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嗅神経トレーサー"タリウムー201" の嗅球移行機序を解明 耳鼻咽喉科学 志賀英明准教授らの論文 "Thallium-201 imaging in intact olfactory sensory neurons with reduced pre-synaptic inhibition in vivo"がMolecular Neurobiology誌に掲載

 においは第一脳神経の嗅神経先端の部分「嗅球」において識別され、中枢へと刺激が伝達される。においをかぎ続けると次第ににおいが薄れてくるが、これは「嗅覚疲労(順応)」と呼ばれる現象である。嗅球ではドーパミン作動性介在ニューロンがちょうど嗅覚刺激のブレーキ役として働いており、鼻腔上皮から嗅球へと嗅覚刺激を伝達する嗅細胞と拮抗しながら、におい感覚を調節している。
我々はこれまで健常者を対象とした臨床試験において、放射性アイソトープの201Tl(タリウム−201)を嗅裂に点鼻投与すると、24時間後に嗅球へ到達することを画像検査で明らかとしてきた。一方で嗅覚障害患者ではタリウムー201の嗅球移行度が低下するが、その機序は不明であった。
 本研究では嗅細胞を障害することなく嗅球のドーパミン作動性介在ニューロンを障害する作用を有した、ミトコンドリア呼吸鎖抑制剤のロテノンを点鼻したマウスとラットでタリウムー201の嗅球移行度を検討したところ、コントロール群と比較し有意に増加傾向を認めた。ロテノンを点鼻したマウスでは組織学的に嗅球ドーパミン作動性介在ニューロンの減少を示したほか、電気生理学的に嗅細胞の活動性の低下を明らかとした。
 一般に嗅覚障害患者の嗅球体積は健常者と比較して縮小しているが、嗅細胞障害動物モデルでの研究からは嗅球のドーパミン作動性介在ニューロンの減少が明らかとなっている。つまり嗅球体積の減少した嗅覚障害患者では、嗅球のドーパミン作動性介在ニューロンの減少が示唆されており、本研究結果と総合して考察すると、これまでの研究で嗅球体積の減少を伴う嗅覚障害患者で認めたタリウムー201の嗅球移行度低下は、嗅細胞障害に伴う結果であることが示唆された。また、本研究で認めたロテノン点鼻マウスでの嗅細胞活動性の低下は、嗅細胞の細胞膜イオンチャネルの抑制を示唆しており、嗅細胞内に取り込まれたタリウムー201が行き場を失って、嗅細胞軸索末端から嗅球へと移行を増やした可能性が推測された。嗅球でドーパミン作動性介在ニューロンからのブレーキがかからなくなると、ちょうど嗅覚疲労のように嗅細胞は自律的に活動性が低下して、嗅覚刺激を過剰に伝達しなくなるのかもしれない。

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