お知らせ

金沢医科大学 教えて!ドクター 第20回

先天性心疾患の診断と治療

石川県内で唯一、外科手術を実施
高レベルのチーム医療を展開

生まれつき心臓の構造に異常がある先天性心疾患。金沢医科大学病院は重症の患者に必要な外科手術を石川県内で唯一、実施しており、診断や術前管理などを担う小児科と手術を担う心臓外科を中心とするハイレベルのチーム医療により高い治療成績を収めています。先天性心疾患の診断と治療について金沢医科大学心臓血管外科学の川平洋一教授と小児科学の中村常之准教授に聞きました。

【今月の回答者】

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川平 洋一(かわひら よういち)

金沢医科大学病院心臓外科教授
日本外科学会認定医・専門医
日本胸部外科学会認定医・指導医

中村 常之(なかむら つねゆき)

金沢医科大学病院小児科准教授
日本小児科学会認定小児科専門医
日本循環器学会認定循環器専門医
日本小児循環器学会認定小児循環器専門医
日本体育協会公認スポーツドクター

重症患者が急増
優れた治療成績

中村 先天性心疾患は生まれつき心臓の構造に異常をきたしている病気です。生まれてくる赤ちゃんの100人に1人程度は心臓に何らかの異常があります。ただし、治療を要しない軽症のお子さんから、出生後すぐに治療が必要な重症のお子さんまで幅があり、利尿剤や強心剤による内科的治療や心臓外科で手術しなければならない患者さんはその10%未満です。

川平 石川県内の出生数は年間9800人ほどですから、手術が必要になるのは80人程度でしょう。患者さんの絶対数が少ないこともあり、現在、県内で外科手術を行っている医療機関は金沢医科大学病院だけです。5年ほど前から始めたのですが、ここ1、2年、本院で手術を受ける重症患者さんが急増しており、手術件数は私が着任した昨年4月から今年9月末までに45例を数えます。

中村 お子さんの体に強い負担がかかる大手術ですので、県外の医療機関で治療するのはご家族にとっても大きな負担でした。本院がセンター的機能を担い、地元で診断と治療を完結できるようになった意義は患者さんにとっても大きいのではないでしょうか。本院の新生児集中治療室ではすぐに治療が必要なお子さんを受け入れており、県外からも多くの重症患者さんが入院してきます。

川平   手術治療を成功させるには小児科医や心臓外科医を中心に高いレベルのチーム医療が求められます。本院では各科の専門医や看護師らと連携した質の高いチーム医療を展開しており、優秀な治療成績を実現しています。

 

人工心肺装置の進化も
成績向上に貢献

中村 先天性心疾患は心臓の血液の流れ方に乱れが起こり、心臓の動きが悪くなる心不全型と、血中酸素濃度が低下し皮膚の色が悪くなるチアノーゼ型に大別されます。両方が同時に起こる症例もあります。最も多いのは心不全型の心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)で、心房(しんぼう)中隔欠損、ファロー四徴症(しちょうしょう)が続きます。ファロー四徴症は心室中隔欠損、右心室肥大など4つの形態特徴を持つチアノーゼ型の代表的疾患です。

川平 外科的に分類すると、心室と心房が2つずつあるなど心臓の基本形ができている患者さんを治療する2心室修復と、心室が1つしかない患者さんを治療する1心室(単心室)修復に大別されます。前者にはすぐに心臓内の穴が空いている部分などを修復する場合と、鎖骨下(さこつか)動脈を肺動脈につなぐBTシャントや、肺動脈への血流を抑えるPAB(肺動脈絞扼術(こうやくじゅつ))などの準備手術を施してから修復に着手する場合があります。後者は本来の心臓の形ができていませんので、2心室修復とは全く異なるフォンタン手術という治療を行わなければなりません。しかも、事前に準備手術と、上大静脈と肺動脈をつなぐグレン手術も必要ですので、治療が完了するまで一定の年月がかかります。こうした複雑な治療を要する患者さんが多いのも本院の特徴です。

中村 手術が必要な場合、小児科で診断し、心臓外科と治療方針・計画を検討します。次に小児科で心臓カテーテル検査や3DのCT検査などお膳立てを整えて手術となります。急性期を脱したら再び小児科で管理を担うのが基本的な流れになります。診断は2Dエコー、3Dエコーによる心エコー検査が中心です。手術の前後に不必要な血管を閉塞するコイル塞栓(そくせん)や、狭くなった血管を拡張するバルーン治療など内科的なカテーテル治療を行う場合もあります。

川平 心臓を開く手術は一時的に心臓を止めなければなりませんので、人工的に血液循環を行う人工心肺装置を使います。お子さんの体への負担は極めて大きく、かつてはこの段階で命を落とす症例が多くありました。しかし近年、人工心肺装置はめざましく進化しました。治療に用いる人工血管やパッチなども含め手術関連器材の機能向上も治療成績の劇的な改善に大きく貢献しています。

 

胎児心エコー検査で
出生前に診断

中村 重い合併症を有する患者さんについては、さまざまな専門医が協力する集学的治療が必要になります。小児循環器専門医がコーディネートしながら、心臓外科医、産婦人科医、新生児科医、小児外科医、小児脳神経外科医、小児形成外科医、麻酔科医、臨床工学士、看護師らが連携し、綿密な管理のもとで治療しています。救命率を高めるため、さらに集学的治療のレベル向上に努める方針です。

川平 手術室で小児科医の助けを借りながら手術するケースもあります。術中、心エコーや食道エコーで難しい位置にあいている中隔欠損の位置を確認しながら手術することもあります。

中村 診断の新しい流れとして、胎児心エコー検査が徐々に普及してきています。出生前に診断することで、出生後のトラブルを減らし、早期に治療方針を立てられるメリットがあります。6年前に金沢大学の新井隆成教授と石川胎児心エコー研究会(現北陸胎児心エコー研究会)を設立して産婦人科医らへの啓蒙に取り組んできた結果、妊婦さんごと紹介されるケースが増えてきています。胎児の心臓内の渦を利用した新しい心機能評価法の共同臨床研究も新井教授と始めています。

川平 心臓外科では難しい症例に対する新たな手法にも積極的に挑戦しています。例えばファロー四徴症で肺動脈が極端に細い症例では、まるごと人工血管(導管)に置き換える手術や、中心肺動脈をできるだけ大きく成長させる手術に取り組んでいます。また、左室が狭く、大動脈も細い左心低形成症候群は生後1年以内に90%が亡くなる重い病気ですが、新生児期の手術は体への負担が重すぎるため治療成績が芳しくありませんでした。そこで、まず心不全を改善する手術で時間を稼ぎ、体がある程度まで成長してから本格的な手術を行う試みもしています。

 

妊娠・出産にも対応、
命つなぐ医療を構築

中村 小児循環器専門医として先天性心疾患の治療を受けた患者さんを長期にわたってフォローしており、成人した女性の妊娠・出産に対応する例もしばしばあります。妊娠すると血液量が1・5倍に増え母体に負荷がかかりますし、遺伝するリスクもあり、妊娠・出産の可否を判断しなければなりません。石川県内には小児循環器専門医は少なく、循環器内科医と緊密に連携して命をつなぐ医療を構築していきたいと考えています。

川平 先天性心疾患の外科治療には「根治」という概念はありません。目指しているのはあくまでも「修復」であり、できる限り正常な循環機能や血中酸素濃度に近づけることが目標となります。技術や機器の進歩により、現在では正常に近い状態で生活や運動ができるようになっていますが、さらに工夫を重ね、患者さんを救う努力を続けたいと思います。

 

先天性心疾患の疑いのある患者に対する心エコー検査

 

フォンタン手術における径16ミリの人工血管と下大静脈の吻合(ふんごう)

 

「手術の工夫を重ね手技を磨きたい」と語る川平教授

「出生前診断の精度を上げたい」と語る中村准教授

【月刊北國アクタス2013年11月号掲載】

 

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