胸部外傷

1.概要

胸部外傷は、大まかに鋭性胸部外傷(刃物などによる鋭い傷で生じた外傷)と鈍性胸部外傷(打撲などによる鈍い傷で生じた外傷)の2つに大別されます。胸に穴が開いているか否かによって、非穿通性と穿通性にも分類されます。
鋭性胸部外傷は(戦傷等は除く)一般に破壊力が小さく、軽傷であることが多いです。
鈍性胸部外傷は約10%に気胸(胸の中に空気がたまる病態)・血胸(胸の中に血液がたまる) ・血気胸(胸の中に空気と血液がたまる)が認められ、また多くは肋骨骨折を伴います。
胸部外傷による疾患は上記の肋骨骨折、外傷性気胸・血胸・血気胸のほか、肺損傷や気管支損傷などがあります。
これらのほとんどは、胸部X線や胸部CT検査で診断できます。

2.肋骨骨折

概要:多くは2-4本の骨折を示し、部位は第4~9肋骨が多いです。一般に3本以上の肋骨が折れると合併症も増えます。
症状:骨折部の痛み、それに伴う呼吸困難などがあります。2本以上の肋骨がそれぞれ複数個所骨折すると、その部位が凹んで見えます。
検査:胸部X線やCT検査で診断可能です。

肋骨骨折CT所見
交通外傷による肋骨骨折の一例です。黄色の矢印で指している部分が骨折部位です。
治療:骨折のみの場合は、鎮痛と安静、胸帯の装着で改善します。腕や足などの骨折のように、手術をしてボルトやワイヤーで整復・固定する必要は殆どありません。気胸や呼吸不全などを併発している場合は、それぞれに対する治療が必要になります。

3.外傷性気胸・血胸・血気胸

概要:外傷のエネルギーによって、肺表面が傷ついて、そこから空気が漏れて胸の中に空気がたまり、肺が潰れてしまう状態になることがあります。これを外傷性気胸と言います。空気ではなく、血液がたまれば外傷性血胸、空気と血液の両方がたまれば外傷性血気胸という病態になります。
症状:外傷に伴う痛みや、肺が潰れることによる呼吸困難などがあります。
検査:胸部X線やCT検査で診断ができます。

外傷性血気胸CT所見
自宅内で転倒、テレビ台に左胸部を打撲し受傷した症例です。黄色の矢印が、胸にたまった空気により縮んでしまった肺を、黒い矢印が出血によりたまった血液を示します。
治療:たまった空気や血液の量が多く、呼吸困難に陥っている場合は、胸腔ドレーンと呼ばれる管を挿入し、たまった空気や血液を胸の外に排出させます。たまっている空気や血液の量が多く、ドレーンを挿入した後も出続ける場合は、手術が必要となります。

4.肺損傷

概要:外傷のエネルギーによって、肺の表面の胸膜は傷つかないが、肺の内部が傷ついて、内出血や組織の挫滅が出現することがあります。体の怪我でいう「あざ」と同様の状態です。これを、肺挫傷と言います。肺の表面の胸膜も傷つけば、肺裂傷になります。肺裂傷に陥ると、裂傷部位から肺の空気や血液が漏れ、気胸や血胸・血気胸になります。
症状:外傷に伴う痛みや、肺挫傷によるガス交換不全から生ずる呼吸困難などがあります。
検査:胸部X線やCT検査で診断ができます。肺挫傷では、挫傷部位の肺がすりガラス状に白色を呈します。肺裂傷では、肺挫傷の所見に加え、裂傷部位から漏れた空気や血液が胸の中にたまった所見が認められます。

肺挫傷・肺裂傷CT所見
交通外傷による肺挫傷・肺裂創の症例です。黒の矢印で指した、すりガラス状に白っぽく見える肺が、肺挫傷に陥っている部位です。黄色の矢印で指している部分は、肺裂傷の部位から空気が漏れ、そのため縮んだ肺を示しています。肋骨骨折も認めます。
治療:肺挫傷の場合、呼吸の状態が保たれていれば、自然に回復します。「あざ」が自然に治癒する事と同じです。呼吸の状態が悪い場合は、人工呼吸器の装着が必要となることがあります。肺裂傷は、外傷性気胸や血気胸と同様の治療を加える必要があります。

5.気管・気管支損傷

概要:外傷のエネルギーによって、気管や気管支が損傷する病態です。
症状:外傷に伴う痛みや、呼吸困難などがあります。気管や気管支から漏れた空気が皮下や縦隔にたまる、皮下気腫や縦隔気腫をしばしば併発します。
検査:胸部CTや気管支鏡検査で診断します。
治療:損傷が軽度であれば、自然に回復します。損傷が高度な場合は、手術が必要になります。