2014年3月

金沢医科大学 教えて!ドクター 第24回

増える「逆流性食道炎」

胃酸こみ上げ、食道粘膜傷つける

高齢化の進行や食生活の欧米化に伴い、「逆流性食道炎」が増えています。胃と食道の間にある下部食道括約筋の機能の衰えや胃酸過多などにより、胃酸や胃の中の食物が食道に逆流して食道粘膜を傷つける病気で、胸焼けや胸の痛みなどの症状が現れます。逆流性食道炎のあらましと診断・治療法について金沢医科大学病院内視鏡科の伊藤透教授に聞きました。

 

【今月の回答者】

伊藤 透

金沢医科大学病院 内視鏡科科長(教授)内視鏡センター部長
日本消化器内視鏡学会指導医・専門医
日本消化器病学会指導医・専門医

 

高齢化の進行や
食の欧米化が背景

逆流性食道炎は胃の中で食物を消化する胃酸や、胃で消化される途中の食物が食道に逆流して食道の中にとどまるために、酸に弱い食道の粘膜が胃酸によって炎症を起こし、びらん(ただれ)や潰瘍を起こす病気です。

典型的な症状は胸焼けですが、胃酸が口までこみ上げてきてげっぷが出る呑酸、胸が締めつけられるような痛み、咳や喘息、のどの違和感や声がれといった症状が見られることも少なくありません。命にかかわるような病気ではないものの、不快でつらい日常生活を送らねばならないことになります。

元来、欧米人に多く見られ、日本人の発症率は低かったのですが、高齢化が進んできたことや、食生活の欧米化に伴い、日本でも徐々に増加する傾向にあります。

症状の重さは内視鏡検査に基づく「ロサンゼルス分類」という物差しで判定するのが一般的です。症状が軽い順に、グレードA~Dの4段階区分が基本で、日本人にはこれに当てはまらない軽症患者が多いことから、より軽いグレードNとグレードMも日本独自に設けられています。

最も初期のグレードNは、胃酸や食物の逆流はあるものの内視鏡で検査しても粘膜の変化が認められないものを指しており、非びらん性胃食道逆流症もしくは内視鏡所見陰性食道炎と呼ばれています。

 

逆流防止機能減退と
胃酸過多が2大原因

逆流性食道炎の原因は大きく分けて2つあります。1つは下部食道括約筋や食道裂孔、食道のぜん動運動など食道を逆流から守る機能の衰えです。

下部食道括約筋は食道と胃のつなぎ目部分にあり、食べ物を飲み込む時はゆるんで開き、それ以外は閉じています。胃酸や消化中の食物が逆流しないバルブの役割を担っているわけですが、このしまりが悪くなると胃液が逆流しやすくなります。

食道裂孔は横隔膜部にある孔で、食道と胃のつなぎ目を締める役割を果たしています。このつなぎ目がゆるんで、胃の一部が食道側にはみ出す食道裂孔ヘルニアになると、さらに逆流しやすくなってしまいます。

いずれも加齢とともにゆるみがちになり、高齢者に逆流性食道炎が多い要因になっています。

もう1つの主要原因が胃酸過多です。食べ過ぎたり、脂肪分、タンパク質を取り過ぎたりすると、消化を促すために胃酸が多く分泌されます。それが過剰になると、胃酸が逆流しやすくなるわけです。

また、腹部の圧力が高まりがちで、食道裂孔ヘルニアになりやすい肥満も逆流性食道炎に関係しているとされています。

胃の中に生息するピロリ菌は胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因となりうる細菌です。近年、ピロリ菌の除菌治療が普及してきており、それが逆流性食道炎の増加につながっているという説があります。除菌すると、ピロリ菌による胃の炎症で抑制されていた胃酸の分泌が増えるから、というのがその理由です。

しかし、仮に逆流しやすくなっても一時的か軽度であり、あまり気にせず、より重い病気の予防・改善策であるピロリ菌退治を優先すべきだと考えます。

 

診断精度高い
内視鏡検査

逆流性食道炎の診断方法は問診や内視鏡検査などが基本です。問診では「QUEST問診表」という7項目の質問により、回答の合計点数で診断します。内視鏡検査は上部消化管内視鏡を口か鼻から入れ、モニターで食道の粘膜の状態をチェックする検査で、この技術の進歩によって、より精度の高い診断ができるようになりました。

内視鏡検査をすれば食道がんなどとの判別も可能です。もし区別がつきにくいようであれば、病変部の組織を取って検査を行うこともあります。

また、胸焼けなどの症状があるのに内視鏡検査で異常が見られない場合などは、逆流性食道炎の治療に使われるプロトンポンプ阻害薬(PPI)、薬品名ではパリエット、ネキシウムなどを一定期間、投与して、症状の改善状況を見て判断材料にします。

夜中などに急な胸の痛みや喘息発作などを訴えて救急センターを受診する逆流性食道炎の患者さんもいらっしゃいます。この場合は狭心症や心筋梗塞など命にかかわる病気である可能性もありますので、心電図やCTなどの検査を優先し、これらの病気である可能性を除外した上で内視鏡検査を実施します。結果、逆流性食道炎と診断されてほっとされるケースもよくあります。

 

薬物療法により
胃酸分泌を抑制

治療方法は胃酸の分泌を抑制する薬物療法が中心になります。最も多く用いられているのが先のPPIです。胃酸を分泌するプロトンポンプという部分の働きを妨げる効果があります。

症状が出た時に服用しますが、高齢者などでは持続的に投与することもあります。長期間、服用しても特段の副作用はないようです。食道のぜん動運動を活発化させる消化管運動賦活剤(ガスモチン、ガナトンなど)と併用するのが一般的です。粘膜保護薬や制酸薬などを併用するケースもあります。

ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)、薬品名ではガスター(20)なども胃酸の分泌を抑制する薬ですが、PPIよりも抑制力が弱く、現在は軽症の場合などに限って使われています。一部は市販されています。

PPIを服用し続けても治療効果に満足感が得られない場合、漢方薬の「六君子湯」で改善する例が少なからずあります。

重症化している際の外科的治療法として、食道裂孔ヘルニアを治療する「ニッセン手術」があります。食道の周りに胃の一部の筋肉を巻き付けて逆流を防止する噴門形成術で、欧米では体への負担が少ない腹腔鏡手術も普及しています。ただし、日本では重症患者さんが少ないことや、「慢性疾患に手術は必要ない」といった価値観が浸透していることから、症例数は極めて少ないのが現状です。

食道裂孔ヘルニアがあって、逆流性食道炎が長く続くと、胃の粘膜に似た円柱上皮という組織が食道にまでせり上がってくることがあります。「バレット食道」と呼ばれ、食道の扁平上皮が酸に耐えられるように変質したものと考えられています。

欧米人の場合、バレット食道が3センチ程度にまで広がり、そこが食道がん化するケースが時々あります。日本人は狭い範囲にとどまることが多く、がん化する例は現在のところ少数です。

ただ、食生活の欧米化が進んでいますので、今後はがん化する可能性が高まらないとは言えません。そのリスクを避けるためにも、きちんと逆流性食道炎の治療を行うことが大切です。

 

食生活に留意し
肥満防止を

逆流性食道炎と診断された時は、食べ過ぎに注意し、胃酸の分泌を増やしやすい脂肪分やタンパク質の多い食生活を改めてください。チョコレートなどの甘いもの、トウガラシなどの香辛料、レモンなど酸味の強い果物、消化の悪い食べ物なども控えめにした方が良いでしょう。

また、食後すぐに横になったり、腹ばいになったりせず、寝る前に食事しない、お腹を締めつけないといったことも心掛けましょう。

これらは逆流性食道炎の予防対策でもあります。ただ、度が過ぎるとストレスの原因にもなりかねませんので、それほど神経質になる必要はありません。バランスの良い食事と適度な運動を心掛け、肥満にならないように気をつける程度でよいと思います。

 

 

上部消化管内視鏡で食道を検査する伊藤教授(中央)

 

「肥満防止を心掛けましょう」と予防対策を説明する伊藤教授

 

【月刊北國アクタス2014年2月号掲載】

 

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