02/11/28
■ 大腸菌のアルカリホスファターゼについて教えてください
【質問】
 突然のメール, 失礼いたします。私は生物系の学部に所属している大学生です。大腸菌の生産するアルカリホスファターゼについて詳しい資料が見つからなくて困っております。分野が微生物系とは多少違うかもしれませんが, 大腸菌のアルカリホスファターゼの性状や遺伝的な発現機構に関してご存知であれば教えてください。

【回答】
 回答者は臨床微生物学を専攻している者ですから, 質問者の意図するところと噛み合わないかもしれないことを予めお断りしておきます。

 そもそも「アルカリホスファターゼ」活性は, 臨床微生物学の分野では, Pseudomonas 属の中で Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)の産生する「アルカリホスファターゼ」が耐熱性であるのに対して, 他の Pseudomonas 属菌の産生する「アルカリホスファターゼ」は易熱性で, 70℃に20分の暴露でその活性が失活することから Pseudomonas 属間での鑑別性状試験項目としての有用性が評価されていたもので, 陽性対照に Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)を, また陰性対照に Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)をおいて行われてきました。

 一方, 腸内細菌科の Proteus 属, Providencia 属, Salmonella 属, Shigella 属, Klebsiella 属, そして Escherichia coli(大腸菌)も耐熱性の「アルカリホスファターゼ」を産生することが古くから知られており, その産生性は Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)と同様に極めて微量の(痕跡程度の)リン酸存在下でのみ起こることが明らかにされております。したがって, 特にリン酸を添加しない培地での培養が肝要です。もちろん, 菌体をリン酸バッファ−に懸濁することは厳禁です。なぜなら, リン酸は「アルカリホスファターゼ」活性の阻害剤として作用してしまうからです。

 さて, ご質問の《大腸菌のアルカリホスファタ−ゼの性状や遺伝的な発現機構》ですが、文献検索サイトである PubMed [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=PubMed] をご存知でしょうか??? この PubMed でキ−ワ−ドを入力して検索しますと, まさに最新情報から始まって, 質問者の知りたい情報が満載されておりますのでお調べ下さい。質問者は, 漠然と質問していますが, どんな実験を計画していて, そのためにどんな性状を知りたいのか, また, 何に対する遺伝学的な発現機構なのかがまったく不明です。知りたいキ−ワ−ドを入力してリタ−ンキ−を軽く押すだけですから, ご自身でお調べ下さい。

 なお、大腸菌を始めとする腸内細菌科の菌群においては、「アルカリホスファターゼ」の活性は、菌種鑑別には全く役立たずの試験項目であることから、臨床微生物学分野で重要視されたことはないのではないかと考えます。実は回答者も大腸菌の産生する「アルカリホスファターゼ」に関してはほとんど知識が無かったのですが、今回この PubMed を検索してみて、 Escherichia coli(大腸菌)の「アルカリホスファターゼ」に関して多方面からの研究論文が publish されていることに驚きました。

 質問者は学生さんですから、時間がタップリあるはずです。ジックリ検索して本当に知りたい情報に巡り合って下さい。

(信州大学・川上 由行)

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