2. 研究内容

全体としてここでは(1) フラ ビウイルス の複製機構宿主細胞との相互作用(2)ウイルスによる 発ガン の機構について分子生物学的、細胞生物学的解析をすすめています。よく知られて いるようにウイルスは細胞無しでは”生きる”ことができません。従ってウイルスを語るときは常に宿主細胞の存在状態を示すことにもなります。JEVを含め フラビウイルスの増職性は低いものであり、他のウイルス(インフルエンザ、ポリオ等)にみられる宿主細胞の蛋白合成を止める、いわゆるshut-off は見られず、宿主細胞により依存しながら増殖していると推定されています。それはC型肝炎ウイルスにみられるウイルス持続感染(慢性肝炎)につながることになります。何故フラビウイルスはこんなに細胞に依拠しながらライフサイクルをおくるのか? こうした点を解明することは 抗ウイルス剤 の開発にもつながるものです。フラビウイルスの病原性を明らかにするため に以下にのべるような分子生物学的、細胞学的手段を用いて解析しています。


研究テーマ


(1)フラビウイルスの複製:

1.日本脳炎ウイルス(JEV)の遺伝子複製におけるRNA3’末端構造の機能 −および細胞蛋白との相互作用
JEVのゲノムRNAの3’末端には通常のmRNAにみられるpolyA鎖はつ いておらず、代わりに特異的な2次構造をとっています。この2次構造の役割に ついてはまだ不明ですが、ウイルスRNA合成の開始に必要と考えられています 。現在、3’末端構造に結合する細胞内蛋白(RNA結合蛋白)をゲルシフト法 やUVクロスリンク法を使って検出しようとしています。

2.JEVの感染性DNAあるいはRNAの作成
ウイルスの病原性に関わるウイルス遺伝子の各領域について、任意にそのアミ ノ酸配列の置換を行い、ウイルス増殖における機能を探ります。

3.JEV蛋白質の機能解析: 大腸菌および動物細胞での発現およびその機能
JEVのエンベロープ(E)蛋白質はウイルス感染時に細胞との吸着 、というウイルス感染成立において最も重要な役割を担っています。ここでは大 腸菌を用いてE蛋白を発現させ、その発現蛋白をELISAなどに用い、抗体検 査やE蛋白の機能解析を行います。また動物細胞に遺伝子導入を行い、その機能解析を行います。

4.ヒト肝細胞由来株におけるフラビウイルスの持続感染
ここではJEVを用いた持続感染系を用いています。この系は本研究室で確立 したものです。よく知られるようにC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染が慢 性肝炎、さらには肝細胞ガンへの進展へと繋がります。HCVの遺伝子にはどこ にもガン遺伝子はなく、なぜガンになるのか不明です。ヒントにはこのウイルス 持続感染があります。HCVと同類のJEVを用いてウイルス持続感染の性質を 明らかにしようとしています。

5. 抗ウイルス剤の開発

(2)ウイルスによる発ガン:

1. HCVによる発ガンの機構について
先に述べたようにHCV遺伝子にはどこにも細胞を癌化させるような遺伝子は ありません。大変ミステリアスです。我々はウイルス遺伝子の中の非構造蛋白質 NS3 に注目しました。NS3はウイルス自身の蛋白を切断するセリンプロテアー ゼです。HCV−NS3遺伝子領域のみをマウス細胞に導入した結果マウス細胞 は形質転換を起こし、細胞は癌化しました。現在この形質転換活性に関わる細胞 蛋白の検出を試みています。 酵母を用いた2−ハイブリッド法によってNS3結合性蛋白として細胞核蛋白SmDを検出しました。SmDはRNAスプライシングに関わる重要な蛋白質であり、また免疫病のSLD患者の抗体に抗SmDは多く現れるものであることなどから大いに注目されます。

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