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多発性硬化症の診断と治療

17-3 脳脊髄神経科(神経内科)|教授 松井真

1.多発性硬化症とは

多発性硬化症は、今から百数十年も前の医学書に既に詳しく記載されており、欧米では古くから知られた病気です。しかし日本では、戦後に海外から専 門家を招いて、この病気が日本にも存在するものなのかどうかを調査したくらいに一般の医師にはなじみの少ない病気でした。実際に、北欧やスコットランドの ような緯度の高い国では、人口10万人あたり100人もの多発性硬化症の患者さんがいることが知られていますが、同じ病気の患者さんが日本にもいることが 知られるようになった後も、つい最近までは人口10万人あたり1人か2人くらいの比較的珍しい病気だと考えられていました。ところが、厚生労働省の疾病対 策課が中心になって行われた特定疾患の調査研究によれば、1960年代以降に生まれた世代に明らかにこの病気にかかる人が増えていることが明らかになりま した。現在、全国平均では8~9人/10万人という数字が出ていますので、石川県には100人前後の患者さんがおられることになります。多発性硬化症は今 後も患者数の増加が予想されることから、珍しい病気であるという考えは誤りであると言わざるを得ません。

この病気は慢性的に体の調子を悪くし、放置すれば失明や寝たきりの原因になりますので、早めに発見して治療を開始することが大切です。

2.多発性硬化症の症状

多発性硬化症は、脳や脊髄が障害される病気です。片方の目が見えにくいという視神経障害に基づく症状で発症することが多く、また、病気の起こる場 所によっては、手足の力が入らない、しびれる、物が二重に見える、ろれつがまわりにくい、体がふらつく、さらには排尿困難など、様々な症状が出ます。

このような症状は、神経細胞同士の連絡を保っている神経線維(電線にあたります)を被覆している髄鞘(メッキにあたります)という膜が剥ぎ取られ るために起こります。これを脱髄と言います。脱髄が起こると、神経細胞から次の神経細胞に命令を受け渡しする際のスピードが遅くなり、神経細胞がもともと 担当している仕事をきちんとこなせなくなるために、機能低下という形で症状が出ます。例えば右手を動かしている大脳皮質の運動神経からの信号を伝える途中 の経路に脱髄が起これば、右手の麻痺という症状が出ます。

この病気は、いったん出現した症状が自然に良くなることがあり、治ったと勘違いしていると別の症状が出るというように、病気の再発と症状の改善を 繰り返す経過の中で、しだいに障害の度合いが増してくるという特徴があります。

3.多発性硬化症の原因

何故、脱髄というような現象が、脳や脊髄に起こるのでしょうか?

ヒトには免疫というシステムが働いています。免疫系は、外界から体内に侵入しようとする、あるいは既に侵入してしまった細菌やウイルスに対して、 白血球や抗体などの武器を駆使して排除する役割を担っています。ところが、多発性硬化症の患者さんの免疫系は、脳や脊髄の神経髄鞘を異物と誤認してしまっ ています。このことにより、自分の体の一部であるにも関わらず、白血球の仲間であるリンパ球などが、自分の脳や脊髄を攻撃してしまうのです。

4.多発性硬化症の診断

多発性硬化症の診断技術は最近20年間で大きく進歩しましたが、それでも診断に苦慮することが多い病気です。当院神経内科には、多発性硬化症診療 の専門家がいます。外来で行える神経内科的診察とMRI画像検査によりこの病気であることが疑われた場合は、1週間あまりの入院をして頂きます。そこで、 光や音などの刺激がどのような速さで脳の中を通っていくかを調べる誘発電位検査や、髄液検査、外来時よりも詳しいMRI画像検査などを受けて頂き、それら の結果を総合して診断します。

当院の神経内科では、最新鋭の免疫分析装置を導入しました。この器械を使用して、採取させて頂いた血液検体や髄液検体を詳細に調べ、免疫系の異常 を明らかにするとともに、病気の活動性を正確に評価して、治療に役立てています。

5.多発性硬化症の治療

多発性硬化症は、再発時には副腎皮質ホルモンを短期間点滴して治療します。しかし、生涯を元気に過ごすには、急性期に適切な治療を受けるととも に、再発を予防することが最優先課題です。現在日本で使用できる再発予防薬は、インターフェロンβのみです。神経内科では、自己注射薬であるこの薬がうま く使えるようになるための教育入院を行っています。また、治療法は世界的に研究が進められつつあり、近い将来、安全で良い薬が次々に開発されてくることが 予測されます。当院神経内科では、そのような新規の治療法をいち早く使えるようにするために、最大限の努力を払って行きます。

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