を磨いてきた医師陣が執刀しています。これまでに松本先生は3000例以上、私も1000例以上の症例を経験しています。通常は2~3時間かかる手術ですが、私どもでは1時間ほどで完了する方法を確立しており、患者さんの体への負担が少ないのもメリットだと思います。術後2日目には歩行訓練を始め、3週間~1カ月で退院できます。

松本 北陸3県はもとより、糸魚川、高山、敦賀、舞鶴あたりからも多くの患者さんが訪れています。手術を受けると生活の様子が劇的に変わりますので、口コミで評判が伝わりやすいのでしょうね。年間症例数は北陸で最も多い200件以上。今も4カ月ほど待っていただいている状態です。

兼氏 松本先生の実績と名声のたまものですね。

松本 それでも、「人工股関節を入れると歩けなくなるんじゃないか」と不安視する患者さんが今でもいらっしゃいます。私どもが目指しているのは「生涯、歩き続けられる治療」の実現です。自信を持ってそう言える時代になっていることを、ぜひ知っていただきたいですね。

兼氏 もちろん、人工股関節一辺倒ではなく、患者さんごとに最適な治療法を選択しています。自分の骨で治す手術や関節鏡で行う低侵襲手術も行っています。透変形性股関節症にお悩みの方、人工股関節の交換が必要な方は専門外来を受診してみてください。


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【月刊北國アクタス2012年6月号掲載】

金沢医科大学病院

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TEL 076-286-3511

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