08/05/30, 6/10
■ 血液培養から「βhemolytic Strep non group A or B」
【質問】
 初めまして。●●市立病院感染管理リンクナースをしている■■と申します。今回, 菌種について教えて頂きたく, よろしくお願いします。

 先日, 血液培養より「βhemolytic Strep non group A or B」という検査結果が出ました。この菌はどういう菌でしょうか。さらに薬剤感受性について, また感染管理上の問題点で特にフォーカスとなるようなことがあれば, ご教授ください。唐突ですが, よろしくお願いします。

【回答】
 まず, 「βhemolytic Strep」とはβ溶血性(βhemolytic)レンサ球菌(Strep: Streptococcus) のことです。グラム陽性球菌であるレンサ球菌属の中には, 人や動物の赤血球を溶かす性質 (溶血性) の違いによりα溶血性, β溶血性およびγ (non-) 溶血性 (非溶血性) の3つのグループに分類されます。さらにβ溶血性レンサ球菌 (βhemolytic Strep)は, 菌体が保有する抗原 (ランスフィールド群特異抗原) の違いによってさらに細かく分類されています。A群, B群などの大文字アルファベットで表され, これが質問の「group A or B」です。通常よく使用される“溶レン菌”という言葉は, 多くの場合はA群β溶血性レンサ球菌 (Group A Streptococcus; GAS) のことを指しています。正式な学名はStreptococcus pyogenesで, 化膿レンサ球菌とも言われています。小児の咽頭扁桃炎や皮膚蜂窩織炎などの原因になりますが, 稀に劇症型溶レン菌感染症を起こすこともあり, “人喰いバクテリア”と呼ばれたこともあります。A群溶連菌に次いで人の感染症にかかわりの深い菌がB群β溶血性レンサ球菌 (Group B Streptococcus; GBS, 学名: Streptococcus agalactiae)です。この菌は人の消化管や膣内に常在しており, 新生児の敗血症や髄膜炎の原因になることもあります。つまり「βhemolytic Strep non group A or B」とはA群, B群以外のβ溶血性レンサ球菌ということになります。ヒトの感染症より分離されやすいその他の“溶レン菌”としては, G群, C群β溶血性レンサ球菌などが挙げられます。またF群抗原を持つレンサ球菌もヒトの感染症から分離されますが, この菌群はβ溶血性を示さないものが多く, 通常は“Streptococcus milleri”group (S. anginosus group) として扱われています。

 β溶血性レンサ球菌には, 肺炎球菌で問題となっているようなペニシリン耐性菌の報告はないようですが, 近年, マクロライド系薬やニューキノロン系抗菌薬の耐性菌が増加しつつあるとされています。ただ, 薬剤耐性という点では現在のところ感染管理上大きな問題になるようなことはないと思いますが, 前述の「劇症型溶レン菌感染症」はA群の菌だけでなく, G群やC群の菌でもごく稀に惹き起こすことがあります。そういう意味では, 血液培養などの本来無菌的な検査材料から検出されたβ溶血性レンサ球菌は, たとえA群あるいはB群以外であっても注意が必要です。進行が早く, 短時間で死に至る例もあるため, 迅速な対応が必要となります。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)
【質問者からのお礼】
 この度はお忙しい中,「βhemolytic Strep non group A or B」について, わかりやすくお答えして頂き, 本当にありがとうございました。自己啓発とスタッフへの啓蒙に役立てていきたいと思います。誠にありがとうございました。
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