先天代謝異常症

 小児科(講師)伊藤 順庸

 

1.この病気の原因

体の中では、細胞が生き続けるために盛んに必要な物質を合成したり、分解したりしています。これらの物質は、アミノ酸、有機酸、脂肪酸、糖質、脂質、核酸、銅、ビタミンなど、多くのものがあります。たとえば食品から摂ったタンパクからアミノ酸を合成したり、アミノ酸を分解してエネルギーにします。このような現象を物質代謝と呼んでいます。

物質代謝には、「酵素」の助けが必要です。酵素はある物質(「基質」)を別の物質(「生成物」)に転換させる働き(「酵素反応」)を持っています。ヒトの生体内には約1万種類の酵素が存在するといわれています。もしも酵素が働かないと、酵素反応は停止します。この結果、物質代謝が進まないため基質が代謝されずに蓄積して基質の過剰症状がみられたり、生成物が合成されないために生成物の欠乏症状がみられたりするようになります。このような病態を先天代謝異常症といいます。

酵素はタンパクで出来ています。酵素タンパクの情報は遺伝子というヒトの設計図に書き込まれています。健常者と異なる遺伝子により酵素の働きに影響が出現する場合、この遺伝子は「変異遺伝子」と呼ばれます。したがって先天代謝異常症の原因は、酵素遺伝子の変異といえます。

遺伝子は父親と母親からひとつずつ受け継ぎますが、多くの先天代謝異常症では、このふたつの遺伝子の両方に変異があるときに発病します。両親は一方の遺伝子に変異がないので、発病することはありません。先天代謝異常症では、病気のこどもの兄弟にも発病することがあります。先天代謝異常症のそれぞれの病気の有病率(患者さんの数の割合)は大変低いですが、酵素の種類が多いので先天代謝異常症の患者さんの全体数は多くなります。

 

2.症 状

一般にある酵素の働きが失われると、その酵素反応の前の基質が蓄積されます。また酵素反応の後の生成物は合成されなくなるため、生成物の欠乏症状があらわれます。蓄積する基質によっては細胞を破壊するため、これが脳の神経細胞で起こると、精神運動発達遅滞やけいれんといった症状がみられることになります。またエネルギーを産生する代謝経路に異常があるとエネルギーが欠乏することになり、エネルギーを多く消費する脳や筋肉の働きが影響されることになります。この結果、意識がなくなる、けいれん、嘔吐といった症状が突然あらわれるようになります。病気によっては、生まれて数日から発病したり、小児期には大きな異常がないにもかかわらず、成人になってから発病したりする病気も知られています。

 

3.診 断

酵素の低下によって蓄積する基質は血液や尿に染み出てくるので、血液や尿中に異常に蓄積する基質を測定することによって、多くの疾患を診断することが可能となります。例えばアミノ酸代謝異常症では血中アミノ酸分析をおこない、異常に蓄積したアミノ酸や欠乏したアミノ酸を測定します。有機酸代謝異常症や脂肪酸代謝異常症といった病気では、尿中有機酸分析によって異常に蓄積した基質や欠乏した生成物を測定します。これらの検査以外にも病気の原因になっている遺伝子を検査する方法や、酵素の働きの程度(酵素活性)を測定することなどにより診断する場合もあります。

多くの先天代謝異常症の患者さんは、けいれんや精神運動発達遅延といった症状を発症することが診断の契機となっていました。このため症状が重症化してから診断される場合や、治療が間に合わず死亡する患者さんもいました。近年、新生児マススクリーニングといわれる新生児の先天疾患早期発見の公共事業において、複数の先天代謝異常症が検査対象として追加され、早期診断の有用な手法として注目されています。

 

4.治 療

変異遺伝子自体を修正する「遺伝子治療」は究極の治療法ですが、多くの先天代謝異常症では根本的な治療は未だありません。一般的には蓄積した基質を除去したり、基質の摂取を制限したり、欠乏する生成物を補う治療がおこなわれます。しかし治療がうまくいかない場合もあり、病気によっては、障害を遺したり、死亡したりする場合も少なくありません。いくつかの疾患で特殊な治療法が開発されています。不足している酵素を注射で補充する「酵素補充療法」はそのひとつで、ゴーシェ病、ファブリ病、ポンペ病、ムコ多糖症Ⅰ型、ムコ多糖症Ⅱ型、ムコ多糖症Ⅵ型などの病気で治療が可能となっています。またフェニルケトン尿症という病気では、酵素反応を補助する「補酵素」を経口投与することにより治療出来る場合があります。

変異遺伝子が原因となる病気は「遺伝病」と呼ばれます。多くの場合、病気のこどもがいる家族では、次のこどもが25%の確率で同じ病気がおこります。しかし遺伝病には様々なこどもへの遺伝のパターンがあります。詳しい説明を希望される方は、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。遺伝カウンセリングは集学的医療部遺伝子医療センターで受付しています。

 

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