03/08/18
■ MRSAと緑膿菌が院内感染したようです
【質問】
 はじめまして。お忙しい所申し訳ありません。HPを読ませていただき, とても誠実で, ご丁寧な回答に感動し, メールをさせていただきました。

 私は大学付属病院の口腔外科に勤務している歯科衛生士です。実は先月より祖父が脳出血で入院しました。入院当初から個室に入っていました。本日お見舞いに行った時に, 先日までなかったグローブ, ウェルパスが置いてあり, ドアに「入室する前にナースステーションにお声を掛けてください」と書いてありました。ナースステーションに行くと主任さんが出てきて, 祖父の痰と尿よりMASAがでましたと簡単な説明だけでした。私も大学に勤めるものとして, その簡単な説明では納得できずに, 「入院検査時には発見されてなかったと思うのですが???」とすぐに質問すると, 主任さんは慌てて「医療系の方ですかぁ???」と聞かれ, どこかに消えて行き, 戻ってくると「院長から説明がある」と対応が変わりました。その院長先生の説明も, “体力が落ちているから痰から検出された”とか, “熱がさがらなかったので検査したら検出された”と誤魔化すような説明ばかりでした。「MRSAと聞くと院内感染だと騒ぐ人がいますが, 間違いです」と言い切られてしまいました。あげくの果てに, 緑膿菌も口腔内より検出されたとのことです。これは当り前のことだという病院側の対応は間違っているのではないでしょうか??? 脳出血で入院後, 一時症状は落ち着いたのにもかかわらず, しばらくしてかなり長い間熱発していて, 尿も汚れており, 軽い肺炎も起こしていたようです。これは既にMRSAによるための症状ではなかったのしょうか??? CRPも22もあったのです。

 病室より出ると, 前まではなかった, ワゴンにグロ?ブなどがのった感染者用の病室が隣にも, 隣にも, さらにその隣にも, すごく沢山あることに気がつきました。すごく田舎の小さい病院に, こんなに沢山の感染者が沢山一度に入院されてるとは考えにくく, 集団感染ではないかと疑われるほどです。私事ですが, 自分の職場の病院で偶然にも院内対策委員として活動し, 勉強会にも参加させて頂いてます。毎月一度は培地を作り, SA検査をし, 菌が検出された所に関しては再度対策を考えると, 院内感染は絶対にあってはいけないことだと教育されてきましたし, 私自身もそう考えています。実際は絶対ということはないのかもしれません。でも, もしそうなってしまったときの病院の対応もあると思うのです。もしMRSAに感染していなければ, 脳出血の方もすぐにおさまっており, 退院できたと考えられます。MRSAによって入院も薬も増えました。その分の治療費まで払わなければならないものでしょうか??? 言葉は悪いかもしれませんが, 感染させられたのに, その分の治療費も払わなければならないのは仕方ないことなのでしょうか??? それに祖父の看護をする時に使用するグローブ代金4箱分の請求もされました。感染源として考えられるのは尿管から。もうひとつ気になっていたのは吸引チューブを何日も使用していること。使用したチューブを消毒せずに何日も変えてない生食水に浸けていました。使用するときにも清拭していなかったように思えます。やはりそういうところは気になって見ていたのですが・・・

 感染経路について病院側に質問しても良いものなのでしょうか??? 病院側は 院内感染を認めてくれるでしょうか??? あまり知識がない両親は, これからしっかり診察してくれればいいとことの重大さをわかってもらえません。「今日の説明の時も, あまり余計なことを話さないようにね」とくぎをさされてしまいました。祖父のこれからのことを思って, あまり問題を大きくしたくなさそうでしたが, 私はやはり納得できないのです。感染してしまったことは今さら 仕方ないとして, 今後の病院側の対応が気になります。

今日は気が滅入ってしまい, とても長いメールになってしまって申し訳ありませんでした。大好きな祖父のことなので, どうしても気になるのです。では, お返事をいただけることを心よりお待ちしています。

【回答】
 寄せられました質問を読んで, その状況に考え込んでしまいました。これは医学的な問題というより, むしろ社会的な, 底の深い問題だと感じるからです。

 すごく田舎の, それでいて結束の強い地域社会・・・貴方の両親はそのなかで生活しています。都会で医学知識を身につけた子供が帰って来て, その祖父のおかれている貧弱な医療環境に憤り, 病院と“ことを構える”ような素振り・・・両親としてみれば, ことさら波風をたてて欲しくないと思うでしょう。何故なら, これからもずっと両親はその地域社会で暮らし, もしかしたらその病院にお世話になるかもしれないと思っているからです。

 病院側も, 都会じゃないんだから, 大学病院じゃないんだから, 設備もヒトも貧弱な医療環境だということは恐らく充分認識していると思います。そこに, 都会から“医療系に係る親族”が現れて, なにか“いちゃもん”をつけそうな雰囲気・・・当然, 自己防御すべく, 身構えてしまうでしょう。

 医学的にみれば, MRSAも緑膿菌も, そのほとんどの事例が院内感染だと断言できます。お祖父さんは, 肺炎でもなく, 尿路感染でもなく, 脳出血で入院した訳ですから, 入院後に発症した感染症はすべて院内感染の定義に含まれます。しかし貴方にとって, 問題の核心は, お祖父さんが院内感染なのか否かではなく, むしろ院内感染となったお祖父さんをどうするかということでしょう。どうも貴方の質問の書き方からすると, 自分が納得できるか否かに強い焦点があるように感じます。

 私が勧めるのは, まず両親と充分に話し合い, 両親を理解することです。これからも両親が生活を続けていく地域社会とのかかわり・・・これがどのくらい重いものなのか感じとってください。恐らく, 貴方の納得できるか否かという問題より, ずっと重い筈です。もちろん, 院内感染は防止すべきものですし, 発生した院内感染は糾弾されるべきものです。分かっていながら, それができない・・・そこに人間社会の不条理があると思うのです。

 ただひとつ指摘して起きます。「祖父の看護をする時に使用するグローブ代金4箱分の請求もされました」とありますが, 保険医療機関ではこの種の実費徴収はできないと思います。平成12年11月10日付けで厚生省から通達された文書 (保険発第186号) では (1) 実費徴収するものがある場合には患者に説明し, 同意を得ること, (2) 実費徴収が認められるサービスは限定されており, 日常生活に必要なもの (おむつ代, テレビ代など), 公的保険給付とは関係ない文書の発行, 保険診療で実費徴収が認められたもの (薬剤の容器代, 在宅医療の交通費など) とあります。MRSA対策で使用するグローブ代はこれに該当しないと思いますので, 社会保険事務局へ照会されては如何でしょうか。

(琉球大学・山根 誠久)

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