お知らせ

金沢医科大学 教えて!ドクター 第17回

早期胃がんの診断と治療

先進医療、内視鏡と腹腔鏡の複合に挑戦
胃を最大限残し生活の質向上
 

 金沢医科大学病院は早期胃がんに対し、内視鏡と腹腔鏡の技術を融合した新たな診断・治療法に挑戦しています。胃を最大限に残し、術後の食生活などQOL(生活の質)向上を目指すものです。連携してハイブリッド(複合)手術の確立に取り組む金沢医科大学消化器内視鏡学の伊藤透教授と一般・消化器外科学の木南伸一准教授に詳細を教えていただきました。


【今月の回答者】


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伊藤 透(いとう とおる)    

金沢医科大学消化器内視鏡学教授
金沢医科大学病院内視鏡科教授(科長)
内視鏡センター部長

 

【今月の回答者】

 

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木南 伸一(きみなみ しんいち)    

金沢医科大学一般・消化器外科学准教授
金沢医科大学病院一般・消化器外科准教授

 

早期胃がんの60%は
内視鏡治療で根治

伊藤 本院の内視鏡科で治療している主な早期消化器がんは胃がん、大腸がん、食道がんです。最も多いのは胃がんで約70%を占め、大腸がんが約20%、食道がんが約10%という割合です。今回は私たちが連携して取り組んでいる早期胃がんの新しい診断・治療法をメーンに紹介したいと思います。

木南 ここ10年ほどの内視鏡の進歩は目覚ましく、鮮明な映像が得られるようになったことにより、より早期に発見し、治療できるようになりました。早期胃がんの約60%は内視鏡治療で根治できるようになっています。

伊藤 早期であればEMR(内視鏡的粘膜切除術)もしくはESD(内視鏡的粘膜下層切除術)により、ほとんどが治せます。体を全く傷つけることなく、胃をすべて残せますので体にやさしく、術後も健康時と同じ食生活ができます。

木南 ただ、粘膜下層にまでがんが達していると、20%程度は転移が見られます。それでもリンパ節への転移だけであれば、外科医による開腹手術か腹腔鏡手術で病巣部の切除とリンパ節の廓清(掃除)を行うことで、ほぼ治せます。腹腔鏡手術はお腹に数カ所の穴を開けるだけで済むので、開腹手術に比べて体にやさしい手術と言えます。広く普及していますが、熟練が必要で、日本胃癌学会の治療ガイドラインにおいてはまだ標準的治療とはされていません。

 

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内視鏡による早期胃がんの治療=金沢医科大学病院手術部

 

センチネルリンパ節の
生検で転移の有無確認

伊藤 胃をたくさん切ったり、広範囲にリンパ節の廓清を行ったりすると、がん自体は治ったとしても、どうしても食生活に障害をきたすことになります。

木南 多くの場合、食べられる量が減り、お腹が張る、胸やけがする、食べ物がつかえる、食後に気持ちが悪くなるといった症状が現れます。

伊藤 そのため、できるだけ切除や廓清の範囲を少なくすることが早期胃がん治療の研究課題になっており、私たちもそれを目指しています。その意味で注目されているのが、木南准教授が経験を積んできたリンパ節転移の診断技術「センチネルリンパ節生検」です。

木南 胃のリンパ節のほとんどは胃に栄養を供給する血管に沿って存在し、脂肪に埋まっています。このうちセンチネルリンパ節はがんが最初に微細な転移を起こすリンパ節で、ここに転移が見つからなければ、ほとんどの場合は転移のないがんだと診断できます。そこで、センチネルリンパ節を探し出し、病理検査で転移の有無を確かめる診断方法がセンチネルリンパ節生検です。乳がんで特に普及していますが、私どもでは胃がんでも取り組んでいます。

伊藤 実はこの技術は簡単ではありません。色素やアイソトープを使うのがこれまでの方法だったのですが、木南准教授は最新の「ICG蛍光法」に取り組んでいます。

木南 ICGという蛍光色素を病巣部の粘膜に注射し、赤外観察カメラで赤外光を照射すると、リンパの流れが光ってセンチネルリンパ節を特定することができます。術中に腹腔鏡でセンチネルリンパ節を取り出して即座に病理検査を行い、転移の有無を確かめるわけです。ICG蛍光法自体は新しい技術ではありませんが、近年、精度が高く、小型で操作しやすい機械が登場して、使い勝手が格段に向上しました。

伊藤 転移がなかった場合、リンパ節廓清は最小限にして、健康なリンパ節は残すことができるようになったわけですね。

木南 センチネルリンパ節生検を指標にすることで、リンパ節の廓清範囲を少なくし、血管と胃の温存を行う「機能温存根治手術」が可能になり、今年3月から臨床試験を開始したところです。全国でもこの手術に取り組んでいるのは15施設程度だと思います。

 

ガイドライン胃切除術.gif

 

転移できなければ
内視鏡で胃壁全層切除      

伊藤 内視鏡科はこのICG蛍光法によるセンチネルリンパ節生検を、粘膜の下層まで入り込んでいる早期胃がんの内視鏡治療と併用できないかと考えました。粘膜の表層にとどまっているがんは転移の可能性がほとんどないので、内視鏡で取りさえすれば治療できますが、下層まで入り込んでいると転移の有無を確認する必要があります。そこで、木南准教授にICG蛍光法によるセンチネルリンパ節生検をやっていただきながら、同時並行的に内視鏡による内視鏡的全層切除(EFTR)を行おうというわけです。

木南 具体的に説明しますと、まず腹腔鏡でセンチネルリンパ節生検を行い、伊藤教授らの内視鏡医は病理診断を待つ間に内視鏡で切除部分を確定し、いつでも切れるように待機しています。センチネルリンパ節への転移がないことが分かり次第、腹腔鏡によるアシストを受けながら内視鏡で胃壁全層をくり抜きます。その後、腹腔鏡で縫合して手術が終了します。もしセンチネルリンパ節への転移があれば、内視鏡医は治療せず、そのまま外科医が胃の切除やリンパ節廓清を行います。

伊藤 高い精度でリンパ節転移の有無を診断するのと並行して、安全な環境でEFTRを実施できることが大きなメリットですね。転移さえなければ体の傷や切除も最小限に抑えられます。手術時間は一般的な開腹手術と同じレベルの4時間以内を目標にしています。

木南 体の表面に傷をつけず、人体に元々備わっている口、肛門、膣などの孔から内視鏡を挿入して手術を行うNOTES(ノーツ)という治療概念がありますが、考え方としてはそれに近いものです。内視鏡技術と腹腔鏡技術を融合した術法であることから、「ハイブリッド・ノーツ」とも呼ばれています。センチネルリンパ節生検とハイブリッド・ノーツを組み合わせた術法を実施しているのは、恐らく世界中でごく限られた施設だと思います。

 

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「先進医療に申請したい」と語る伊藤教授

 

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「世界でも最先端の術法」と語る木波准教授

北國がん基金の
研究活動助成対象に   

伊藤 学内の臨床研究倫理審査委員会の承認を得て、2年前からこの取り組みを始めました。これまでに4例を実施しましたが、3例は内視鏡でEFTRを行い、現在のところ経過は良好です。1例はセンチネルリンパ節生検で転移が見つかったため、木南准教授が腹腔鏡で治療しました。

木南 悪性度の低い分化型の腺がんで、がんの大きさが4センチ以内、粘膜下層にとどまる癌までといった細かいルールを決めて、症例を厳選して実施しています。標準治療である開腹手術よりも治療成績が劣るようでは、新しい治療法として成立しませんからね。

伊藤 技術を磨くために、内視鏡科の北方秀一准教授を含めた3人で東京の研究施設に赴き、人間の胃と似ている生体豚を使ったトレーニングも積み重ねています。私たちの取り組みは先ごろ、北國がん基金の研究活動助成対象にも選ばれました。私の目標としては15例、20例と症例を積み重ね、先進医療に申請し治療の選択肢の1つとして確立したいと考えています。

木南 早期胃がんの手術後も、患者さんができる限り従来と同じような食生活を楽しんでいただくことが私たちの願いです。そのために、安全性や精度を高く保ちながら、胃をより多く残せるよう、引き続き新しい診断・治療法の開発や確立に挑戦していきたいと思います。

 

【月刊北國アクタス2013年8月号掲載】


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