気胸

気胸とは

気胸とは、何らかの原因によって肺に穴があいて空気が胸の中に漏れることにより、肺が縮んでしまった状態のことを言います。気胸には大きく分けて、若年者に多い「原発性自然気胸」と中高齢者に多い「続発性自然気胸」があります。そのほかに事故で肺が損傷を受けて起きる「外傷性気胸」もあります。

原発性自然気胸と続発性自然気胸

原発性自然気胸は、若年男性でやせ型の人に多いとされています。原因は不明ですが、肺の一部が過剰に膨らんで壁が薄い部分ができ(ブラといいます)、そこが破れて起きます。続発性(自然)気胸は、もともと何らかの肺の病気があって、そのために肺の一部の壁が破れてしまうものです。原因になる病気には、肺癌、悪性胸膜中皮腫などさまざまありますが、最も多いのは肺気腫によるものです。そのため、続発性気胸は中高年男性の喫煙者に多い病気です。症状としては、いずれの気胸も、胸痛、背部痛、呼吸困難、咳などが多いです。

特殊な気胸

1.両側気胸
通常の気胸は片側のみ起きますが、気胸の原因となるブラは両側にできていることが多いです。そのため、まれに両側同時に気胸になる場合があります。肺の縮み方が高度であれば十分な呼吸ができず命にかかわる状態ですので、早急な治療が必要です。
左右ともに気胸の状態で、矢印で示すように両肺が縮んでいます。
早急に肺を伸ばさないと危険です。(黄矢印:右肺,白矢印:左肺)
2.血気胸
まれに、気胸に出血を伴うことがあります。これは、胸の中に癒着しているような部分があって、そこに血管が流入していたところが、気胸の発作で肺が縮む際に千切れてしまうことなどにより起きます。1000cc以上出血することもあるので、迅速な治療が必要です。
3.緊張性気胸
通常の気胸は、破れたほうの肺は縮みますが、反対側の肺は普通に呼吸ができます。ところが、まれに破れたほうの胸での空気漏れが大量となり、反対側の肺まで押しつぶしてしまうことがあります。こうなると残った肺も呼吸ができず、呼吸困難が強い状態になります。生命の危険もあるため、早急に治療を開始しなければなりません。
左胸部は漏れ出た空気のみになり、左肺は矢印部分で完全に潰れています。
右肺も左から押されて潰れ気味であり、呼吸は困難な状態です。

上記の1-3の病態はいずれも緊急の治療を要します。また、再発した場合に再び危険な状態になりやすいため、下記の気胸の治療法のうち、再発する可能性がより小さい手術療法を選択することをお勧めしています。


4.月経随伴性気胸
月経周期と関連のある気胸で、子宮内膜症の一つの病態です。子宮内膜が子宮以外の場所にできることがありますが、それが横隔膜や肺胸膜にできた場合に、月経とともにそれらが脱落し、それによって気胸を起こします。手術だけでは完治は困難で、ホルモン療法などが行われます。

気胸の治療

気胸の治療としては、肺の縮み方が軽度の場合には、「安静」で様子を見ます。肺の縮み方が中等度以上の場合には「安静」では治りませんので、局所麻酔をした上で胸に管を入れて中の空気を引っ張り、縮んだ肺を伸ばすようにします(胸腔ドレナージ)。それでも治らない場合や、再発を繰り返す場合などは手術をお勧めしています。手術には「胸腔鏡下肺楔状切除(ブラ縫縮術)」と「開胸下肺楔状切除(ブラ縫縮術)」がありますが、若年者に多い「原発性自然気胸」の場合には「胸腔鏡下」で行えることがほとんどです。この方法はカメラを使って行う方法ですが、胸部には1-2cm程度の傷を3つ付けるのみでできるなど、傷も小さく術後の回復も速いと思われます。中高齢者に多い「続発性気胸」の場合には、もともとの原因となった肺の病気の程度により、術式が選択されます。また、肺の手術を行うことが危険と思われるような患者さんの場合には、手術ではなく胸の中に薬を入れて空気の漏れを止める「胸膜癒着療法」が選択されます。さらに、それでも漏れを止められないような患者さんに対して、当科では気管支にシリコン製の詰めものを入れて空気漏れを止める「気管支鏡下気管支塞栓術」も行っています。

気胸の再発

原発性自然気胸は再発が多い病気です。保存的治療である「安静」や「胸腔ドレナージ」は最も再発が多く、手術療法はそれよりも少ないですが、それでもある程度の患者さんには再発が起こります。保存的治療ではブラが残っているので再発するのはある意味当然でもあるのですが、手術でブラを全部切除した例でもしばしば起きます。最近の研究で、再発の原因の多くは、切除した部分の近くの肺が強い力で引っ張られることにより,新たにブラが発生する(ブラ新生)ためであろうことがわかってきました。ブラ新生自体を予防することは困難なのですが,当科ではブラ新生を起こしても気胸にならないように,切除部位を特殊な材料でカバーして胸膜を厚くさせる手技を加えることで,気胸を再発しにくくすることを全例に行っています。