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【論文発表】頭頸部外科学 岸本 和大助教らの論文「PP6 deficiency in mice with KRAS mutation and Trp53 loss promotes early death by PDAC with cachexia-like features」がCancer Science誌に掲載されました。

浸潤性膵管癌(PDAC)は、5年生存率がわずか10%という極めて致死率の高い癌である。K-RasやTGF-βの活性化変異や、p53、INK4A/ARF、BRCA2、Smad4などの腫瘍抑制因子の不活性化などの遺伝子変化が、膵臓発がんの最も一般的な発癌要因となっている。変異型RASは最も強力ながん化促進因子の1つであり、現在まで研究が進められてきたにもかかわらず、その働きを抑える薬剤はいまだ作り出されていない。最近、興味深いことに、変異原メタンスルホン酸エチル(EMS)を用いたショウジョウバエでの遺伝学的スクリーニングにより、癌性RASをもつ細胞にPP6遺伝子(Ppp6c)欠損が加わると細胞の増殖・浸潤能が誘導されることが報告され、Ppp6cがRAS関連がんの腫瘍抑制因子として機能していることが示唆された。PP6は、細胞周期の進行、DNA損傷反応、miRNAプロセシングなど、幅広い生物学的プロセスの制御に関わっている。特にシグナル伝達に関しては、PP6がIκBeの脱リン酸化によりNFκB経路を、またMEKの脱リン酸化によりERK経路を抑えることが明らかとなっている。TCGAデータベースによると、PDACにおいてK-rasに変異がある症例の70%では、p53にも欠損型変異またはミスセンス変異があることがわかっている。そこで、KRAS(G12D)変異とTrp53欠損のある膵細胞における、Ppp6c欠損の腫瘍発生への影響を明らかにしたいと考えた。
 
CREリコンビナーゼにより、膵臓特異的にKP変異(K-rasG12D発現+Trp53欠損)を引き起こすマウス(cKPマウス)を作製し、Ppp6c floxedマウスと交配させ、 Ppp6cホモ欠損型のcKPマウス(cKP(F/F))、Ppp6cヘテロ欠損型のcKPマウス(cKP(F/+))、およびPpp6c野生型のcKPマウス(cKP(+/+))を作製した。これらマウスに、生後0日目から6日目まで母乳を介してタモキシフェン(TAM)を投与し、膵臓特異的に、K-rasG12D発現、Trp53欠損、Ppp6c欠損が起こることを確認した後、同様の処置でPP6の遺伝子(Ppp6c)の欠損が膵臓腫瘍の発生に及ぼす影響を調べた。cKP(F/F)マウスは、変異誘発後150日以内に全てのマウスにおいて、膵臓腫瘍を発症し衰弱して死亡したが、cKP(F/+)マウスやcKP(+/+)では、150日以内の死亡発生は認められなかった。cKP(F/F)マウスのがん死の発生のメカニズムの解明のため、変異誘発後30日目のcKP(F/F)のトランスクリプトームを、cKP(F/+)のそれと比較した。マウス膵臓における遺伝子発現の差を比較した。Ppp6cホモ欠損型ではMAPKおよびNFκBシグナル伝達経路の著しい活性化を示す遺伝子転写が認められた。次に、変異誘発後80日目における腫瘍発生に関して検討した。cKP(F/F)の膵臓では、cKP(F/+)のそれと比較して、腫瘍の数と大きさ、前癌病変の数が有意に増加した。cKP(F/F)の膵臓で認められた腫瘍は、病理学的にはEMTを起こしたPDACと診断され、6例中3例で周辺組織への浸潤を認めた。トランスクリプトームおよびメタボローム解析の結果、cKP(F/F)の膵臓においては、がん特有の解糖系代謝が亢進し、炎症性サイトカインの発現が増加していた。また、cKP(F/F)マウスでは、体重減少、サルコペニア、血清中IL-6およびTNFの上昇、脂肪組織の消失が見られ、ヒトの膵がんで認められる悪液質に類似した症状を示した。以上、K-ras変異とTrp53欠損を伴うマウス膵臓において、Ppp6cの欠損は、膵臓腫瘍の発生を促進し、悪液質と早期死亡をもたらすことが示された。本研究は、Ppp6cがマウスにおいて膵がんの抑制遺伝子であることを初めて証明したものである。また、cKP(F/F)マウスが、悪液質を伴う膵臓癌のモデルマウスとなることを示した。

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