09/04/09, 14
■ 百日咳菌抗体価の消長について
【質問】
 いつも大変勉強させていただいております。内科診療所をしております■■と申します。

 ここ最近, 百日咳が大人の間でとても流行っているように感じています。GNCB (gram-negative cocco-bacilli) はこれまで“インフルエンザ桿菌”と判断してきていましたが, 70歳の女性であまりにも咳が強いので, 培養で百日咳菌とインフルエンザ桿菌の同定を提出してみると, 結果は“百日咳菌”でした。それから意識して, GNCBで怪しい人は培養検査を提出するようにしています。しかし, どうしても痰が出ない方が多くて, 抗体検査で見てゆくことになるのですが, 東浜株あるいは山口株が既に320倍とか640倍とか1,280倍とかの高度に上昇している人は, ペア血清をとっても当然4倍以上の上昇はもうないと思うので, (単一の抗体価で)「感染確定」と判断しています。しかし, 疑問に思ったのですが, この抗体価はいったいどれくらいの期間で正常化 (陰性化) していくものなのでしょうか??? 感染と判断したものの, もしかしたらもっと以前に感染した時の抗体が残存していて, そのために上昇していることもあるのだろうかと疑問に思いました。調べてみても, どれくらいの期間で低下してくるか書いた文書にはまだ行き当たりません。ご多忙とは存じますが, ご教示いただければ幸いに存じます。

【回答】
 百日咳感染後の細菌凝集抗体価の推移について明確に記載したものは見つけられませんが, 経験的には抗体価の高値が年単位で持続する場合もあるようです。そうなると, ご指摘のように単回の抗体価で診断は難しくなります。また, 交差反応や (凝集原を含む) ワクチン接種後の上昇なども問題になり, 単回での細菌凝集抗体陽性の診断的価値は少ないと考える専門家もいるようです。EIA法による抗PT抗体や抗FHA抗体の変動を見たいところですが, 外部委託検査機関での受託は, 試薬の不具合で現在は中止されているようです。PCR法, LAMP法などの普及が望まれます。

(虎の門病院・米山 彰子)


【質問者からのお礼】
 ご教示ありがとうございました。百日咳の診断はなかなか難しいところなのですね。質問を重ねて申し訳ありません。喀痰培養は黄色い痰が採取できた時しか提出したことがないのですが, 百日咳が疑わしくても喀痰が採取できない場合, 咽頭部のスワブあるいは粘液状の喀痰でも百日咳菌の培養を行なってみることは出来るのでしょうか。もし培養してみる価値があるならば, 積極的に確認してみたいと思います。

【追加回答】
 百日咳菌の分離は, 発症してから1〜2週間のカタル期が最も分離率が高いと言われています。この時期, 喀痰ではなく, 鼻咽腔のぬぐい液あるいは平板培地に直接, 咳をしてもらうcough plate法も知られています。

(琉球大学・山根 誠久)


【質問者からのお礼】
 早速のご教示, 誠にありがとうございます。百日咳の診断に光明が見えた気がします。町医者をしていますと, このところ疑わしい成人の患者さんがたくさん来院されて, この3ヶ月で60人以上の百日咳抗体価を提出してきて, 2/3以上は抗体価が高く, 本当にこんなに百日咳の人がいるのかと心配になってきていました。マクロライドも良く効いているようなので, きっと間違いないだろうと思いながら, どうしても単血清に終わってしまうため, 確信がもてませんでした。検査センターと相談して, 培養を積極的に提出してみようと思います。ありがとうございました。


戻る