一般的な注意事項
ラジオアイソトープ(以下「RI」という)は放射線を出す物質でその取扱いは法律(放射線障害防止法)で規制されています。RI実験室はその法律と学内規程(放射線障害予防規程
・ 放射線障害予防細則)に基づいてRIを正しく安全に使うための施設です。又、RI実験室は共同利用施設ですから、自己だけでなく他の利用者の放射線障害を防止する義務があります。利用者は次の注意事項を必ず守ってください。
- RI実験室の利用を希望される方は、利用に先立ち安全管理事務局(総合医学研究所事務課)へ申請すること(毎年度始めに定期申請を行いますが、
臨時にも受け付けます)。申請を終え、健診票をもらい所定の日時に指定の
科で健診を受けること。後日、安全管理事務局より使用許可証およびRI
手帳を交付します。これらは法律で定められたもので、健康診断などの台帳
となります。定期健康診断は1年に1回行いますので必ず受診すること。
- RI手帳は各自保管し、定期健康診断のとき安全管理事務局(大学院・学
術交流課)に提出すること。この手帳に、健康診断と被ばく線量などの結
果を記録し、学外など他のRI施設を利用される場合はこれを持参して下さい。
- 使用開始時、上記の許可証を当施設に提出しなければ、RIを使用できません。
- RIはすべて用度課を通じて購入すること。個人では購入できません。
- RI実験室内では、放射線取扱主任者および担当係員の指示に従うこと。
- RIをRI実験室以外に持ち出すことはかたく禁止します。
- 実験に伴う廃棄物はすべて定められた廃棄容器に入れること。
- RIの使用量、廃棄量、保管量など必要事項は必ず所定のコンピューター(利用者入力装置)に入力すること。
- 妊娠期間は、可能な限りRI使用は避けること。
- 汚染、その他の事故が生じたときには、直ちに対処し、早急に担当係員もしくは放射線取扱
主任者まで連絡すること。(緊急時連絡網参照)
RI施設の概要
RI施設の概要は別紙のような配置ですが、新しい実験を始めるときには、係員に相談して場所の指定を受けること。特にガンマ線を出すRIや大量の
P-32などを使う人は高レベル実験室を使っていただきます。
- 使用できる核種と量
本学のRI実験室は臨床研究棟の9、10階(臨床研究棟平面図)と基礎研
究棟の4階(基礎研究棟平面図)にあり、それぞれの施設で使用できる核種
と量は別表(RI許可使用量-基礎研究棟・RI許可使用量-臨床研究棟)
のように定められています。 これ以外の核種およびこれ以上の量は使えません。
- 研究用設備機器
RI実験室には別表(RI設備機器一覧)のような研究用設備機器が設置
されていす。 毎年、定期教育訓練の機会にRI利用者会が実地されています。研究用設備
機器の要望が有りましたら、その場で要求して下さい。
利用者の義務
利用者は、下記の事項を厳守して下さい。
- 利用者は安全管理事務局へ申請し、諸手続きを
経て、許可証を施設に提出すること。
- 入口にある机上の所定のコンピューターに下記のことを毎回必ず入力すること(法律で
定められています)。
- 使用時間
- 使用核種とその量および使用場所
- 廃棄核種とその量・廃棄場所、および廃棄物の種類
- 保管核種とその量および保管場所
- 使用機器
- 汚染の有無
- その他必要事項
- 汚染(自分自身が汚染したとき、床にこぼしたとき)、器具の破損、故
障などは必ず係員に連絡してその指示に従うこと。
- 安全な取扱いの基本的注意事項を守ること(次項)。
- 定期健康診断(血液検査)を受けること。
- 定期教育訓練を受けること。
- 施設内の掲示を熟読すること。
安全な取扱い
放射線障害を未然に防ぐため、次の事項は必ず守って下さい。
- 実験前
- 作業衣、スリッパ等はRI専用にすること。
- フィルムバッチなどの被ばく線量計を着用すること。
- RIの使用は原則としてフード内で行うこと。
- 強いベータ線、ガンマ線を出すRIを使用するときは鉛ブロック等で
しゃへいをし、高レベル室内で取扱うとともに、低レベルの実験室へ
持ち込まないこと。
- 実験台の上にポリエチレンろ紙を敷くこと。
- ゴム手袋を着用すること。
- 実験中
- 防護の3原則
距 離 : なるべく遠くに
時 間 : なるべく短かく
しゃへい : しゃへい物をおく
- ピペットは口で吸わず安全ピペッターあるいは駒込ピペットで。
- 禁煙、禁飲食。
- その他RIが身体へ入るおそれや、身体に付着するおそれのある操作は避けること。又、手足に傷のあるときはRIの使用は避けること。
- 火気が伴う実験は極力避けること。
- RI投与した実験動物(マウス・ラットのみ)は、専用の飼育棚(コ
イトロン)で飼育すること
- 実験後
- RIを指定する保管場所(貯蔵庫)に保管し、絶対に机上などに放置
しないこと。これは「集中の原則」とよばれ安全操作の基本です。こうすることによって他の人への被ばく、汚染が防止され、非常持出し(火事など)のときにも役立ちます。
- 廃棄物は指定場所に区別を明確にして廃棄すること。これを怠ると廃棄物集荷業者(RI協会)に集荷の拒否を受けます。(廃棄物処理)
- 水溶性廃棄物はpHを中性にし、無機液体容器に廃棄すること。
- 固形物は可燃性(紙類)、不燃性(ガラス類)および難燃性(プラスチック・ビニール類、ゴム手袋など)に分け、指定された廃棄容器に廃棄すること。
- 動物は必ず開腹した後、乾燥装置にて乾燥廃棄物とする。おがくず等は可燃性容器に、排せつ物等はろ紙にしみこませて乾燥した後可燃性容器に入れること。ただし、マウス、ラットなどの小動物に限る。
- 大きな廃棄物は係員に相談すること。
- γ線を放出する高レベル廃棄物は鉛ブロックでしゃへいし、減衰後所定の廃棄容器に廃棄すること。
- 洗いものはRI実験室で行うこと。
- 高濃度の汚染物は廃棄物容器へ入れること。
- 放射性有機廃液(トルエン・キシレンなどを含むシンチレーター)は廃棄業者(RI協会)が引取りませんので、極力有機廃液を出さないよう工夫すること。
- ピペット洗浄は短時間で行うこと(排水タンクが一杯になる)。
- クロム硫酸の使用は禁止します。中性洗剤を使うこと。
- 水道栓は必ず閉じること(排水タンクがあふれる)。
- 電源をOFFにすること。
火災などの事故を未然に防ぐため、使用後は用いた機器のうち可能なかぎりその電源をOFFにすること。特にウォーターバスなどは最もリスクの高い機器で、使用後はコンセントを抜いておくこと。
- 汚染などの事故の場合
- 汚染範囲に印をつける。
- 自分で始末せず必ず係員に連絡すること。
- 特に測定器は汚染しないよう十分に注意すること。
- 測定室の汚染は極力少なくし、バックグランドを上げないこと。
- 退出のとき
- 汚染検査を行う。
机、作業衣、身体、実験器具などの汚染をサーベイメーター及びハンドフットクロスモニターあるいはふきとり法(係員に相談すること)などで調べ、必要なら除染すること。
- 退出時は必ず手を洗うこと。RI汚染を教室や家庭まで持ち帰らぬよう「きれいな身体」で退出すること。
- RI使用・廃棄・保管などの量を入力すること(前節「利用者の義務」参照)。
- 危険時の措置(緊急時連絡網参照)
- 火災・地震などで緊急の事態を発見した人は、直ちに災害の防止に努めるとともに、係員および放射線取扱主任者等に連絡し、その指示に従うこと。
- 放射線障害を受けた人を発見した場合は、直ちに救出し、係員および放射線取扱主任者等に連絡すること。
- 事故時の措置(緊急時連絡網参照)
RI物質の盗取、所在不明、その他事故を発見した場合は、直ちに放射線取扱主任者に連絡すること。
- 環境への配慮
RI実験室に入ったRIは、放射性廃棄物にならない限りRI実験室から外へ持出されることはありません。この放射性廃棄物は法律に従いRI協会が引き取るものですが、法律で規制する必要があるRI量(74Bq/g)以下なら注意して取り扱う必要がないというとにはなりません。一度RIとして入手したものはいくら子分け希釈してもRIです。しかし極めて薄い濃度の場合、排気中および排水中に放出してもよい濃度というのがあります。これは法律の告示第14条の値で、主なRIについては次の通りです。
核種 |
水中濃度 |
空気中濃度 |
3H |
6x101Bq/cm3 |
5x10-3Bq/cm3 |
14C |
2x100Bq/cm3 |
2x10-4Bq/cm3 |
32P |
3x10-1Bq/cm3 |
1x10-4Bq/cm3 |
35S |
1x100Bq/cm3 |
2x10-4Bq/cm3 |
45Ca |
5x10-1Bq/cm3 |
5x10-5Bq/cm3 |
51Cr |
2x101Bq/cm3 |
3x10-3Bq/cm3 |
125I |
6x10-2Bq/cm3 |
2x10-5Bq/cm3 |
水中濃度を液体シンチレーションカウンターで検出すると、
3Hで1ml中3600dpm、32Pで18dpm、125Iでは3.6dpmです極めて低い放射能です。空気中濃度にいたっては何千何万倍も濃縮せねば検出できません。しかし、排水・排気量全体として算出すると大きな量になります。従って、RI実験室内の排水中や空気中へのRI量は最小限になるよう努力すべきです。本学は住宅地域に囲まれ、RI施設は研究棟内に設置されています。実験者は環境への配慮を常に考える義務があります。
おわりに
現在基礎医学の研究に用いられている程度のRI量は、使用法を誤らない限り恐れる必要はありません。しかし、RIは物理的性質として崩壊する以外に絶対に消滅せず、3Hで半減期は12、3年、14Cは半減期は約6000年ですから汚染は長く残ります。また、フィルムバッチなどの結果で被曝が無くても、内部被曝があり得ますので安心はできません。いくら高濃度でも3Hはフィルムバッチでは検出されません。核種の種類と化合物形態によっては内部被曝の可能性が増します。元素単体の例では
、125Iや 131Iは甲状腺、32Pや 45Ca、85Srは骨に、59Feは血液に取り込まれます。また、3Hの水と チミジン、32Pのリン酸と dATPなどのように、化合物の種類によっても生物学的影響が異なり、放射性の核酸前駆体は、細胞死・突然変異を誘発する可能性があります。
RI実験室の中は、他の場所よりも確実に汚染されていることを想定して利用すべきです。
放射線の発がんや遺伝的影響は、いくら微量でもそれに応じて確率的に起こるとされています。つまりある程度以下なら安全ということはありません。たとえ極めて微量でも、RI利用者以外の人に不安感を与えることのないよう特に注意して下さい。
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