第23回日本医用マススペクトル学会年会

ご案内
 年会長 久原とみ子 (金沢医科大学総合医学研究所人類遺伝学部門長)


 質量分析は電磁場での荷電粒子の取り扱いと云う意味で物理学の世界であり、イオンの発生から化合物分析までは化学の世界で、生体物質の分子情報を得ることでは生物学的な意味があると云えます。日本医用マススペクトル学会は生命科学の基礎研究から実地医療に至る広い範囲で、この学際的な質量分析の応用と普及に重要な役割を果たしてきました。今後もその進歩に大きく貢献するものと期待されます。

 さて、第23回日本医用マススペクトル学会年会を本年9月24日から26日の3日間、金沢市文化ホールで開催させて頂くことになりました。 招待講演は初日に前米国質量分析学会会長でリピドメディエーターの権威であるR. C. Murphy 博士に講演して頂きます。また、ヒトゲノム計画が21世紀初頭には完結すると云われていますが、ポストゲノムプロジェクトとして脚光を浴びていて、生物学上革命的とも云えるプロテオームプロジェクトの質量分析の第一人者である J. R. Yate 博士が2日目に講演されます。ところで 21世紀は脳の時代とも云われていますが、3日目には神経化学の分野、とりわけニューロペプタイドについて造詣の深いD. M . Desiderio 博士に講演をお願いしました。

 シンポジウムも3つのテーマを採り上げ、初日に蛋白質やDNAなどの高分子化合物の構造解析の医学応用をテーマに和田芳直先生、松尾武清先生に、2日目午後には免疫疾患、腎疾患、糖尿病、老化あるいは妊娠糖尿病などの疾患解明、疾病の予防、早期診断、モニタリングなど医療に直結したテーマで前田憲志先生、芳野信先生にそれぞれ、企画から司会までをお願いしました。

 GC/MS は現在、先天代謝異常症の診断支援に活発に利用されています。しかし、現行では一部の既に発症した先天代謝異常症の患者を対象にしているにすぎません。心身障害発症予防のキーワードは早期診断・早期治療です。この診断支援システムの対象を新生児とし、発症前の早期に発見して一層の心身障害発症予防効果をあげるための新生児スクリーニング試験研究が本学会と日本マススクリーニング学会の共同で進められてきて、既に3年が経過しました。久留米大学、島根医科大学、千葉こども病院、それに金沢医科大学の4施設でこれまで、16,246 名の新生児をスクリーニングし、貴重な成果を得てきました。このような成果を踏まえて、試験研究の強力な推進者である本学会理事長の松本勇先生と前マススクリーニング学会理事長の坂元正一先生の企画並びに司会で2日目午前中にシンポジウムが行われます。Usha P. Dave 博士、Pornswan Wasant 博士、董 貴章博士と私が、この試験研究で採用している”簡易ウレアーゼ法”を用いておこなった、タイ、インド、中国、日本でのハイリスク児・ローリスク児のスクリーニング成績についてそれぞれ、発表し、討議します。

 ワークショップは横河アナリティカルシステムズ(株)の代島茂樹博士とサーモクエスト(株)の生澤英典博士の司会で、機器メーカー7社より最先端の技術情報を提供頂きます。デモンストレーションも予定しております。

 第 23 回年会が先生方の今後の研究の発展に役立てるよう願っております。多くの方々のご参加を期待して止みません。