早期消化器がんの内視鏡治療
52-3 内視鏡科|教授 伊藤 透
1.消化器がんの早期発見
近年、本邦の病死分類における第1位は「がん死」です。昨年は大腸がんが1位となり、それまでトップであった胃がんが第2位となりました。しか し、胃がんの罹患率は低下したものの、実数は減少していないのです。多額の費用と労力を要するがん検診でも、その必要性を再認識させられるデータが示され ています。
がんの多くは進行しても症状がはっきりしないことが多く、まして早期がんでは、症状がほとんどありません。しかし、大学病院、政府、自治体等の啓 蒙活動が奏効し、がんに対する一般の認識が高まるにつれ、がん検診の受診者数は増加してきました。また、医療機器の性能と医師の診断技術や治療技術が共に 向上した結果、以前より早期のがん(粘膜表層にがんが限局し転移がほとんど認められない状態)が発見されるようになりました。
2.消化器がんの内視鏡治療
本学病院の内視鏡センターでは、これらの早期消化器がんの内視鏡治療を積極的に行っております。内視鏡治療の対象は、食道(この臓器は早期と言う のは規約上手術を施行した病変を指すので表在がんといいます)、胃、大腸等の早期病変ですが、開腹せずに治療が完了すれば、開腹手術より入院日数が短く済 み、医療費も安価で、患者さまに優しい治療法といえます。
3.内視鏡治療の適応
内視鏡治療には適応(治療条件)があります。その適応は、食道、胃、大腸等の病変が粘膜内に限局し、リンパ節転移の可能性がない病変に限られてい るのです。この条件を越える状態、すなわちリンパ節転移の可能性がある病変には、外科的手術が必要になります。この適応は、先達の消化器外科医が膨大な数 の各部早期がんを手術し病理組織検査結果の検討を積み重ねてきた成果として認知されているものです。
4.内視鏡治療法の事例
それでは、食道表在癌、早期胃・大腸がんの中で、とくに早期胃がんを例に、本学病院が現在行っている内視鏡治療法について説明します。
まず、本学病院の胃内視鏡検査で早期胃がんが発見されるか、または他医療機関からご紹介いただいた場合、外来(入院でご説明する場合もあります) で、超音波内視鏡検査(病変の大きさや深さ、胃壁の病変の状態を見る検査)、腹部CTスキャンなどの検査を行い、次いで、その早期胃がんの病態、治療方法 (内視鏡治療、外科的切除)、予後などをご説明し、患者さまの胃病変に内視鏡治療の適応があると判断される場合は、その方法をお勧めします。
つぎに、患者さまにどの治療を希望されるか尋ね、内視鏡的治療法(内視鏡的切開・剥離法など)、合併症(穿孔・出血など――こういう状況になった 場合は外科的手術が必要なこともあります)、経過観察方法などを説明し、さらにセカンドオピニオン(他の医療機関での治療法はどうかを診るという行為で す)の希望があるかどうかをお聞きします。内視鏡治療法を希望された場合は、原則的に切除2日前に入院していただき、切除前日に再度ご家族同伴のうえ、イ ンフォームドコンセント(説明したうえで同意をいただくこと)を行い、承諾書にサインを頂きます。
当日は内視鏡センター(必要があれば手術室)で内視鏡治療を行います。内視鏡的切開・剥離法は、内視鏡の先端に透明なキャップを装着して行いま す。まず、特殊な染色を施し、正常と病変の境界を充分観察後に特殊なフックナイフで病変周囲を焼いてマークし、そして粘膜下層にボスミンという血管収縮力 のある薬品を混ぜた生理食塩水を針で局注して、病変全体を持ち上げます。そして、フックナイフで周囲を注意深く、マークを指標に切開していきます。全周に 切開が終わったら、粘膜下層にナイフを入れ剥離操作を行います。剥離が完全に終われば治療は終了です。
治療時間は病変の大きさ、部位によって異なります。この剥離操作が最も難しく危険で1mm単位の操作を繰り返して行います。細心の注意を払って行 いますが、出血、穿孔等の合併症が起こりうる操作です。出血が起これば止血しながら操作を進めますが、大量の出血や穿孔の場合は治療を中断して、合併症の 治療を行わなければならないこともあります。また無事終了しても、時間が経過して同様な合併症が起こることもあり、いずれの場合も内視鏡で治療不可能と判 断された場合は手術が必要な事もあります。しかし、合併症なく完全切除されれば(最終的には病理組織学的に判断いたします)、数日で退院可能です。その後 は、切除後の潰瘍に対するお薬を服用していただき、定期的に胃内視鏡検査を受けて頂き、潰瘍の治癒状態、癌の遺残がないかを厳重にチェックさせて頂きま す。
早期消化器がんが発見された患者さまは、内視鏡治療についてご相談ください。



