2014年1月

金沢医科大学 教えて!ドクター 第22回

頭頸(とうけい)部がんの最新治療

再建手術で「生活の質」向上
高精度照射など放射線も進化

頭頸部がんは脳と目を除く首から上の部位にできるがんの総称です。罹患(りかん)率は約5%とそれほど高くありませんが、話す、噛(か)む、といった機能や、嗅覚(きゅうかく)、味覚などの感覚器が集中しており、日常生活の妨(さまた)げになることが多いがんの一つです。最新の治療法について金沢医科大学病院頭頸部・甲状腺(こうじょうせん)外科の辻裕之教授に聞きました。

 

【今月の回答者】

辻 裕之(つじ ひろゆき)

金沢医科大学病院 頭頸部・甲状腺外科教授(科長)
日本頭頸部癌学会評議員
日本耳鼻咽喉科学会専門医
がん治療認定医

 

根治性(こんちせい)重視しながら
機能温存にも配慮

頭頸部がんは耳、鼻、のど、頸部、顔面などに発生するがんの総称です。図に示した通り、たくさんの種類があります。

頭頸部は容貌(ようぼう)に深く関係するうえに、生きるために大切な機能や感覚器を多く備えています。

がんの発症や治療によって大切な機能が損なわれないよう、疑わしい症状があれば早期に診断を受け、治療することが、人間としての尊厳を守るうえでも重要です。体の表面に近い部分で発生することが多いため、問診、視診、触診などで比較的容易に診断できます。

頭頸部がんの約90%は扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと呼ばれるタイプで、進行が早い一方、大方は放射線治療が効(き)くとされています。腺がんは進行が遅いのですが、放射線治療はあまり効果がありません。

同じ扁平上皮がんでも、発生する部位によって治療方法が少しずつ違います。基本的には根治性を重視しながら、大切な機能をできるだけ温存するように配慮することがきわめて重要です。根治治療としては、手術療法および放射線治療が原則です。

早期がんに対しては放射線治療や狭(せま)い範囲の切除で治療が可能で、発声や嚥下(えんげ)(飲み込み)などの機能を温存できます。進行がんの場合は手術療法、放射線治療、化学療法(抗(こう)がん剤治療)を組み合わせた集学的治療を行います。

がんがかなり進行している症例や、放射線治療と化学療法の併用で大きな効果が期待できる症例では切除手術を行わない場合もあります。

 

再建技術の確立で
切除範囲が拡大

頭頸部がんの外科治療が目覚ましく進化したのは1980年代です。進行がんに対する再建手術の技術が確立し、それに伴い拡大範囲手術が可能になりました。

再建手術を舌(ぜつ)がんの例で説明しましょう。がんのために舌の半分ほどを切除したとします。そうすると残った舌も収縮して使えなくなります。そこで自分の体の別組織を血管ごと欠損部に移植し、血流を回復させて舌が機能できるようにするのが再建手術です。

この技術の進歩により手術できる症例が増え、先に触れた通り切除範囲も格段に広がりました。鼻・副鼻腔(びくう)がんが頭蓋底(ずがいてい)に進展した場合、脳や目との境まで切除しなければならず、かつては手術が不可能でした。しかし、再建技術の進歩により、こうした症例も手術が可能になったのです。

また、再建材料の選択肢が広がり、治療成績や切除後の「生活の質」も向上するようになりました。現在は前腕、腹部、背中の骨、筋肉、皮膚(ひふ)や小腸などが移植できるようになっています。

私は500症例以上の再建手術を執刀(しっとう)しています。その経験を生かし、金沢医科大学病院では形成外科とも協力しながら質の高い手術に取り組んでいます。

 

効果裏付けられた
化学放射線療法

かつての放射線治療は早期の扁平上皮がんに対しては効果が認められていましたが、進行がんでは効果が乏(とぼ)しいとされていました。

しかし、2000年代に入り、化学療法と併用することで治療成績が向上しました。特に放射線治療と抗がん剤投与を同時に行う同時併用療法(化学放射線療法)は高い効果が裏付けられています。

そのため、近年は手術が可能な症例でも化学放射線療法が幅広く行われるようになっています。切除しないため、基本的には機能を温存でき、金沢医科大学病院でも積極的に実施しています。ただし、臓器(ぞうき)が残っても機能が損なわれたり、合併症をきたしたりする例もあり、一概(いちがい)に推奨(すいしょう)できるわけではありません。

放射線の照射方法では、1日1回の通常照射に加え、1日2回の多分割照射も導入しています。1回当たりの線量を減らし、副作用を抑えるメリットがあります。

放射線療法における近年の最大の進化は高精度化です。従来は病巣部(びょうそうぶ)以外にも放射線が当たるため副作用のリスクが高かったのですが、高精度放射線治療は病巣部に強力な放射線を当てる一方、周辺組織に当たる放射線を抑えることができ、ピンポイント照射とも呼ばれています。

最先端の高精度放射線治療は炭素線を用いる重粒子線(じゅうりゅうしせん)治療です。周辺組織を通過して病巣部だけを狙い撃(う)ちし、がん細胞の死滅(しめつ)効果も高いとされています。

ただ、公的保険が適用されておらず、莫大(ばくだい)な費用がかかります。悪性黒色腫(こくしょくしゅ)など悪性度の高いがん以外については、費用対効果の検証が必要だと思われます。石川県内ではまだ導入されていません。

 

分子標的治療薬と
動脈注射療法の効果

頭頸部がんに使える抗がん剤の種類は多くありません。そのため、12年に厚生労働省が承認した分子標的治療薬「セツキシマブ」への期待が高まっています。

分子標的治療薬はがん細胞が持つ増殖や転移、血管の新生などに関与している分子を特定し、その働きだけを阻害してがん細胞を死滅させることを目指しています。「セツキシマブ」は扁平上皮がんのEGFR(上皮成長因子(いんし)受容タンパク質)を標的としており、劇的に効いた症例が報告されています。ただ、誰にでも効くわけではなく、どんな患者さんにどう使うべきかも明確になっていません。

近年、抗がん剤の新たな投与経路として動脈注射療法(動注)が導入されました。従来の静脈注射よりも頭頸部がんに対する効果が高いとされており、近年では「上顎(がく)がんが最も有効」との評価が定まってきています。しかしながら、注射方法が煩雑(はんざつ)で、まれですが、合併症にも注意しなければなりません。

患者さん自身の免疫(めんえき)細胞を活性化させ、がん細胞への攻撃力を高めるという免疫療法は、今のところ頭頸部がんに対する有効性が証明されていません。

 

高度なチーム医療で
個別化治療を推進

このように、多様な治療法が登場しているものの、絶対的なものはありません。したがって、治療法の引き出しをたくさん持ち、がんの種類や状態、生活背景、体力、年齢、意向などを考慮し、個々の患者さんに合った治療法、組み合わせ、優先順位を選択する個別化治療が重要だと考えられます。

化学放射線療法は、臓器が残っても時間が経過するとともに無視できない機能障害が認められることがわかってきました。

化学放射線療法か手術かどちらが最適かを選択することは大変重要ですし、そのためには、当然再建手術を含めた質の高い手術を提供できることが前提です。さらに、化学放射線療法後のがんの残存や再発に対してもより高度な手術技術が要求されることは言うまでもありません。

金沢医科大学病院は09年から、患者さんが理解しやすく、安心して診療を受けられるよう頭頸部がんに特化した診療科「頭頸部・甲状腺外科」を設けました。頭頸部・甲状腺外科を中心とする高いレベルのチーム医療により、1人1人にベストな治療を提供できるように努めています。

13年4月には大学に頭頸部外科学講座を新設し、より専門的に頭頸部がんを研究する体制を整えました。優秀な頭頸部外科医の育成をさらに強化していきたいと考えています。

 

舌の再建手術用に移植する前腕部分の一例

【月刊北國アクタス2014年1月号掲載】


金沢医科大学 教えて!ドクター(第17~19回)を掲載しました。

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掲載記事は「月刊北國アクタス(北國新聞社)」で紹介されているもので、
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