お知らせ

金沢医科大学 教えて!ドクター 第6回

 

乳がんの早期発見と治療 

「よりやさしく、より美しく」に挑戦

 

 わが国では乳がんの罹患数や死亡数が増え続けており、女性のがん罹患率でもトップになっています。しかし、早期に発見・治療すればほとんどが治るだけでなく、乳房を切除せずに済むようになりました。新手法の乳房温存療法をはじめ先進的な治療に取り組む野口昌邦金沢医科大学病院乳腺・内分泌外科特任教授に最新の乳がん治療について教えていただきました。

 

【今月の回答者】

野口 昌邦(のぐち まさくに)

金沢医科大学特任教授
金沢医科大学病院乳腺・内分泌外科科長

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60%以上占める乳房温存療法

日本では乳がんの罹患数、死亡数とも一貫して増加してきています。患者が増えている背景には食生活の欧米化があると考えられています。乳がんの発症には女性ホルモンが深く関与していますが、動物性脂肪を多く摂るようになったため、女性ホルモンが増える傾向にあります。加えて、初潮が早い、初産が遅い、閉経が遅いなど女性ホルモンにさらされる期間も長くなってきているのです。

乳がんのほとんどは乳腺組織に発生します。初めは組織内にとどまっていますが、やがて周囲の血管やリンパ管に入り、転移します。肺、肝臓、脳などに転移すると命が危なくなります。

しかし、しこりが2センチ以下で、わきの下のリンパ節に転移していない早期乳がんであれば、ほとんどを治すことができます。しこりが3センチ以下なら、病変部だけを切り取り、放射線療法で治療する乳房温存療法も可能です。早期発見・治療がいかに大切かがお分かりいただけると思います。

かつては発見が遅れ、乳房やわきの下のリンパ節をすべて切り取る手術が大半でしたが、マンモグラフィや超音波検査など検査・診断技術の進歩により早期に発見しやすくなりました。そのため乳房温存療法が急速に普及し、現在では60%以上を占めています。

しかも、体への負担が少なく、乳房の整容性にも優れた治療法が開発され、患者さんのQOL(生活の質)向上に貢献しています。

 

短時間、少出血の新たな温存手術開発

乳房温存療法は乳房を部分的に切除する乳房温存手術と、術後の放射線治療を組み合わせた治療法です。私どもは2年前、新しい温存手術法「ムービング・ウインドー法」を完成させました。

柔軟に動かせる乳房の特性を活用した技術で、傷が目立ちにくい部分を小さく切開し、丸いプロテクターを装着して病変部の上まで切開部を移動させて、摘出します。内視鏡治療とは違って直に見ながら手術が行えるため、手術時間や出血が少なくて済みます。

金沢医科大学病院では乳房温存手術のすべてをこの方法で実施しており、09年4月の乳腺・内分泌外科開設以来、200件以上の症例があります。今後、全国的に普及することが期待されます。

 

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腕の合併症を防ぐ近赤外線アーム法


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乳がんが最初に転移するのはわきの下のリンパ節なので、かつては乳房だけでなく、わきの下のリンパ節も全部取っていました。その結果、乳房からのリンパ節・リンパ管とともに腕からのリンパ節・リンパ管も切除され、腕がはれる、しびれる、動きにくいなどの合併症が見られました。

転移が最初に到達するわきの下の見張り番的リンパ節を「センチネルリンパ節」と言います。ここに転移があるかどうかをアイソトープや色素を使って確かめる技術がセンチネルリンパ節生検です。

日本では私が96年に初めてその研究に着手しています。センチネルリンパ節に転移していないことが分かれば、わきの下のリンパ節手術は必要ないわけですから、患者さんにとっても、外科医にとっても大きなメリットとなります。そのため急速に普及し、今では乳がんの標準的手術となっています。

もしセンチネルリンパ節に転移が見つかった場合も、腕からのリンパ節・リンパ管を残せれば、合併症を防ぐことができます。色素を使ってリンパ節・リンパ管を見分け、乳房からのものだけを切除する手術法が07年に米国で開発されたアーム法です。しかし、この方法はリンパ管やリンパ節を見つけにくいという弱点がありました。

その弱点を克服したのが、私どもが09年に世界に先駆けて開発した近赤外線を用いたアーム法です。特殊な薬品を腕に皮下注射し、近赤外線カメラで撮影します。すると腕からのリンパ節・リンパ管が蛍光を発し、より正確に区別がつき、乳房からのリンパ節・リンパ管だけを切除できるのです。

 

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近赤外線カメラ機器(上)と蛍光を発する

腕からのリンパ節・リンパ管

 

チーム医療体制で先進的な診断・治療

乳房にメスを入れず、ラジオ波でがん細胞を焼くラジオ波療法も国内でいち早く臨床試験を行いました。しこりが1・5センチ以下なら適応しますが、日本ではまだ保険適用になっていません。

一方、センチネルリンパ節に転移が認められた場合でも切除せず、放射線療法で治療するという新しい方向性も出てきています。

乳がん治療で特に大切なのはチーム医療です。乳腺外科や放射線科はもちろん、診断を担う病理、化学療法を担う内科、乳房再建を担う形成外科などがしっかり連携することで、より適切な治療が可能になります。

金沢医科大学

病院は高度なチーム医療体制を築いており、今後もさらに先進的な乳がん治療に取り組んでまいります。


より精度の高い乳がん診断を◉高橋 知子
(金沢医科大学放射線医学助教、金沢医科大学病院放射線科医師)

 

痛みを我慢しすぎない
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欧米では乳がんで死亡する人が減ってきているのに、日本では逆に増加しています。欧米の乳がん検診受診率が70%以上なのに対し、日本は20%台にとどまっていることがその理由です。

検診の必要性に対する認識は高まってきていますが、最も発症しやすい40代から50代は自分のことを後回しにしがちで、自覚症状がないと受診しない傾向があります。厚生労働省では40歳から5歳ごとに乳がん検診の無料クーポン券を配布していますので、ぜひ受診してください。

通常の検診では問診、視触診、マンモグラフィ検査が行われます。マンモグラフィは視触診では発見できない早期がんを見つけるのに欠かせない検査です。乳房を寄せ、押しつぶすようにして撮影しますので、一定の痛みを伴います。痛みを我慢しすぎないで、技師と相談しながら上手に受診するようにしましょう。

 

放射線治療も女性が担当 

金沢医科大学病院の放射線科はチーム医療の観点から充実した検診・診断・治療体制を整えています。マンモグラフィだけでなく、超音波検査やMRIなど、より精度の高い画像診断も実施しており、読影は乳腺のプロが行います。

 「ムービング・ウインドー法」などの新しい治療法に適した撮影方法も考慮していますし、術後の放射線治療も女性の診療放射線技師が行うなど、検査から治療までを女性が担当するように努めています。

近年、3Dで撮影し、断層画像で診断するマンモグラフィ「トモシンセシス」や、乳房専用の「マンモPET」など次世代型の診断装置が登場しています。読影技術に磨きをかけるとともに、こうした先進的診断機器の導入により診断精度をさらに高め、早期発見と治療に貢献したいと考えています


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超音波検査の画像をチェックする高橋医師


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マンモグラフィ

 

 

月刊北國アクタス2012年9月号掲載】

金沢医科大学病院

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