先天代謝異常症
21-2 小児医学科(小児科)
1.この病気の原因
体の中の細胞では、細胞が生き続けるために大切な物質を合成したり、分解したりする物質代謝が盛んにおこなわれています。これらの物質には、アミ ノ酸、有機酸、脂肪酸、糖質、脂質、核酸、銅、ビタミンなど、多くのものがあります。たとえば、食品から摂った必須アミノ酸から他のアミノ酸を合成した り、分解したりすることが物質代謝です。
それぞれの物質が代謝によって変化するには、酵素の助けが必要です。逆に、酵素がなければ、代謝は進まないことになります。酵素はタンパクですの で、細胞は遺伝子情報を翻訳して酵素タンパクを合成しなければなりません。酵素遺伝子に変異があって、酵素タンパクが正しく合成されない場合には、特定の 代謝が停止してしまうことになります。これが先天代謝異常症です。この結果、物質代謝が進まず、分解されるべき物質は分解されずに蓄積して細胞が死んだ り、合成されるべき物質が合成されないためにその欠乏症状がみられたりするようになります。すなわち、先天代謝異常症は、特定の酵素遺伝子の変異が原因 で、いろいろな症状がみられる病気をすべて呼ぶことになります。病気の原因は、従って、酵素遺伝子の変異ということになります。
遺伝子は通常、父親と母親から受け継がれますが、先天代謝異常では、このふたつの遺伝子に変異があるときに発病するので、劣性遺伝と呼ばれます。 両親では、一方の遺伝子には変異がないので、発病することはありません。従って、先天代謝異常症は、病気の子どもの兄弟には発病することがあります。それ ぞれの病気の有病率(患者様の数の割合)は大変低く、稀ですが、病気の種類は多いので、全ての先天代謝異常症を入れると、患者様の数は、多くなります。
2.症状
一般に、酵素の働きが失われると、酵素の前の代謝産物が蓄積することになります。また酵素の後の物質は合成されなくなるため、欠乏症状があらわれ ることになります。蓄積する物質によっては、細胞を破壊するため、これが脳の神経細胞で起こると、精神運動発達遅滞やけいれんといった症状がみられること になります。また、エネルギーを産生する代謝経路に異常があると、エネルギーが欠乏することになり、エネルギーを多く消費する脳の働きが影響されることに なります。この結果、意識がなくなったり、けいれんを起こしたり、嘔吐をしたりといった症状が、突然あらわれるようになります。病気によっては、生まれて 数日から発病したり、小児期には大きな異常はないにもかかわらず、成人になってから発病したりする病気も知られています。
3.診断
酵素の低下によって蓄積する物質は、血液や尿に染み出てくるので、血液や尿中に異常に蓄積する物質をみつけることによって、先天代謝異常症の多く を診断することが可能となります。アミノ酸代謝異常症では、血中アミノ酸分析をおこない、異常に蓄積したアミノ酸をみつけることになります。有機酸代謝異 常症や脂肪酸代謝異常症では、尿中有機酸分析によって、異常に蓄積した物質をみつけることになります。尿中有機酸の分析に、特に有用な検査機器が、ガスク ロマトグラフィ質量分析計です。
金沢医科大学総合医学研究所は、全国に先駆けて、ガスクロマトグラフィ質量分析計による尿中有機酸分析をおこなっている数少ない施設のひとつとな ります。その他の病気では、尿中ムコ多糖体を調べたり、骨髄細胞に異常な物質が溜まっていないか顕微鏡を用いて調べたりします。最近、一部の疾患では、遺 伝子変異を調べて、直接遺伝子診断することも可能です。
4.治療
根本的な治療は、酵素の働きを元に戻す遺伝子治療が考えられていますが、未だ研究段階の治療となります。一般的には、病気の原因となる蓄積物質を 除去したり、蓄積しないように異常酵素の前の物質の摂取を制限したり、欠乏する物質を補う治療がおこなわれます。治療がうまくいかない場合もあり、病気に よっては、障害を遺したり、死亡したりする場合も少なくありません。遺伝子変異が原因となる病気ですので、遺伝病ということになります。病気の子どもがい る家族では、通常、次の子どもの25%に同じ病気がおこるため、時に重症な病気では出生前診断が可能です。この場合は、遺伝カウンセリングを受けることを お勧めします。遺伝カウンセリングは21世紀集学的医療センター遺伝子医療センターで受付しています。病気の遺伝子が性染色体であるX染色体にある場合に は、男性はX染色体をひとつしか持っていないため、母親から受け継いだX染色体上の変異遺伝子によって発症することになります。女児では、父親から変異の ない遺伝子を受け継ぐため、劣性遺伝であれば、通常、病気があらわれることはありません。詳しい説明を希望される患者様は、遺伝子カウンセリングを受診さ れますよう、再度お勧めします。



