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Department of Hygiene
Kanazawa Medical University

 教室のあゆみ History


1974年(昭和49年)、能川浩二講師(元千葉大学教授)が金沢大学より着任し、1975年4月に石崎有信教授(元本学学長)を金沢大学より迎えて衛生学教室は開講された。この時のスタッフは他に小林悦子助手(元千葉大学助教授)と稲岡宏美助手(1975〜1977)であった。稲岡助手退職後、1977年に本多隆文助手(現本学看護学部准教授)が本学公衆衛生学教室より移籍した。1980年に石崎教授が学長に就任し、能川助教授が教授に昇任して1981年より教室を主宰。1981年に釣谷伊希子助手(物故)、1982年に山田裕一講師(現教授)、1983年に城戸照彦助手(現金沢大学教授)が採用される一方、小林助教授が転任した。また、1986年に石崎昌夫助手(現准教授)が採用された。1989年(平成元年)能川教授が転任し、1990年に山田助教授が教授に昇任した。1991年に城戸助教授が転任する一方、1994年に井海江利子助手(1994〜1996)、1995年に石田雅朗助手(現本学循環器内科医員)、1996年に登坂由香助手(現講師)および中石仁助手(1996〜2001)が採用された。また2005年9月には中田 実講師が採用された。2007年9月に山田教授が学長に就任した(2010年8月まで)。2015年3月に山田教授が退任され、2016年1月に石崎准教授が教授となり、3月に本多教授が退任され、4月に櫻井勝准教授が公衆衛生学より異動となり、堀香織助教が採用された。2017年4月から入学姉妹校大学院生 鄭劔波さんが入局した。2018年3月に堀香織助教が退職し、鄭劔波大学院生が臨床病理に移籍となった。同年4月から米田一香大学院生が入局した。2022年4月に櫻井准教授が特任教授となり、現在のスタッフは櫻井特任教授、石ア教授(嘱託)、米田一香大学院生、水越久美子パート事務員である。

 研究の概要 Research works

 衛生学教室では大気、水質などの環境要因や、労働に伴う身体的、精神的、社会的要因による疾病の発症を予防するための研究を進めている。
1.重金属中毒 
 
初代の石崎有信教授の時より、環境カドミウム暴露による「イタイイタイ病」発症についての研究が行われてきた。能川教授時代に、カドミウム暴露と健康影響との間の量一反応関係と、カドミウム摂取許容量を決定しようとする研究として発展した。また、陶磁器上絵付け作業者での低濃度長期鉛暴露による健康障害、特に動脈硬化を中心に研究し、成果をおさめてきた
 
カドミウムによる健康障害の研究はさらに、故・釣谷講師により日本人女性の骨粗しょう症の進展への影響や、ビタミンD受容体の遺伝的変異が骨粗しょう症の進展に及ぼす影響の解明の研究などにも進展した。現在は、東南アジアにおける環境カドミウム汚染の問題について、主に看護学部へ移籍した本多准教授によって、学内、学外の研究組織、研究者と協同として進められている。
2.産業保健研究 
 能川前教授の時より産業保健学の分野の実践的研究を手がけ、それは山田教授に受け継がれている。従業員約8000人規模の金属製品製造工場や約1000人規模のディスプレイ装置製造工場を主なフィールドとし、当教室のスタッフが産業医として作業環境の改善、作業方法の改良、健康管理の充実に取り組み、大きな成果を上げている。
 産業保健領域の研究としては、山田教授が中心となって、肥満や飲酒、喫煙などの労働者の生活習慣要因による高血圧、慢性腎疾患(CKD)の発症機序と予防についての研究が進められてきた。
 飲酒による血圧上昇には血清GGTの上昇が強く関連し、それは飲酒による脂肪肝の進展とインスリン抵抗性の上昇を反映する。それゆえ飲酒者でも、高血圧と同時に高血糖、高脂血症などの、いわゆるメタボリック症候群が出現する。一方、東洋人に特有なアルデヒド脱水酵素(ALDH2)の遺伝的変異は飲酒行動を規定するが、一定の飲酒量に対する健康影響には遺伝子変異は大きな影響を与えないし、血液内アルデヒド蓄積にも影響しないことを示した。
 喫煙は、特に高齢者において慢性腎疾患(CKD)の発症要因となるが、中年の労働者集団でもBrinkman Indexが400以上で、蛋白尿の保有率が非喫煙者の2倍に至ることを示した。肥満もまたCKDの発生要因となる。今後、職場集団の高齢化が進む中で、肥満と喫煙によるCKDの発症と、それによる脳、心血管事故の増加が懸念される。そうした状況の中で、職場での早めの対策が望まれることを示した。
 職業性ストレスが働く人の健康に及ぼす影響についての研究を、石崎准教授が中心となって進めている。特にjob demands-control modelで評価された職場ストレスと循環器疾患危険因子や勤怠状況の関係を明らかにしてきた。職業性ストレスの悪化が、ウエスト径増加や組織プラスミノーゲン活性化因子の抑制に関連することを示した。さらに、職業性ストレス悪化が長期欠勤の増加につながり、経済的損失をもたらすことを明らかにした。
 適切なストレス管理や職務管理によって、労働者がメンタルヘルス不調に陥ることを予防するのが産業保健の目標だが、現にメンタルヘルス不調に陥って休業を余儀なくされた労働者の円滑な職場復帰も重要な課題である。これについて、登坂講師が中心となって研究を進めている。
 さらに近年、長時間の反復繰り返しのある筋作業、複雑な自然的、社会的ストレスに曝されながらの作業などが、先進国、開発途上国を問わず増加している。また、高齢者や障害者など、人を相手にする労働(ヒューマン労働)には特有の身体的、精神的な負荷があり、それらに起因する職業性筋骨格系障害の発生機序の解明と、労働および治療現場における対策についての研究を中田講師が中心に行っている。

 教育の特色 Educational perspective

 学部学生の教育においては、当部門(講座)は開講以来、人間の健康と疾病に影響を与える自然的、社会的環境要因のうち、環境衛生、労働衛生および食品衛生についての講義と、騒音、室内換気、水質汚染についての実習を行ってきた。しかしながら、臨床医指向の強い学生の興味と学習効率を考慮して、平成8年からは学生を各3名の少人数グループとし、実習課題の設定、課題についての文献考察や簡単なフィールド調査、実験の立案と実行を基本的に学生自身に行わせ、教員は補助的な助言役として関わるチューター形式の実習に変更した。それらの実習結果を年度末に報告書として発刊してきた。
 年々、それらの実習も報告書も充実してきていたが、平成16年度からはコア・カリキュラムの導入にともなう授業時間数の大幅な削減のため、衛生学講座としての独自の実習は廃止せざるを得なくなった。現在では4年生3学期の「社会と医療」のユニットの中での1週間に環境衛生と労働衛生(産業保健)、食品衛生を集中的に講義するだけになっている。講義においては、豊富な写真やビデオを活用するなど、各教員の、できるだけ解りやすい講義にしようとの努力の甲斐あって、学生による講拳評価ではおおむね良好な結果が得られている。
 また、ここ数年、日本の各地で、主に犯罪に関わって中毒の事例が多発している。そのような事情からか、医師国家試験における中毒の出題数が相当に増加しているという印象を受ける。我々の担当するのは職場での中毒が主な内容だが、職場で使われる有害物質が犯罪にも使われることが多いので、中毒の講義を充実させる必要があると考えた。そのため、主要な中毒物質については、学生グループが自ら調べ、講義として発表するという、学生参加型の授業を開始した。こうした学生参加型の授業は、自ら調べることで重要な知識が身についたとして、学生からも好評である。