試験実施計画書(案)

サリドマイドによる多発性骨髄腫の治療

試験責任医師:○○○○大学病院○○○○科教授  ○○○○

                       「2002年2月8日作成」第1版   
                       「2002年3月2日改訂」第2版
                       「2002年3月29日改訂」第3版

      

1.試験の概要
[試験課題名]
 サリドマイドによる多発性骨髄腫の治療

[対象]
 難治性多発性骨髄腫患者

[選択基準]
通常の化学療法よりもサリドマイドの方が治療効果および有害事象の点で好ましいと主治医が判断し、患者自身の文書による同意が得られた症例

[除外基準]
(1)通常の化学療法で十分な治療効果が得られると考えられる症例
(2)患者自身の文書による同意が得られない症例

[中止基準]
(1) 被験者より試験参加の同意の撤回があった場合
(2) 有害事象の発現(原疾患の増悪、合併症の悪化、新たな疾病の併発等)により、試験責任(分担)医師が試験を中止すべきと判断した場合
(3) その他、試験責任(分担)医師が試験を中止すべきと判断した場合

[目標症例数]
2〜4症例

[試験方法]
(1) 試験デザイン
オープン試験
(2) 試験薬
サリドマイド(輸入薬品)
(3) 投与方法
1日200mgから開始し、1日1回就寝前に経口投与する。2〜4週毎に200mgづつ増やし最大800mgまで増加してもよい。治療効果および有害事象の有無を観察し、適宜増減する。
(4) 投与期間
2002年3月より投与開始可能な症例より開始。治療効果があり大きな有害事象が出現しない限りは投与を継続する。なお、将来本剤が本邦でも発売され保険適応となった場合(現在のところその見込みは全くないが)にもこの試験はその時点で終了とし、そこからは通常の保険診療とする。

2.試験計画の経緯および背景

2.1.疾患の背景
 多発性骨髄腫(Multiple Myeloma; MM)は骨髄中の単クローン性異常形質細胞の増殖、単クローン性M蛋白の増加、多発性骨融解を特徴とする予後不良な血液悪性腫瘍の一つである。MMの発症には地域差が認められ、高い北欧、米国、イタリア、低いわが国を含むアジア諸国、中間の英国、フランス、オーストラリアなどに区別される。近年、これまで低発生率であった国でも増加傾向が認められる。また、40歳未満には極めてまれ(2%以下)に発症するのみで、65-70歳が発症のピークである。男性が女性より多く、約60%を占める。わが国では人口10万人あたり2人程度の発症で、MMは全悪性腫瘍の約1%、造血器腫瘍の約10%を占める。これまでのところ、MMの発症に関する特定の病因物質は見出されていないが、発症要因として加齢、放射線被爆、慢性的抗原刺激、環境暴露などが指摘されている。

2.2.標準治療
 現在多発性骨髄腫に対する標準的化学療法はL-PAM(Melphalan)とPrednisolone(PSL)の内服を4-6週に一度行うMP療法である。MP療法により、通常は部分寛解(PR)以上の効果が40%程度に得られるが、50%生存期間(MST)は2.5−3年であり、その治療効果は十分とは言えず、長期無病生存(5年)は10%以下と稀である。種々の多剤化学療法が報告されMP療法とのランダム化比較試験では奏効率で有意に10−15%程度高いことが明らかにされている。しかしいずれの多剤併用化学療法においても生存期間の有意な延長という意味ではMP療法を凌駕する成績は出ていない。更にdose intensityを高める目的で、近年わが国でも保険適応が認められた静注用Melphalanを用いた自家末梢血幹細胞移植(autoPBSCT)併用大量化学療法(HDC)も行われるようになり、若年症例では完全寛解率の向上も報告されるようになった。また、同種造血幹細胞移植(alloBMT, alloPBSCT, alloUBSCT)も行われ、比較的高齢の症例においても、近年開発された骨髄非破壊的前処置を用いた同種造血幹細胞移植(いわゆるミニ移植)を行う事で、免疫学的治療効果:Graft versus Myeloma effect(GVM効果)を導入し、これまでの化学療法では殆ど認められなかった完全寛解(CR)到達例も報告されるようになった。しかしながら、いずれの強力な治療法においてもCR例は多くはなく、Kaplan-Meier法を用いた生存曲線はプラトーにならず右肩下がりとなる。これは、ごく一部のCR症例を除いては、現時点のいかなる強力な治療をもってしてもMMを根絶させる事は困難である事を示している。
 更に、標準的療法のMPに始まり、現在当科で盛んに行っているVAD療法およびROAD療法に至るまで、全ての多剤併用化学療法には副腎皮質ステロイド剤が含まれ、自家および同種移植の際の前処置および有害事象の軽減の目的でステロイド剤が多用される。VAD療法とDexamethasone単独療法との無作為化比較試験で有意差なしとの報告があるほど、ステロイド剤はMMの治療においてはKey drugとされている。しかしながらこのことがMMにおける標準的治療の大きな問題点である。すなわち、MMの多発性骨融解を特徴とする骨病変を、ステロイド剤の有害事象である骨粗鬆症(骨塩量の減少)が更に悪化させるというパラドックスである。その結果、M蛋白量が減少し部分寛解と判定された症例の一部においても、骨病変が悪化した結果Performance status(PS)はむしろ悪化するなどの皮肉な現象も多々見受けられる。

2.3.サリドマイド
 サリドマイドは、それまで睡眠薬として繁用されていたバルビツレート類の副作用:呼吸抑制などを有さない安全な睡眠薬として、約40年前に適切な臨床試験が殆ど行われないまま世界中で使用され、その結果世界中に四肢の欠損するいわゆるアザラシ肢症の奇形児の大量発生を代表とするサリドマイド禍を引き起こした。世界的に生産および販売が中止されていた薬剤である。
 ところが、ハンセン病の結節性紅班を始めとする強い炎症性病変に著効する事が判明し、米国でもFDAが適応を極めて限定した形ながらも再認可に踏み切った。その後他の治療が奏効しない難治性の様々な炎症性疾患および腫瘍性疾患にも有効であることが分り始め、特に多発性骨髄腫は有効な事が多数の論文で報告されている。有害事象も10%以下の例で報告されてはいるが、ステロイド剤と併用せずに単剤での治療効果が得られる事から、前述のステロイド剤を含む多剤併用化学療法時に認められた治療効果はあるものの骨病変はむしろ悪化するというパラドックスを回避しうる。米国でも、造血幹細胞移植を含む強力な治療を受けたものの改善の認められない難治例で使用されている。
 本剤はわが国では未だ再発売の見込みはなく、骨髄腫患者の会を始めとする患者側がむしろ積極的に様々なルートで個人輸入し使用しているのが現状である。しかしながら、かつて極めて重大な薬害を引き起こした薬剤であることから、個人輸入で使用する際にも、医師が厳密に監視したうえで慎重に投与するべきである。

3.試験の目的
3.1 試験の目的
 難治性多発性骨髄腫患者を対象とし、メキシコSerral社より日本骨髄腫患者の会経由で輸入し、サリドマイド剤を投与する。1錠100mgで2錠(200mg)より就前に経口投与を開始し、治療効果および有害事象の有無・程度により適宜増減する。増量する場合は2〜4週毎に200mgづつ増量し、最大800mg/日までとする。難治例でのQOLの改善を最大の目的とするため、必須の評価項目はあえて設定しない。しかしながら、評価可能な症例においては、骨髄中の腫瘍細胞比率、血清中のM蛋白量や尿中ベンスジョーンズ蛋白(BJP)、および骨病変(骨密度など)を測定し評価する。発生した有害事象は全て副次評価項目として評価する。

4.対象
4.1 対象疾患
  難治性多発性骨髄腫

4.2 選択基準
1) 年齢:問わないが本人に同意能力のある患者
2) 性別:問わない
3) 入院・外来:問わない
4) 疾患、重症度:Durie-Salmonのstage IIIに相当する進行例・難治例を主な対象とする。しかし、患者の強い希望などがあった場合には、stage I およびIIでも対象に加えうることとする。
5) 罹患期間:問わない
6) 治療期間:問わない
7) 男性・女性とも試験期間中に避妊が完全に可能な患者

4.3 除外基準
1)妊娠中、あるいは試験期間中に妊娠を希望する女性、および授乳婦。
2)試験期間中に女性を妊娠させる可能性のある男性
3) 本試験への協力が望めない事が予想できる者。
4) その他、試験責任医師または試験分担医師が不適当と判断した者。
[設定根拠]
妊娠早期の女性が本剤を服用した場合には強い催奇形性が予測される。また、乳汁中および精液中にも分泌する事が判明している。

4.4 目標症例数
目標登録症例数として、合計2〜4例

5.試験薬
5.1 試験薬(被験薬)
サリドマイド(輸入薬品)
剤形:カプセル
含量:1カプセル中に100mgを含有する
貯法:室温保存

5.2 試験薬の処方
 
本剤は○○病院○○科が個人輸入で購入し、患者に処方する。

6.試験方法
6.1 試験デザイン
 オープン試験

6.2 試験薬
6.2.1 試験薬の用法・用量
 1日200mgから最大800mgを1日1回就寝前に経口投与する。

6.2.2 投与期間
 2002年3月より開始可能
 治療効果があり、重篤な有害事象などが生じない限りは、永続的に使用
 ただし、将来この薬が日本でも発売され保険適応となった場合(現在のところその見込みは全くなし)にもこの試験はその時点で終了とし、そこからは通常の保険診療とする。

[設定根拠]
難治例のQOLを最優先する治療であり、治療効果のある間は中断できない。

6.3 試験期間
2002年3月〜2007年3月31日

7.観察・調査、検査項目および実施時期
全例に必須ではないが、観察可能な症例では以下の項目を観察する。

7.1 患者背景因子
試験開始時に次の項目について調査し、診療録に記入する。
被験者背景:性別、生年月日、被験者識別コード、身長、体重、診療区分(入院・外来)、妊娠の有無など
被験者の同意:同意者、同意取得年月日
原疾患:初回発病年齢、罹患期間、重症度
原疾患の治療歴:現在までに使用した治療薬の名称およびその中止理由(当てはまる場合)
既往歴:(同意取得時までに治癒した疾患)
合併症:(同意取得時に罹患中の疾患)有・無、疾患名
現在の併用薬:薬剤名、一日投与量、投与経路、投与理由、投与期間など)
現在の併用治療:療法名、施術期間、施術理由

7.2 安全性の評価
7.2.1 副作用、有害事象の発現
試験責任(分担)医師は、試験期間中に発現した副作用の種類、重症度を考慮して、試験薬(治療法)の全般的な安全性を試験薬投与終了時(試験治療法終了時)または試験中止時に下記の5段階で「概括安全度」の判定を行なう。なお、「6.判定不能」と判定された症例については、その理由を診療録に記入する。
1. 問題無し:副作用無し
2. やや問題あり:副作用があるが、軽度あるいは投与継続可能な程度
3. 問題あり:副作用があり、中等度あるいは処置を必要とするが投与継続可能な程度
4. 非常に問題あり:副作用あり、高度あるいは投与を中止すべき程度
6.試験薬との関連性を評価するための材料あるいは情報が不足し、判定が不能な場合。

7.2.2 臨床検査
1)臨床検査
次の項目について、図Aの観察・検査スケジュールに従い臨床検査を実施し、検査結果を診療録に記入する。各検査値について、医療機関の正常範囲により正異の判定を行い、異常値については症例記録の「異常」欄を○で囲む。試験薬投与後に異常変動が認められた場合は、その項目が正常値または投与前値に回復するまで追跡調査を行い、試験薬との因果関係、追跡検査結果を症例報告書に記入する。なお、試験薬との因果関係は10.5.6項に示す基準に基づいて5段階に分けて評価する。
1 血液学的検査(一回採血量2ml):赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、白血球数、白血球分画、血小板数、網状赤血球数
2 血液生化学検査(一回採血量5ml):GOT(AST), GPT(ALT), Al-P, LDH, γ-GTP, 総ビリルビン、コリンエステラーゼ、BUN, クレアチニン、尿酸、総コレステロール、トリグリセリド*、血糖*(空腹時)*、ナトリウム、カリウム、クロール、カルシウム、リン、鉄、総蛋白、アルブミン、蛋白分画、β2ミクログロブリン、免疫固定法
3 尿検査(一回採尿量10ml、入院症例で可能であれば24時間蓄尿し定量):蛋白、糖、ウロビリノーゲン、ケトン体、蛋白分画、免疫固定法
4 骨髄穿刺:塗沫標本、表面マーカー、染色体、 骨髄生検

臨床検査値については基準値を外れた場合を異常値とする。
異常変動の定義は以下の通りとする。
@ 基準値から基準値逸脱となった
A 投与直前値に比べ基準値逸脱がさらに悪化した
B 基準値逸脱から基準範囲を通り越して基準値逸脱となった
上記の定義にあてはまり、治験責任医師または治験分担医師により臨床上有意な変動と判定されたものを異常変動として取り扱い有害事象とする。ただし、変動が基準内であっても治験責任医師または治験分担医師が異常変動と判定したものについては、有害事象とする。
なお、欠側により異常変動が判定できない場合は判定不能とし、投与前値が欠側している場合の投与後異常値については、有害事象とみなす。

7.3 有効性の評価
有効性については、主要評価項目を自覚症状の改善度、血清中M蛋白量、尿中BJP量、骨髄中腫瘍細胞比率、骨病変改善度とする。なお、自覚症状については可能な限り患者自身に日記を記載してもらい、試験開始時の自覚症状(痛みなど)を10として月に1回は点数化し評価してもらう。
[設定根拠]QOLを重視した試験であるため自覚症状を含めた。


8.試験の中止,中断又は終了
8.1 中止基準
特定被験者の理由による試験の中止・脱落
治験責任医師又は治験分担医師は,治験を中止した場合,必要に応じて適切な処置・治療を行い.可能な限り治験終了時に予定されている観察.検査.評価等を実施する.有害事象により中止した場合は,症状(検査値)が治験開始前の状態に回復するまで経過観察を行う.
また,中止理由、処置、その後の経過(被験者が来院しない場合は、電話や手紙などにより追跡調査を実施する.)等を可能な限り調査し,症例報告書用紙に記入する.なお,中止理由は,以下の中から選択する.
被験者より治験参加への同意の撤回の申し出があった場合。
1) 試験責任医師/分担医師の判断においては中止例に該当せず、被験者の都合により治験が中断された場合(転居、転医・転院、多忙、追跡不能等)。
2) 効果不十分または症状の悪化のため、試験の継続が困難となった場合。また、その際には他の治療等、適切な処置を行う。
3) 有害事象が発現し(臨床検査値の異常変動、合併症の増悪または偶発症を含む)、試験の継続が困難となった場合。また、その際には有害事象に対し適切な処置を施す。
4) 試験開始後、被験者が対象症例でないことが判明した場合
5) 偶発的な事故
6)将来本薬が本邦で発売され保険適応となった場合
7) その他、試験責任医師または試験分担医師が試験の継続を困難と判断した場合

9.倫理的配慮
9.1 ヘルシンキ宣言の遵守
本試験は、ヘルシンキ宣言(2000年 英国 エジンバラ改訂版、添付資料)に基づく倫理的原則、本試験実施計画書を遵守して実施する。

9.2 臨床試験審査委員会による審査・承認
本試験は、あらはじめ医療機関の臨床試験審査委員会において本試験実施計画書等の内容、試験責任医師および試験分担医師の適格性等について審査を受ける。臨床試験審査委員会が試験の実施を承認した後に実施する。
なお、試験期間を通じ、臨床試験審査委員会の審査の対象となる文書が追加、更新または改定された場合、(軽微な追加、更新または改定は除く)にも同様に審査を受けるものとする。

9.3 被験者の選定とインフォームド・コンセント
試験責任医師または試験分担医師は被験者に選択・除外基準に基づき、および本試験を実施する個々の被験者の選定にあたり、人権保護の観点から、および試験の目的に応じ、被験者の健康状態、症状、年齢、性別、同意能力を考慮し、本試験に参加を求める事の適否について慎重に検討する。また、合併症(精神病等)の理由により同意の能力を欠くものは、本試験の被験者としないものとする。
同意書は原本を保管し、1枚を責任医師、もう1枚を被験者にわたす。

9.4 試験実施計画書からの逸脱又は変更
試験責任(分担)医師は、治験審査委員会の事前の審査に基づく文書による承認を得ることなく試験実施計画書の逸脱又は変更を行ってはならない。但し、被験者の緊急の危険を回避するためのものであるなど、医療上やむを得ないものである揚合、又は試験の事務的事項のみに関する変更である場合には、この限りではない。

9.5 試験の中止・中断
本試験進行中に、以下の理由により本試験の中止・中断または本試験実施計画書等の変更を余儀なくされた場合、試験責任医師は、当該情報について速やかに医療機関の長および臨床試験審査委員会に文書で報告するものとする。
1) 新たな重大な毒性知見が報告された場合
2) 重篤な有害事象の発現があった場合
3)将来本薬が本邦で発売され保険適応となった場合

10.有害事象
試験責任(分担)医師は試験中に観察されたかまたは被験者が訴えた全ての有害事象を、試験薬との因果関係に関わらず、診療録に記録する。

副作用を含む有害事象に加え、試験中に発現した疾患、本試験の対象疾患および試験の開始以前から認められていた疾患の悪化も、診療録に記録する。

さらに、客観的な検査(例えば心電図変化、臨床検査値)の異常変動、また、身体的検査で認められた臨床的に明らかな変化も、同様に有害事象として診療録に記録しなければならない。

10.1 予測される副作用
主な副作用としては、便秘、脱力・倦怠感、傾眠、末梢神経障害、めまい、皮疹、精神症状、浮腫、悪心、頭痛および好中球減少などが10%以下で起こりうる。
USP DI 参照

10.2 予測される副作用に対する処置
予測される有害事象に特異的なものはなく、有害事象が発現した際には、試験責任医師または試験分担医師は適切な処置を行い、試験継続が困難と判断した場合には試験薬の投与を中止する。
その際には、治療に用いた薬剤名(剤形)、投与量及び投与日時について診療録に記録する。
有害事象が生じた際に生ずる処置に関する医療費に関しては、通常の保険診療にて行い、特別の補償は行わない。

10.3 有害事象に関する用語の定義
10.3.1 有害事象
試験期間中に生じる、あらゆる好ましくない、あるいは意図しない徴候(臨床検査値の異常変動を含む)、症状または病気のことであり、本試験薬との因果関係の有無は問わない。

10.3.2 副作用
投与量にかかわらず、投与された試験薬に対するあらゆる有害で、意図しない反応(臨床検査値の異常変動を含む)、すなわち有害事象のうち、本試験薬との因果関係について、少なくとも合理的な可能性があり、因果関係(10.5.6項参照)を否定できない反応をいう。

10.5.3 重篤な有害事象
有害事象のうち、次のいずれかに該当するものをいう。重篤な有害事象とは、投与量を問わず、発現する以下の事象を指す。
(1)死亡に至ったもの
(2)生命を脅かすもの
(3)入院または入院期間の延長が必要となったもの
(4)永続的または重大な機能不全に絶ったもの
(5)先天異常を来したもの
(6)その他の重大な医学的事象

死亡、生命を脅かす事象、あるいは入院を要する事象とはならなかった場合でも、被験者を危機にさらしたり、上記のいずれかの結果に至らぬよう内科的あるいは外科的処置を要すると医学的に判断される場合は重篤な有害事象とみなされる。

生命を脅かす有害事象とは、それが発現した時点において直ちに患者を死の危険にさらす有害事象を指す。したがって、重症度が高くなった場合死に至るという事象が発現しても、それは生命を脅かす有害事象には含まれない。

入院とは、入院患者として病院に収容されることをいう。慢性的入院患者もしくは長期入院患者の場合は、院内の救急/集中治療室への移動(精神科病棟から内科病棟、内科病棟から冠疾患集中治療室、神経科病棟から結核病棟への移動など)も含む。

有害事象を伴わない入院は「重篤」な有害事象の基準を満たす湯合でも、有害事象として取り扱わない。

以下のものは、入院に含まれない。
(1)事故などによる救急外来受診
(2)通院処置
(3)ショート・ステイでの観察
(4)リハビリ.施設
(5)ホスピス施設
(6)一時的静養ケア
(7)専門看護施設
(8)老人施設
(9)保護施設
(10)臨床研究/第汨且詞ア施設

入院期間の延長とは、入院期間が試験責任(分担)医師または主治医が、当初定めた予定の期間、あるいは当初必要とされた期間よりも長くなることをいう。試験実施計画書で規定された入院の場合は、試験実施計画書に記載された期間より長くなることをいう。有害事象を伴わない入院の延長は「重篤」な有害事象の基準を満たす場合でも、有害事象として取り扱わない。

機能不全とは、患者の日常生活を営む能力を妨げるものをいう。

10.5.4 重要な有害事象
重篤な有害事象(10.5.3項参照)に該当するもの以外で、次のいずれかに該当するものを重要な有害事象として取り扱う。
1) 試験薬の投与が中止された、または中止すべきだったもの
2) 試験薬が減量、または休薬されたもの
3) 重要な併用治療の追加を含む処置をせざるを得なかったもの

10.5.5 予測できない副作用
副作用のうち、試験薬添付文書等に記載されていないもの、あるいは記載されていてもその性質、症状の程度または、発現数、発現頻度、発現条件等の発現傾向が記載内容と一致しないもの。

10.5.6 試験薬との因果関係
以下の基準により、因果関係を「1.関係なし」と判定されたもの以外を副作用(臨床検査値の異常を含む)とする。
@ 関連なし:その有害事象の発現と試験薬との因果関係があるとする妥当性がないもので、次のようなもの
(1) 試験薬以外の要因により明瞭な説明ができるもの
(例えば、手術部位からの機械的な出血)
(2) その有害事象と試験薬との間に時間的関連性の面で妥当性のないもの(例えば、試験薬投与後2,3日後に発見された進行癌)
(3) 起こり得ないもの(少なくとも試験薬の薬理作用からは絶対に起こり得ないと判断されるもの。たとえば自動車事故)
A 可能性小:有害事象が試験薬の使用により発現した可能性がある場合、即ち他の理由が確実ではない場合や時間的な関連性が妥当であることなどから、因果関係を除外することができない場合
B 可能性大:有害事象が試験薬の使用により発現した可能性がある場合、即ち他の理由による可能性がほとんどない有害事象、あるいは時間的な関連性が示唆される有害事象(例:試験薬の投与中止による消失にて確認)
C ほぼ確実:他の理由により合理的な説明が成り立たない有害事象、あるいは時間的な関連性が高く示唆される有害事象(試験薬の投与中止、再投与時の発現により確認)
D 関連不明:評価のための材料あるいは情報が不足し、試験薬との関連性の判定が不可能である場合。または、事象発現と試験薬投与との時間的な関係が無く、他の原因が見出せない場合。

10.5.7 有害事象の重症度判定
1) 軽度:通常、一過性で、被験者の日常生活を損なわず、治療を要しない程度(正常な活動が可能である)
2) 中等度:被験者の日常生活に多少の支障をきたし、十分な不快感を与え、治療を要する程度(活動に不快感を伴う)
3) 高度:被験者の日常生活の遂行に大きな支障があり、治療を要する程度(正常な活動が困難である)

10.6 有害事象の記録
試験責任医師または試験分担医師は、試験薬投与開始後に発現した新たな有害事象について、その内容、重篤区分(重篤、非重篤)、重症度、発現・増悪の日時および確認日、消失日時、処置、転帰および転帰確認日ならびに試験薬との因果関係を診療録に記入する。
試験責任医師または試験分担医師が臨床上重要と判断した臨床検査値の異常変動については、その根拠とともに診療録に記入する。
有害事象と試験薬との因果関係については、判定の根拠を診療録に記入する。

10.7 重篤な有害事象の報告
試験薬との因果関係の有無にかかわらず、重篤な有害事象が発現した場合は、試験責任医師または試験分担医師は、安全確保を第一優先に迅速かつ適切な処置を講じた後、当該医療機関により定められた手順に従い、速やかに当該医療機関の長に報告する。

11. 試験の終了
試験責任医師は、試験終了後、速やかに医療機関の長に試験の終了報告書を提出する。

12. 試験実施医療機関および試験責任医師
○○
病院 ○○科 
責任医師 教授  ○○○○
分担医師 助教授 ○○○○
分担医師 講師  ○○○○

13.試験実施期間

2002年3月1日〜2007年3月31日

14.参考文献
1, USP DI 2001 (21st EDITION), p2812-2817
2, Antitumor Activity of Thalidomide in Refractory Multiple Myeloma. N Eng J Med 1999; 341: 1565-1571
3, 多発性骨髄腫における骨髄腫瘍血管新生-病態の解明と新しい治療法の開発 臨床血液 2000; 41(5): 426-429

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添付資料1
ヘルシンキ宣言
ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則(日本医師会訳)
 
1964年6月、フィンランド、ヘルシンキの第18回WMA総会で採択
1975年10月、東京の第29回WMA総会で修正
1983年10月、イタリア、ベニスの第35回WMA総会で修正
1989年9月、香港、九龍の第41回WMA総会で修正
1996年10月、南アフリカ共和国、サマーセットウエストの第48回WMA総会で修正
2000年10月、英国、エジンバラの第52回WMA総会で修正

A. 序言
1. 世界医師会は、ヒトを対象とする医学研究に関わる医師、その他の関係者に対する指針を示す倫理的原則として、ヘルシンキ宣言を発展させてきた。ヒトを対象とする医学研究には、個人を特定できるヒト由来の材料及び個人を特定できるデータの研究を含む。
2. 人類の健康を向上させ、守ることは、医師の責務である。医師の知識と良心は、この責務達成のために捧げられる。
3. 世界医師会のジュネーブ宣言は、「私の患者の健康を私の第一の関心事とする」ことを医師に義務づけ、また医の倫理の国際綱領は、「医師は患者の身体的及び精神的な状態を弱める影響をもつ可能性のある医療に際しては、患者の利益のためにのみ行動すべきである」と宣言している。
4. 医学の進歩は、最終的にはヒトを対象とする試験に一部依存せざるを得ない研究に基づく。
5. ヒトを対象とする医学研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければならない。
6. ヒトを対象とする医学研究の第一の目的は、予防、診断及び治療方法の改善並びに疾病原因及び病理の理解の向上にある。最善であると証明された予防、診断及び治療方法であっても、その有効性、効果、利用し易さ及び質に関する研究を通じて、絶えず再検証されなければならない。
7. 現在行われている医療や医学研究においては、ほとんどの予防、診断及び治療方法に危険及び負担が伴う。
8. 医学研究は、すべての人間に対する尊敬を深め、その健康及び権利を擁護する倫理基準に従わなければならない。弱い立場にあり、特別な保護を必要とする研究対象集団もある。経済的及び医学的に不利な立場の人々が有する特別のニーズを認識する必要がある。また、自ら同意することができないまたは拒否することができない人々、強制下で同意を求められるおそれのある人々、研究からは個人的に利益を得られない人々及びその研究が自分のケアと結びついている人々に対しても、特別な注意が必要である。
9. 研究者は、適用される国際的規制はもとより、ヒトを対象とする研究に関する自国の倫理、法及び規制上の要請も知らなければならない。いかなる自国の倫理、法及び規制上の要請も、この宣言が示す被験者に対する保護を弱め、無視することが許されてはならない。
B. すべての医学研究のための基本原則
10. 被験者の生命、健康、プライバシー及び尊厳を守ることは、医学研究に携わる医師の責務である。
11. ヒトを対象とする医学研究は、一般的に受け入れられた科学的原則に従い、科学的文献の十分な知識、他の関連した情報源及び十分な実験並びに適切な場合には動物実験に基づかなければならない。
12. 環境に影響を及ぼすおそれのある研究を実施する際の取扱いには十分な配慮が必要であり、また研究に使用される動物の生活環境も配慮されなければならない。
13. すべてヒトを対象とする実験手続の計画及び作業内容は、実験計画書の中に明示されていなければならない。この計画書は、考察、論評、助言及び適切な場合には承認を得るために、特別に指名された倫理審査委員会に提出されなければならない。この委員会は、研究者、スポンサー及びそれ以外の不適当な影響を及ぼすすべてのものから独立であることを要する。この独立した委員会は、研究が行われる国の法律及び規制に適合していなければならない。委員会は進行中の実験をモニターする権利を有する。研究者は委員会に対し、モニターの情報、特にすべての重篤な有害事象について情報を報告する義務がある。研究者は、資金提供、スポンサー、研究関連組織との関わり、その他起こり得る利害の衝突及び被験者に対する報奨についても、審査のために委員会に報告しなければならない。
14. 研究計画書は、必ず倫理的配慮に関する言明を含み、またこの宣言が言明する諸原則に従っていることを明示しなければならない。
15. ヒトを対象とする医学研究は、科学的な資格のある人によって、臨床的に有能な医療担当者の監督下においてのみ行われなければならない。被験者に対する責任は、常に医学的に資格のある人に所在し、被験者が同意を与えた場合でも、決してその被験者にはない。
16. ヒトを対象とするすべての医学研究プロジェクトは、被験者または第三者に対する予想し得る危険及び負担を、予見可能な利益と比較する注意深い評価が事前に行われていなければならない。このことは医学研究における健康なボランティアの参加を排除しない。すべての研究計画は一般に公開されていなければならない。
17. 医師は、内在する危険が十分に評価され、しかもその危険を適切に管理できることが確信できない場合には、ヒトを対象とする医学研究に従事することを控えるべきである。医師は、利益よりも潜在する危険が高いと判断される場合、または有効かつ利益のある結果の決定的証拠が得られた場合には、すべての実験を中止しなければならない。
18. ヒトを対象とする医学研究は、その目的の重要性が研究に伴う被験者の危険と負担にまさる場合にのみ行われるべきである。これは、被験者が健康なボランティアである場合は特に重要である。
19. 医学研究は、研究が行われる対象集団が、その研究の結果から利益を得られる相当な可能性がある場合にのみ正当とされる。
20. 被験者はボランティアであり、かつ十分説明を受けた上でその研究プロジェクトに参加するものであることを要する。
21. 被験者の完全無欠性を守る権利は常に尊重されることを要する。被験者のプライバシー、患者情報の機密性に対する注意及び被験者の身体的、精神的完全無欠性及びその人格に関する研究の影響を最小限に留めるために、あらゆる予防手段が講じられなければならない。
22. ヒトを対象とする研究はすべて、それぞれの被験予定者に対して、目的、方法、資金源、起こり得る利害の衝突、研究者の関連組織との関わり、研究に参加することにより期待される利益及び起こり得る危険並びに必然的に伴う不快な状態について十分な説明がなされなければならない。対象者はいつでも報復なしに、この研究への参加を取りやめ、または参加の同意を撤回する権利を有することを知らされなければならない。対象者がこの情報を理解したことを確認した上で、医師は対象者の自由意志によるインフォームド・コンセントを、望ましくは文書で得なければならない。文書による同意を得ることができない場合には、その同意は正式な文書に記録され、証人によって証明されることを要する。
23. 医師は、研究プロジェクトに関してインフォームド・コンセントを得る場合には、被験者が医師に依存した関係にあるか否か、または強制の下に同意するおそれがあるか否かについて、特に注意を払わなければならない。もしそのようなことがある場合には、インフォームド・コンセントは、よく内容を知り、その研究に従事しておらず、かつそうした関係からまったく独立した医師によって取得されなければならない。
24. 法的無能力者、身体的若しくは精神的に同意ができない者、または法的に無能力な未成年者を研究対象とするときには、研究者は適用法の下で法的な資格のある代理人からインフォームド・コンセントを取得することを要する。これらのグループは、研究がグループ全体の健康を増進させるのに必要であり、かつこの研究が法的能力者では代替して行うことが不可能である場合に限って、研究対象に含めることができる。
25. 未成年者のように法的無能力であるとみられる被験者が、研究参加についての決定に賛意を表することができる場合には、研究者は、法的な資格のある代理人からの同意のほかさらに未成年者の賛意を得ることを要する。
26. 代理人の同意または事前の同意を含めて、同意を得ることができない個人被験者を対象とした研究は、インフォームド・コンセントの取得を妨げる身体的/精神的情況がその対象集団の必然的な特徴であるとすれば、その場合に限って行わなければならない。実験計画書の中には、審査委員会の検討と承認を得るために、インフォームド・コンセントを与えることができない状態にある被験者を対象にする明確な理由が述べられていなければならない。その計画書には、本人あるいは法的な資格のある代理人から、引き続き研究に参加する同意をできるだけ早く得ることが明示されていなければならない。
27. 著者及び発行者は倫理的な義務を負っている。研究結果の刊行に際し、研究者は結果の正 確さを保つよう義務づけられている。ネガティブな結果もポジティブな結果と同様に、刊行または他の方法で公表利用されなければならない。この刊行物中には、資金提供の財源、関連組織との関わり及び可能性のあるすべての利害関係の衝突が明示されていなければならない。この宣言が策定した原則に沿わない実験報告書は、公刊のために受理されてはならない。

C. メディカル・ケアと結びついた医学研究のための追加原則
28. 医師が医学研究をメディカル・ケアと結びつけることができるのは、その研究が予防、診断または治療上価値があり得るとして正当であるとされる範囲に限られる。医学研究がメディカル・ケアと結びつく場合には、被験者である患者を守るためにさらなる基準が適用される。
29. 新しい方法の利益、危険、負担及び有効性は、現在最善とされている予防、診断及び治療方法と比較考量されなければならない。ただし、証明された予防、診断及び治療方法が存在しない場合の研究において、プラシーボまたは治療しないことの選択を排除するものではない。
30. 研究終了後、研究に参加したすべての患者は、その研究によって最善と証明された予防、診断及び治療方法を利用できることが保障されなければならない。
31. 医師はケアのどの部分が研究に関連しているかを患者に十分説明しなければならない。患者の研究参加の拒否が、患者と医師の関係を断じて妨げるべきではない。
32. 患者治療の際に、証明された予防、診断及び治療方法が存在しないときまたは効果がないとされているときに、その患者からインフォームド・コンセントを得た医師は、まだ証明されていないまたは新しい予防、診断及び治療方法が、生命を救い、健康を回復し、あるいは苦痛を緩和する望みがあると判断した場合には、それらの方法を利用する自由があるというべきである。可能であれば、これらの方法は、その安全性と有効性を評価するために計画された研究の対象とされるべきである。すべての例において、新しい情報は記録され、また適切な場合には、刊行されなければならない。この宣言の他の関連するガイドラインは、この項においても遵守されなければならない。


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患 者 さ ん へ
―サリドマイドの試験に参加をお願いするための説明および同意文書―

これからお話することは、サリドマイドという薬の試験に参加をお願いするための説明です。
今回、サリドマイドという薬があなたの病気:多発性骨髄腫に対して投与しその治療効果を確認する臨床試験を計画しました。これから試験の内容や対象となるあなた(被験者といいます)の利益、権利およびその他の必要な事項を説明しますので、十分に理解された上、この試験に参加するかどうかをあなたの自由意思で決めてください。ご返事は今すぐでなくてもかまいません。今日はこの説明文書をお持ち帰りになり、後日お返事くださっても結構です。また、ご不明な点があれば遠慮なくご質問ください。

1. 試験の目的
多発性骨髄腫の標準的治療はステロイド剤を含む多剤併用化学療法ですが、一部の患者さんには明らかな治療効果が認められるものの、難治性の患者さんには十分な治療効果が得られない事も多いのが現状です。サリドマイドは1950年代に睡眠剤として用いられ、服用した患者さんから重大な奇形を持つ子供が生まれ、世界的に一度は生産と販売が止められた薬です。ところがこの薬に、強い炎症を抑える効果や、ある種の腫瘍を抑える効果のある事が分かり、アメリカなどでは適応する病気を限定した形ですが再発売されました。多くの腫瘍のなかでも多発性骨髄腫には特によく効く事が分かっており、アメリカでの研究では難治性の多発性骨髄腫患者さん(このうち76%が大量化学療法を既に受けた患者さんでした)に使用して、32%の患者さんに有効であったとされています(1999年のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンという医学誌にのったデータです)。この際、約1/3の患者さんに軽度の副作用が出たものの、重篤な副作用は少なく10%以下であったされています。
現在サリドマイドは日本では再発売の予定がなく、この薬を使用したいと希望される場合には、今回のような臨床試験という形で個人輸入して使用する事になります。試験といっても、難治性の患者さんの生命予後を少しでも延ばしQOL(生活の質)を向上させる事を最大の目標としますので、無作為比較試験と呼ばれるような、試験薬を使用する群と偽薬(プラセボ)を使用する群とに分けて研究するというような事は、今回は行いません。ただし、今後の患者さんへの参考のためのデータをとるために、可能であれば治療開始前後で、いくつかの検査を受けていただきます。
なお、この試験の実施に先立ち、第三者機関である○○大学臨床試験審査委員会(IRB)にて、試験の科学性と倫理性を厳密に審査され、承認されています。

2. 試験の方法
・試験の方法
試験へ参加同意いただいた後に、可能な範囲で試験前の検査を行います。
その後、サリドマイド(輸入薬品)1カプセル100mgを一日に2カプセル(200mg)から夜眠る前に服用を開始させていただきます。その後は、治療効果および副作用等を厳重に観察しながら、可能であれば400mg、600mg、800mgと増やしていく事もありえます。ただし、増やすかどうかはあなたの症状や希望と主治医の意見で相談の上に決定します。治療中および治療終了時にも可能な範囲でいくつかの検査を行わせていただきます。
検査としては、通常外来で行っている検尿および採血検査と採取量は変わりません。ただし、適宜、レントゲン検査、アイソトープ検査、骨密度検査、骨髄検査などを相談しながら追加する事があります。
なお、サリドマイドの輸入に関する費用は血液免疫内科が負担しますが、その他の検査、処方等の医療費は通常の保険診療となります。

・試験に参加する予定期間
御参加の同意をいただいてから輸入手続きを得て薬が届くまでに多少の時間を必要とする事もあります。薬が届き次第開始可能で、あなたが使用を止めたいと思った時、もしくは主治医が治療の継続を中止する判断をくだすまでの期間は永続的に試験期間といたします。なお、将来この薬が日本でも発売され保険適応となった場合(現在のところその見込みは全くありません)にもこの試験はその時点で終了とし、そこからは通常の保険診療といたします。

・ 参加する予定の被験者数
現在のところ2〜4人の患者さんを予定としています。

・ 試験への参加を中止する場合の条件または理由
いかなる時でも、あなたが中止を希望される場合には本試験は中止可能です。

3. 予測されるこの試験薬の効果および予測される被験者に対する不利益
<予測されるこの試験薬の効果>
造血幹細胞移植を併用した大量化学療法などの他の強力な化学療法で無効であった、難治性の患者さんにも治療効果が得られる可能性があります。また、本剤を単独で使用する場合は、他の抗癌剤による副作用(特にステロイド剤による骨粗鬆症の進行等)が起こらない利点があると思われます。

<予測される副作用>
先に述べたアメリカの臨床試験では、軽度の副作用として次のようなものが約1/3の患者さんに認められたと報告されています:便秘、脱力感、倦怠感、傾眠(ねむたさ)、しびれ、火照り、めまい、皮膚の発疹、気分の変化、うつ傾向、運動失調(うまく目的の運動を行えない)、振戦(ふるえ)、吐き気、頭痛。
また、骨髄抑制も報告されており、白血球減少、血小板減少、貧血が起こる可能性があります。白血球減少が進行する場合には、G-CSF製剤(顆粒球コロニー刺激因子)という薬を用いる場合があります。また、血小板減少や貧血が強い場合にはそれぞれ血小板輸血や赤血球輸血が必要になる事もあります。
重大な副作用として、末梢神経障害があり、これにより強い手足のしびれ、痛みなどが稀に起こりえます。この場合には、試験薬を中止し症状を和らげる治療を行います。
また、記載した症状以外の副作用がでることもありえます。これらの副作用に迅速に対応するため、担当医師はあなたの身体に起こることを注意深く診察します。もしも、この試験期間中に普段と違った症状がありましたら、適切な処置または治療を行いますので担当医師に申し出てください。また、試験期間中に臨床検査値の悪化や副作用のために担当医師が試験を中止する必要があると判断した場合は、この試験は直ちに中止されます。
なお、今回あなたにお話したこと以外に、何か新たな安全性の情報などが分かった場合は、あなたにすぐにお知らせし、試験を続けるかどうかについて確認をいたします。
妊娠可能な年齢の女性が本剤使用中に妊娠した場合は、奇形児が出産される可能性が非常に高くなるため、絶対に妊娠してはいけません。男性の精液中にも分泌されるため、男性も絶対に女性を妊娠させてはいけません。男女とも完全な避妊対策が必要です。
また、女性は乳汁中にも分泌されるため授乳も禁止です。

4. 他の治療方法
あなたと同じ病気の治療には、通常の多剤併用化学療法、自家末梢血幹細胞移植や自家骨髄移植を併用した大量化学療法、同種末梢血幹細胞移植や同種骨髄移植(骨髄非破壊的前処置による同種移植:いわゆるミニ移植を含む)、ステロイド剤単独療法、放射線局所照射、対症療法などがあります。あなたがこの薬の投与を希望しない場合は、現在この病院で行っているほかの治療法のうち、あなたに最も良いと考えられる薬で治療を行います。

5. 試験への参加をいつでも取りやめる事ができます。
あなたは、この試験への参加をお断りになっても、また、いったん、試験への参加に同意された後でも、いつでも試験への参加を取りやめる事ができ、なんら不利益をこうむることはありません。その場合は、いままでに使われている方法で最善の治療をします。

6. あなたの秘密が保全される事を条件に、あなたのカルテなどの診療記録を病院の臨床試験審査委員会の人が閲覧する事があります。試験が正しく行われているかどうかを確かめるために、臨床試験審査委員会の人が、病院にあるあなたの診療記録(カルテ)を見ることがあります。この場合、あなたの名前や身元などの個人的な情報が分からないようにし、そのような人達の目に触れても、法律で秘密を守るように定められていますので、外にもれる心配はありません。なお、「試験参加への同意書」に署名されますと、このような調査を了承して項いたことになります。

7. あなたの診察や検査の結果などの秘密は保全されます。
この試験によって得られたあなたの診察や検査の結果などは、今後の同じ病気に罹った患者さんの治療の際の参考データとして使われる事がありえますが、あなたの名前は記号や通し番号に置き換えるなどの工夫をして、あなたの名前や身元などの個人的な情報がわからないようにします。

8. 試験に関する健康被害が発生した場合における実施医療機関の連絡先
あなたが同意されてこの試験に参加した事によって万一健康被害が生じた場合には、担当医師は誠意を持って対処いたしますので、責任医師、担当医師にご連絡ください。。ただし、金銭的な補償は行われず、あくまで保険診療の範囲内で対処させていただきます。


9. 試験に参加された場合に守っていただきたい事項
以下の事項は、試験中のあなたの健康を守るため、また正確な試験データを収集するために必要なことですので、必ず守ってください。

・この薬は、担当医師から指示された回数や量を守って使用(服用)してください
・この薬を始めた後に他の薬(薬局で売られている一般大衆薬も含む)を使った場合や、使用を止めた場合は、担当医師に連絡してください。
・この薬を開始した後、身体に何かおかしいと感じる事がありましたら(骨折、事故なども含めて)すぐに担当医師に連絡してください。
・この薬を始めてから試験への参加を取りやめる場合は、この薬を服用する前でも後でもかまいませんが、できるだけ早く担当医師に連絡してください。
・この薬を始めてから他の医師の診察を受ける場合は、試験に参加していることをその医師にお話ください。また、他の医師にかかった事を担当医師にも連絡してください。
妊娠する可能性のある年齢の女性は試験薬使用中および中止後も1年間以上は、絶対に妊娠してはいけません。また、男性も絶対に女性を妊娠させてはいけません。厳重な避妊を行ってください。万が一、妊娠した可能性がある場合には、直ちに責任医師、担当医師に連絡してください。
・使い残しの試験薬や飲み忘れて薬が残った場合、この薬を受け取った後で試験への参加を取りやめた場合は、次の診察日に必ず担当医師に返却してください。

10. 試験責任医師、担当医師、相談窓口とその連絡先
この試験について何かお聞きになりたいことがありましたら、いつでもご遠慮なく下記の責任医師、担当医師または相談窓口にお問い合わせください。

病院住所: 〒○○○○ ○○○○○○
病院名 :○○病院 科名:○○○○
責任医師:○○○○ 電話:○○○-○○○○ 内線○○○○
担当医師:○○○○    電話:○○○-○○○○ 内線○○○○
休日・夜間緊急連絡先:       電話:○○○-○○○○ 
                内線○○○○または○○○○
                  ○○○○科当直医から担当医師に連絡

この説明文書に基づく説明で試験へ参加することに同意される場合、次のページに署名してください。
カルテ貼付用、責任医師用(複写)、患者保管用(複写)
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サリドマイドによる多発性骨髄腫に対する治療に関する同意書

○○病院長 
○○○○   殿

同意日   年  月  日

患者氏名(自署)

患者住所

このたび、私は「サリドマイドによる多発性骨髄腫の治療」に参加するにあたり、2002年3月2日改定の説明文書をもとに、担当先生より下記の内容について十分説明を受け理解しましたので、自らこの試験に参加することに同意します。
1. 本試験が研究を伴うこと
2. 試験の目的
3. 試験の方法
4. 試験の予定期間
5. 試験に参加する予定の被験者数
6. 予想される試験薬の効果および予測される被験者に対する不利益
7. 他の治療方法の有無
8. 試験に関連する健康被害の補償に関する事項
9. 試験への参加は自由であること。試験への参加を自由に拒否または撤回できる事。また同意を撤回してもなんら不利益はこうむらないこと。
10. 試験への参加の継続について意思に影響を与える可能性のある情報が得られた場合には、速やかに伝えられること
11. 試験への参加を中止する場合があること
12. プライバシーは保全される事を条件に、臨床試験審査委員会が原資料を閲覧できること(同意文書に患者が署名または記名捺印する事によって、閲覧を認めたことになること)
13. 試験の結果が公表される場合であってもプライバシーは保全される事
14. 試験責任医師(および試験分担医師)の氏名、職名、連絡先および相談窓口
15. 試験の内容および患者の権利に関してさらに情報が欲しい場合の連絡先
16. 被験者が守るべき事項:特にサリドマイド内服中は絶対に妊娠してはならない事
               他人に譲渡してはならない事

説明日    年  月  日
説明した試験責任医師または試験分担医師(自署)
        科         印

補足的な説明を行った試験協力者(自署)
        科 印

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