2013年4月

平成25年度 金沢医科大学病院 研修会・セミナー等開催状況を掲載しました。

当院の東日本大震災に係る医療支援活動について 【ソーシャルワーカー1名を派遣】

平成25年度「うちなだ夕べのひとときコンサート」の日程をお知らせします。

金沢医科大学 教えて!ドクター 第13回


広がるがん緩和ケア

生活の質向上に専門家が集結

 

 「がん」はとても身近な病気です。日本人の2人に1人がかかり、その痛みは体だけでなく精神面にも及び、本人はもとより、その家族まで苦しむケースが少なくありません。そんな中で近年、重要性が叫ばれるのが「がん緩和ケア」です。その特徴や実際の治療について、金沢医科大学病院緩和ケアチームの2人にお話を聞きました。

 

【今月の回答者】

024-gif.gif

 

小川   真生(おがわ まさお)      我妻 孝則(わがつま たかのり)    

金沢医科大学麻酔科学講師            金沢医科大学病院集学的がん治療センター

金沢医科大学病院麻酔科講師           緩和ケアチームリーダー

 

4つの苦痛に光を当てる

我妻 金沢医科大学病院では、入院・外来含めてがんの症例が多く、全患者さんの約2割ががんで診療を受けています。がんは、病そのものによる疼痛や抗がん剤の副作用といった直接的な痛みだけでなく、死への恐怖など、さまざまな苦痛を伴います。しかも、そのつらさは診断がくだされてから検査、治療中まで長期にわたり、完治したとしても再発への不安がつきまといます。

 

小川 現代の緩和ケアの礎を築いたイギリスの医師シシリー・ソンダースさんは、つらさや苦痛は「身体的」「精神的」な側面に加え、仕事や金銭的なことなどに関する「社会的」、その人の価値観にかかわる「スピリチュアル(霊的)」の各側面からとらえられるとし、これを“全人的な苦痛”と呼びました。

もちろん、これらはバラバラに存在するものではなく、互いに影響し重なり合いながら患者さんのつらさとなっています。ですから、緩和ケアは患者さんの多岐にわたるつらさや苦しみに多方面から光を当ててやわらげ、より質の高い生活を送ることができるように支えていくことと言えます。

 

患者が抱える重荷の本質を探求 

我妻 がんによる多種多様な苦痛をやわらげるため、当院の緩和ケアチームには、麻酔科の小川先生や看護師、薬剤師、歯科衛生士と、多彩な分野からメンバーが集まっています。さらに、毎週月曜に開くカンファレンスには、精神科やリハビリ科の医師、ソーシャルワーカー、栄養士など、院内の各専門家が参加しています。

 

小川 当院では、緩和ケアチームが患者さんのサポートに乗り出すのは、「疼痛が治まらない」「不眠や食欲不振が見られる」といった主治医の依頼を受けてからです。活動では、まず患者さんに会い、何が問題となっているかを自分たちの視点でアセスメントすることからスタートします。

 

我妻 そうですね。苦しみの原因が一見して分からず、奥底に隠れていることもあるためで、患者さんが抱える重荷の本質を探ることが第一です。そして、きめ細かな面談表をもとに一から評価し直し、各方面の専門家がいろいろな視点で検討する中で解決の糸口をつかむことができます。その後も最低週3回は緩和ケアチームが回診し、主治医や家族と連携しながら、状況に応じて各専門家の力を生かしてケアに当たっています。

 

小川 例えば、疼痛の緩和に関して依頼を受けた場合でも、症状をやわらげる薬物療法や放射線療法、神経ブロックといった治療と並行し、心理的なケアを始めます。なぜなら、人は元気がなかったり、イライラしていたり、孤独感に悩んでいたりすると、同じ痛みでもより強く感じるからで、心の問題が身体的な苦痛として現れるケースが珍しくありません。外泊や外出をして気分転換をしたり、リハビリでリフレッシュをすることで改善することも多く、このときにはソーシャルワーカーやリハビリの専門家の力が必要となります。

 

我妻 がんの治療によって、口の中の環境が悪くなるケースがあります。おいしく食事できると肉体的なつらさも緩和できるため、昨年4月から歯科衛生士がメンバーに加わって口腔ケアも取り入れ、大きな成果を上げています。

 

 

027-gif.gif

緩和ケアチームでは時間をかけて話す中で、患者の苦痛の本質を探る

 

030-gif.gif

身体面や心理面に関して、さまざまなチェック項目が並ぶ面談表


活動は終末期でなく治療開始から      

小川 以前は、緩和ケアと言うと終末期医療が中心との認識が強くありました。現在は、がんと診断されたときから緩和ケアをスタートすることも増えています。たとえば、先日、喉頭がんの60代女性をサポートしましたが、女性は主治医から治療の際、声帯の除去手術が必要と聞いた途端、大変なショックを受けたというのです。

 

我妻 最初、処方された向精神薬の副作用で眠気がつらいという相談でした。回診を重ねる中で精神的な苦痛の大きさが分かり、そこで、薬の服用を止めて心のケアに力を入れました。

手術後や放射線治療時は体の苦痛を取り除くために漢方を取り入れたほか、口の衛生環境の悪化による感染症の予防を目的に口腔ケアにも取り組みました。このように多角的なアプローチを通して術後の回復は順調で、本人も少しずつ明るさを取り戻していきました。

退院直前に病室を訪れた際、「声帯を失い声が出ないと聞いたときは絶望感しかなかったが、徐々に元気が出てきました」と話されました。がん患者さんには早い段階から“じっくりと話せる医療者”の存在が必要だと強く感じました。

 

小川 緩和ケアチームでは、「患者さんの話を時間をかけて聞く」ことを何よりも心がけています。主治医や病棟の看護師は忙しく、残念ながら1人の患者さんとじっくりと話をすることが難しいのが実情だからです。その点、緩和ケアチームは患者さんの声に時間をかけて耳を傾けることができます。気づいたことを主治医や病棟の看護師、家族と共有することで、ケアの質向上にもつながっています。

 

能登地区で緩和ケアのネットワーク化へ    

我妻 当院の緩和ケアチームは、患者さんに身近な医療者である看護師の果たす役割が大きく、がん看護専門看護師の私がリーダーを務め、がん性疼痛看護認定看護師と2人で、依頼された患者さんを受け持っています。

 

小川 国内の病院で医師以外がリーダーとなるのは非常に珍しいケースですね。緩和ケアの先進地であるイギリスに目を向けると、専門看護師やソーシャルワーカーがリーダーを務めることは決して特別ではありません。患者さんや家族、病棟のスタッフと接することの多い看護師は、全体をマネジメントする上で適任だと思います。カンファレンスでも、医師ではなく看護師がまとめ役となることで、みんなが意見を言いやすい雰囲気が生まれていると感じます。

 

我妻 ありがとうございます。緩和ケアへの理解は徐々に深まってきていますが、まだまだ啓発に力を入れていかなければならないと思っています。その一環として、今年から能登地区で緩和ケアのネットワーク構築を目指しています。

 

小川 はい。これまで各医療機関が個々で行っていた緩和ケアを結び、点から線として地域医療の充実を目指すことができますね。かかりつけ医と病院による“病診連携”やかかりつけ医同士の“診診連携”が今まで以上に強まり、入院先でも在宅でも患者さんにとってよりよい緩和ケアを提供できる仕組みを整備していきたいと考えています。

 

 

007-gif.gif

先進地であるイギリスでの研修経験を生かして緩和ケアに取り組む小川医師

 

 

017-gif.gif

石川県内で3人しかいないがん看護専門看護師として緩和ケアチームをリードする我妻看護師

 

 

【月刊北國アクタス2013年4月号掲載】


金沢医科大学病院

〒920-0293 石川県河北郡内灘町大学1-1

TEL 076-286-3511

【診療受付時間】
平日 初診 8:30~13:00
  再診 8:00~13:00
土曜   8:30~12:00
【休診日】
土曜日の午後・日曜・祝日
年末年始(12/29~1/3)
大学開学記念日(6/1)
旧盆(8/15)